労働政策研究報告書 No.175
転職市場における人材ビジネスの展開

平成 27年4月30日

概要

研究の目的

本研究は、プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」の中で実施する「職業動向と職業移動に関する調査研究」の一環として、転職市場における人材ビジネスの現状を分析し、その機能と構造の概要を示すことによって、失業なき労働移動実現のための労働市場政策立案に資することを目的としている。

研究の方法

次の方法を組み合わせた。

ア 既存調査結果及び先行研究の整理・分析

イ 人材ビジネス関係団体及び人材ビジネス企業に対するヒアリング調査(入手した資料の整理を含む。)

<調査対象>

  1. 人材ビジネス関係団体 3団体
  2. 人材ビジネス企業 17社

ウ インターネット上で公開されている人材ビジネス企業に関する情報

主な事実発見

(1)転職市場の動向

リーマンショック後、転職数は大幅に減少(2010年はピークの06-07年時比18.2%減)しているが、その減少は、15歳~34歳の若年層によるところが大きく、35歳以上層では、リーマンショック後も転職者数の減少が見られない。このことから、リーマン後の不況期の転職市場では35歳以上層、特に中堅層(35歳~44歳)の比重が増大している。逆にそれまでの好況期では若年層の比重が増大する様子が窺える。

入職経路を見ると、求人情報(求人広告)28.5%、ハローワーク26.5%、縁故24.2%で、入職経路全体の約8割を占め、求人情報の影響が大きい。一方、民営職業紹介所経由は3.5%にとどまり、転職市場に占めるシェアは小さい。

企業規模別に入職経路を見ると、入職した企業規模が大きくなるに従い、求人情報の割合が高まり、小さくなるほどハローワークの割合が高まるといった相補的な関係が見られる(図表1)。また、入職産業・職業別に見ても、ハローワークと求人情報ではシェア順位の高い分野(得意分野)での重なりは比較的少なく、市場の中で、一定の棲み分けがなされている様子が窺える(ただし、職業別では一定の重なりが見られる。)。

図表1 企業規模別の入職経路割合

図表1画像

出所)厚生労働省「雇用動向調査結果」(2012)から独自に作成。

年齢別入職経路割合を見ると、ハローワークでは比較的維持されている45歳以上層の入職割合が人材ビジネス(求人情報+民営職業紹介所)では大きくその割合を下げている。

また、好況期に転職者が増える状況において、増加するのが、主に若年層であることからも、転職市場において、人材ビジネスは未だ中高年齢層を十分に取り込めていない状況が窺える。

(2)転職市場における人材ビジネスの事業区分

転職市場における人材ビジネスにおける主要な事業となるのは、①求人情報事業(求職者情報事業の併設や代理店(仲介)事業を含む。)、②職業紹介事業(再就職支援によって職業紹介に結びつくものや紹介予定派遣を含む。)である。その他の採用支援事業や就職支援事業は、これらの主要な事業を補完・付随又は関連する事業として行われることが多い。

本研究において整理した求人情報事業と職業紹介事業の各区分は図表2のとおりである。

図表2 求人情報事業と職業紹介事業の各区分

図表2画像

(3)転職市場における人材ビジネスの現状

ア リーマンショック後の人材ビジネス

リーマンショック後、厳しい経営環境の変化を経験し、人材ビジネス企業は、需要拡大期にもコストを抑えて対応しようとしてきている。求人需要の停滞期にも対応できるよう、都心大手・中堅企業において多機能・総合化を図っているが、中堅企業等は、市場での規模を持つ大手企業に対して、専門化・分化(セグメント化)を進展させ、大手企業もこうした動きに対応し、セグメント化を進めている。

同時に、決定課金型の求人情報事業等新たなビジネスモデルによる展開が拡大している。

イ 求人情報事業の持つ幅広い機能

求人情報事業は、一般的には、簡単な情報収集・整理により文書によって求職者に対する情報提供を行う事業としてイメージされるが、事業の持続性を確保するためには、求人情報企業は、掲載求人の充足可能性を高めようとして、求人企業・職場のイメージ形成等を含むより幅広い「事実確認・イメージ形成機能」を担ってきた。

さらに、求職者への求人者に求人要件・求人条件の設定に対する支援と調整を行う「求人者に対する支援・調整機能」や給与等の情報を伝達し、相場を形成していく「地域の労働市場相場の形成機能」を派生・発展させてきた。

