資料シリーズNo.303
高年齢者の多様なキャリアと企業の人事労務管理
―65歳定年制、定年廃止を採用した企業の事例調査―

2026年3月31日

概要

研究の目的

60代前半と65歳以降における働き方や雇用制度の違いに着目し、65歳定年制や定年廃止など、先進的な取組を行っている8社へのヒアリング調査の結果をもとに、企業の人事労務管理の実態とその特徴を明らかにする。

研究の方法

ヒアリング調査

主な事実発見

本研究は、高齢者の人事労務管理に関して、60代前半と65歳以降という年齢層の違いに焦点を置きつつ、その実態を明らかにした。具体的には、高齢者の雇用条件や仕事内容の変化、処遇、働き方の実態、具体的な企業の対応を8社へのヒアリング調査から得られた情報を基に検討した。主な発見事項は、次の通りである。

① 高齢期の仕事内容の連続性は高い。管理職を除けば、多くの企業で60歳前後も、65歳前後も仕事内容は大きく変化せず、従来の業務が継続されている。ただしこれは、労働需要が労働供給を上回っていることが大きな要因と考えられる。

② 65歳定年制を導入した企業では、多くの従業員が定年延長を選択している。一方で、再雇用制度に見られるような短時間勤務・短日数勤務など、より柔軟な働き方へのニーズが消失しているわけではなく、定年延長と柔軟な就業形態は併存しうる。

③ 65歳定年制の下でも、60歳を境に賃金を引き下げている企業がある。引き下げの理由として、役職や業務範囲、負担の軽減に伴う調整であると説明するケースと、賃金カーブの適正化や人件費構造の持続可能性を確保するためであると説明するケースが見られる。いずれも制度の合理性を示すことで、従業員の納得を得ようとしている。

図表1 65歳定年制、定年廃止を導入した企業における60代前半の仕事内容、処遇

65歳定年制、定年廃止を導入した企業における60代前半の仕事内容、処遇を表している。高齢期の仕事内容の連続性は高い。65歳定年制を導入した企業では、多くの従業員が定年延長を選択しているが、柔軟な就業形態と併存させている企業もある。また、65歳定年制の下でも、60歳を境に賃金を引き下げている企業がある。
  60歳前後の仕事の変化 基本給 評価制度 賞与
60歳前後の変化 60歳以降の適用制度
A社 変更なし(ただしリーダーからフォロワーへややシフト) 60歳到達時点の70% 60歳以前と同じ職能資格制度を適用 あり(賞与のみに反映) 60歳以前の70%
B社 ①ライン管理職:管理職から外れた場合、仕事内容を変更
②開発:基本的に60歳以前と同じ業務だが、責任の度合いを軽減
60歳到達時点の8割程度 60歳以前と同じ制度(グレード給+役割給)を適用 7段階評価(役割給と賞与に反映) 60歳以前の約半額
C社 変更なし 60歳時点の給与水準を維持 60歳以前と同じ職能資格制度を適用 60歳以前と同じ制度を適用(能力評価を昇格・昇給に、成果を賞与に反映) 60歳以前と同月数分
D社 変更なし 60歳時点の給与水準を維持
固定額
60歳以降は定期昇給を停止 あり(賞与のみに反映) 60歳以前と同月数分
E社 変更なし 60歳時点の給与水準を維持 60歳以前と同じ制度(年齢給+能力給)を適用
ただし年齢給は48歳以降頭打ち
60歳以前と同じ制度を適用(成果の評価を賞与、昇給、昇格に反映) 60歳以前と同月数分
F社 変更なし 60歳時点の給与水準を維持 60歳以前と同じ制度(基本給+役職給+職務手当等)を適用 60歳以前と同じ制度を適用(評価を賞与、昇級に反映) 60歳以前と同月数分
G社 変更なし 60歳到達時点の8割程度
65歳まで固定額
60歳以前と同じ制度(職種別賃金)を適用
ただし、60歳前後で等級を変更
60歳以前と同じ制度を適用(評価を賞与(現業職)、または賞与と月給(総合職)に反映) 60歳以前と同月数分
H社 変更なし 60歳時点の給与水準を維持 60歳以前と同じ制度を適用 60歳以前と同じ制度を適用(評価を賞与、昇給に反映) 60歳以前と同月数分