ウ 求人情報サイトによる事業の展開

若い世代ほど新規大学等卒業時の就職活動でのネット利用が常態化していたことにより、転職活動においても求人情報サイトによって応募企業を選択する方法にも慣れており、都市部でのホワイトカラー層における求人情報サイト利用の高まりの背景となっている。

求職者から見ると、求人情報サイトの利用には次のような利点がある。

  1. 無料での利用時間の自由さ等利便性の向上と主体的な転職活動の拡大
  2. 求職者情報登録による応募可能性の拡大
  3. 主体的職業選択支援機能の活用

求人情報サイトにおいては、こうした利便性をさらに向上させる求職者支援の仕組みを発展させ、求人への応募可能性を向上し、求人充足に結びつくよう工夫を施してきている。

求人情報サイトの事業展開において、求職者がそのサイトへアクセスすることが何より重要である。求人情報各社では、SEO(検索エンジン最適化)やリスティング広告といったインターネット上の広告手法が一般化しており、さらに検索上の優位性を確保するため、中堅求人情報企業をはじめ各社は、転職市場において、自らが優位に立つことができるよう、市場をセグメント化し、そこに特化した形で事業展開を行うといった傾向を強めている。

求人情報サイトの普及に伴い、求人情報事業に求める求人企業のニーズも変化してきている。求人情報サイトでは、求職者登録サイトを併設するところが多く、このような環境下では、それまで以上に、応募等のプロセスに関わることが可能になる。

応募状況等のプロセスを求人情報企業において管理できるという認知が求人者側に広がったことにより、充足可能性を高める具体策を期待するようになり、こうしたニーズに対応した様々なオプション機能が求人情報サイト運営において一般化されてきている。適合可能性のある求人候補を提示して応募を勧奨するレコメンド(応募提案)機能や登録された求職者のプロフィールをもとにメールを送るスカウト・メール・サービスが拡大した。

蓄積されていくビッグデータとの関連付けによるマッチング精度の向上を図るとともに、求職者支援として、職務経歴書作成支援等キャリア・コンサルティングサービスの提供も広く行われるようになった。

最近では、一部の求人情報企業において、企業口コミサイトを設置し、企業情報の補足的提供を行うことによって、登録求職者確保を図るということも行われるようになってきている。

このようにして蓄積される求職者情報を自らの職業紹介事業と連動させる取組みを多くの求人情報企業で行うとともに、さらに、登録された求職者情報を提携する他の職業紹介事業者にも提供される仕組みが広がっている。

登録された求職者情報は、個人情報として、求人情報企業内では、個人情報保護法に基づいて管理されており、当該企業内で設けている個人情報管理規約をウェブサイト上で掲示している。

一方、他社への求職者情報の提供については、情報サイト上での利用規約に基づく同意手続きにおいて行われるのが一般的である。しかし、他社へ提供された後の求職者情報の扱いについて、求人情報業界の中での一般化されたコンセンサスはない。

エ 求人情報誌等紙媒体と地方における事業展開

都心の求人情報企業の多くでは、求職登録サイトを併設した求人情報サイトによる事業展開を行うようになってきているが、現状の入職時インターネット利用率(就職活動のインターネット利用者は約4割、求人情報サイトの利用者は2割弱)を見る限り、求人情報サイトは、主要な転職の方法となっているとは言い難い。

求人情報誌等の紙媒体による事業展開を行っている企業も多く、紙媒体は求人情報事業において依然として深く根付いている。

求人情報誌等の紙媒体が、依然として大きなシェアを持つ理由として、求人企業側が媒体として理解しやすいという点が挙げられる。特に、地方での求人募集や販売業・サービス業といった業種での求人募集では、求人企業側から紙媒体を使った求人情報提供を望む声がより強い。

求人情報誌の最も大きな特長の一つは、地域の中で自らが応募しようとする仕事を探すときの網羅的な一覧性の高さである。

一覧性の高さは、熟練した技能や専門性を持たない求職者層が、一定の地域内で仕事を網羅的に探すときにより有効に働く。加えて、自ら求人情報誌を持ち帰るということで、転職意向が顕在化している人々に対して情報提供を行える媒体ともなっている。

都心ではあまり見かけなくなった有料求人情報誌だが、地方では、未だに多く活用されている。有料誌は、お金を払って読む価値がある媒体として地域の信頼を得ており、その信頼性の元は地域における営業力を活用した、地域での求人確保の網羅性と実際に職場を見ている情報の確かさを基礎としている。また、求人者側でも、自らのお金を払って求人情報誌を買って応募してくる求職者を好意的に見る。

新聞広告や折り込み広告では、新聞読者層に応じた潜在的求職者の掘り起こしといった他の媒体にはない特長を持つ。また、新聞広告や折り込み広告への新規参入は簡単ではないため、このこと自体が求人情報企業の大きな経営資源となっている。

求人情報誌等の紙媒体が、今後、人材ビジネスの中で、どのように位置づけられていくかについては、見解が分かれており、一方は、依然として紙媒体の利便性・特長から根強く、求められ続けるとし、他方は、時間の経過とともに減少していくとしている。こうした見解の違いが、今後の人材ビジネスの展開の違いに結びついていくと思われる。

各企業が何を主軸にして求人情報事業を展開するかについては、事業経緯による各企業の得意分野が大きく影響するが、その企業の地盤となる地域の特性も無視できない。

インターネットを軸にした新たなビジネスは、地方展開が遅れる傾向にあるが、そのこと以上に都心と地方で大きく異なるのが、営業スタイル・基盤である。

地方で求人情報事業のシェアを持つ企業では、その地域で営業員が数多くの地域の企業・事業者を直接訪問することによって作られてきた強力な営業基盤を持っており、次のような循環が長年の間に形成されてきている。

  1. 頻繁な接触による地域企業との信頼形成
  2. 応募時・採用を意識したきめ細かな求人情報の把握と提供
  3. 地域内での求人の網羅性と見聞に基づく情報提供による求職者との信頼形成

さらに、地方では、都心に比べ、高い専門性、職業的熟練を求める求人需要の比重が低い。また、地方では、都心ほど、正社員と非正社員の取り扱いの区分が明確ではない様子も窺え、こうしたことが、幅広く網羅的に地域内の求人を一覧しやすい求人情報誌をより有効に機能させる。

一方、都心企業の多くが、地方展開への投資効果に懸念を持ち、特に、ネット上での求人情報サイトを中心にした事業展開との兼ね合いから紙媒体でのシェア拡大については消極的である。

このように、地域の労働需要の特性の下に、求人情報誌の持つ特長とより適合する地方求人情報企業の営業スタイル・基盤が結びつくことによって、地域の中で高いシェアの確保につながっている。

オ 民営職業紹介事業の展開

民営職業紹介事業では、職業紹介分野によって動向が異なり、家政婦(夫)、マネキン、調理師といった伝統的な職業紹介の事業者は廃業が増える一方、ホワイトカラー層(専門職種を含む。)を対象とする事業者は、リーマンショック後の減少を経て再び増加する傾向にある。

ホワイトカラー層を中心とするビジネス系の職業紹介事業者では、自社の求人情報サイト及び登録された求職者情報との連動や他企業からの求職者情報の提供が、事業の運営において不可欠な要素となってきている。

職業紹介事業は、その事業の性格として、キャリア・コンサルタント等人手をかけることが必要とされ、そのため、成功報酬も採用者の年収の3割程度といったように、1人当たりの費用は高めに設定されている。しかし、人材ビジネス各社は、求人件数が増える労働市場の逼迫期においても、その後に起こる緩和期を想定して、人手を多くして事業を拡大していくことに対して慎重な姿勢をとっており、求人情報事業との連動・提携と併せて、職業紹介自体についても、より簡易で低コストであっせん効率を高める手法が導入されるようになってきている。

一部の企業では、職業紹介ではあるが、従来のモデルと違って、求職者と、キャリア・コンサルタント等仲介者が、直接、対面による面接を行わないであっせんを進めていくという「非対面型職業紹介」や郊外の企業に対して直接のあっせんではなく、円滑な採用活動への支援に力点をおく「ライトあっせん」を展開している。

なお、一般登録型以外の職業紹介事業の特徴・傾向としては次のとおりであった。

  • サーチ型:高度人材を潜在的な求職者としてあっせんの対象とする点が一般登録型紹介と大きく異なり、サーチ型を展開する企業は好不況に対して比較的安定的であるが、事業の性格上、その対象は限定的なものにとどまる。
  • 再就職支援型:不況期に事業需要が拡大し、好況期に、縮小する傾向を持つが、大手人材ビジネス企業では、一般登録型職業紹介事業と再就職支援事業との間を、好不況時で人材を異動させることによって対応していた。
  • 紹介予定派遣型:現状では必ずしも転職市場のミスマッチ緩和における期待された事業展開が行われている訳ではないが、今後、改正労働契約法の影響から、有期雇用社員の転職への活用が進展する可能性がある。
カ 転職市場におけるマッチングの方向性