④ C社の事例から、労働条件や処遇を年齢で一律に決定する制度からの脱却を図る場合、成果に基づく評価・処遇への移行が、制度の整合性を保つ上でのトレードオフとなる可能性が示唆される。

⑤ 65歳以降は雇用の性格が変化する。65歳以降の雇用は、60代前半と比べて、雇用継続の判断基準が厳格化し、契約期間や勤務形態の柔軟性が重視される傾向にある。健康リスクの高まりやその予測困難性が、制度設計や運用に強く影響している。そのため、多くの企業において、65歳以降の雇用は60代前半の延長線上ではなく、個別判断を前提とした別のフェーズとして扱われている。実際の仕事内容も、より負担の軽い業務へとシフトするケースが多い。

図表2 60代後半以降の仕事内容、労働時間、処遇

60代後半以降の仕事内容や労働時間、処遇を表している。仕事内容は、継続しているケースが多いが、60代後半以降は、60代前半よりも柔軟な勤務形態が選択できる制度を設けている企業が多い。基本給の支給形態は様々だが、評価制度は8社中6社で導入されている。
  仕事内容 労働時間 基本給 評価制度 賞与
A社 65歳到達時と同様 一日3.5~8時間から選択 グレード+労働時間により決定 あり 評価に応じて変動
B社 65歳到達時と同様 フルタイム勤務 or 短時間勤務 固定給 あり 評価に応じて変動
C社 65歳到達時と同様 フルタイム or 個別設定型 固定給 あり 評価に応じて変動
D社 65歳到達時と同様
作業量は軽減
フルタイム勤務 or 短時間勤務 一律ではないが、全体的には65歳時の約8割 なし 1ヶ月分
E社 65歳到達時と同様 4種類(フルタイム、短日数、短時間など) 業務種別と過去の経験や役職に応じて決定 あり 評価に応じて変動
F社 65歳到達時と同様 週3日以上、1日4時間から選択可 65歳以前と同じ制度を適用 65歳以前と同じ制度を適用 65歳以前と同月数分
G社 65歳到達時と同様 3種類(フルタイム、短日数、短日数&短時間) 職種別時給制 なし なし(年2回の奨励金あり)
H社 65歳到達時と同様 本人希望により決定 65歳以前と同じ制度を適用 65歳以前と同じ制度を適用 65歳以前と同月数分

⑥ 内部労働市場を前提としたリスキリングの有効性が示唆される。例えば管理職経験者が現場業務に戻るための再教育などがこれに該当し、高齢期の就業継続を支える仕組みとして機能している。また、こうしたリスキリングをキャリア支援と連動させることで、本人の納得感や就業意欲を高める効果が確認される。

⑦ シニア層向けの健康管理・安全対策は、業種や職種特性に応じて展開されている。身体的負荷や安全リスクが高い業務では対策が手厚い一方、他の職種では生活習慣への配慮が重視される。また、これらの取組はリスク対応にとどまらず、安心感やエンゲージメントの向上にも寄与している。

⑧ 企業側から見た今後の課題として、シニア層増加時の選抜・配置・役割設計、人材育成と技能伝承、賃金バランスが示された。特に、60歳以上の増加を見据え、再配置や役割転換を円滑に進める体制整備や、経験活用と若年育成の両立、賃金制度の持続可能性が重要な論点となっている。

政策的インプリケーション

65歳定年制を採り入れると多くの人はこれを選択するが、柔軟な働き方のニーズがないわけではないこと、65歳までの働き方と65歳以降の働き方は質的に異なり、企業だけでなく労働者の多くも柔軟な働き方を希望していること、キャリア支援と連動した内部労働市場型リスキリングの有効性が示された。

政策への貢献

研究結果を高齢者雇用対策課、人材開発政策担当参事官室に提供。EBPMアクションプランに活用予定。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様な人材と活躍に関する研究」
サブテーマ「多様な人材と活躍に関する研究」

研究期間

令和7年度

執筆担当者

森山 智彦
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
張 佳潔
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー

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