女性の転職に関しては、人材ビジネスの一層の発展が期待できるが、雇用政策の上で課題となっている多くの分野は、人材ビジネスにおいても効率が悪い、取組みの難しい分野と見なされている。人材ビジネスでの効率の悪さは、収入を得る先である企業からの求人が少ないことや求人自体はあってもマッチング(就職・採用)率が低いことによって生じる。効率の悪いと見なされている分野では、コストを低く抑えることを一層考慮したビジネス展開を行うことが必要になる。

転職市場において、専門性、職業経験や身につけたスキル・熟練(以下「スペック」という。)により「現在、何ができるか」を重視したマッチングポリシーと、現在のスペックよりも職業への潜在的適応性により「これから何ができるようになるか」を重視したマッチングポリシーの二つが見られる。

リーマンショック後、技術系、専門職系、一部の事務部門では、当該職業に係るスペックを、より厳密な形で求められるようになってきた。一方で、転職市場全体では、それほどスペックを重視せず、将来的な適応可能性(ポテンシャル)による求人・求職が多い。また、地方では都心に比べ、スペック重視の比率はより低くなる。

スペック重視の分野として、医療系、技術系、専門分野いくつかの職業分野が挙げられた。

薬剤師、看護師等の医療分野では、10年程度の間、特に、求人情報・求職者情報サイトを通じた転職プロセスが大きく進展し、大きくシェアを伸ばした。しかし、医療関係では人的なつながりが機能するところも依然として大きく、縁故等による転職も、引き続き大きな影響を保っている。

現在は、売り手市場(需要超過)の状況にあり、求職者側が就職先、条件を選ぶという側面が強いことから、求職者の意向を強く酌んだあっせん機能の充実によって、この分野の転職・再就職は一層活発化する可能性は高い。

また、IT・ウェブ系の技術者をはじめ、工学系の技術者では、スペックを重視した需要も根強く、リーマンショク後、求人需要が低迷していた金融系専門職も、そうしたスペックを持つ者に対する需要が高まってきている。

いわゆるホワイトカラー系の職業でも、経理、財務、法務といったバックオフィス系(管理部門系)職種ではスペックを求められるようになってきている。

営業・販売職や専門性を求められない事務職では、業界・社風に合うといった人物的要素、仕事を進める上で基礎となるスタイルがより求められ、転職先も業種横断的であるが、こうした可能性重視の求人・採用は、若年層を主体とするものである。

一方で、求人需要が高まった現在でも、求人企業の要求するスペック等の緩和はあまり進んでいない。

特に、こうしたスペックを求める求人の要件の厳しさにおいて、年齢要因が大きく影響している。実際に求人企業が採用する際の年齢上限は見えない壁として存在するが、その上限年齢自体は全体の労働人口の高齢化に従って、少しずつ引き上げられている。しかし、年齢が上がるほどに、採用されるポジションも高く、スペック要件はより厳しくなり、即戦力として就職後より短期間で成果を求められるようになる。こうした即戦力を求める厳しいスペックに該当する人々は限られることから、十分にスペック該当しなくても、ポテンシャル(潜在力)の高い、より若年の層から採用することになる。加えて、同職種であっても、年齢が高くなると他業種から転職がより難しいものになることが、40歳代後半以降層の就職・採用をより難しいものにしている。

転職市場では、年齢が上がるほど、一層厳しくスペックが求められる中で、勤続中に、自らの強みを整理してそれを活かしていくということがなされないといった状況が一般化していることが、中高年者において、これまでの職業経験を活かした転職を難しくしている大きな要因になっていると思われる。

政策的インプリケーション

  1. ハローワークとの具体的な連携等を通じた求人情報事業の活性化策を検討していくこと。
  2. 求人情報及び付帯する求職者情報事業の健全性を維持・確保しながら、革新・発展していくために、業界団体を通じた主体的なコンセンサス・ルールづくりをしっかりと行っていくこと。
  3. より低コストの職業紹介の普及を推進すること。
  4. 今後、比重の高まる中高年労働者を念頭に置いて失業なき労働移動が可能となる転職市場を形成しようとするのであれば、人材ビジネスの活性化といった労働市場政策だけではなく、企業内の人材育成・キャリア形成支援策を併せて充実していくことが必要であること。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「生涯にわたるキャリア形成支援に関する調査研究」

研究期間

平成26年度

執筆担当者

亀島 哲
労働政策研究・研修機構 統括研究員

入手方法等

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