ディスカッションペーパー26-02
2020年高年齢者雇用安定法改正は60歳代後半の雇用を増やしたのか
―「高年齢者雇用状況等報告」業務データを用いた分析―

2026年3月13日

概要

研究の目的

2020年高年齢者雇用安定法改正が60歳代後半の雇用者数や全従業員に占める割合に与えた影響について、「高年齢者雇用状況等報告」の業務データを用いて検証する。

研究の方法

厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」業務データの二次分析

主な事実発見

本研究は、70歳までの就業機会確保の努力義務を規定した2020年高年齢者雇用安定法改正が企業の60歳代後半の雇用者数や全従業員に占める割合に与えた影響を検証した。特に、法改正以前は66歳以降の就労を可能とする制度を導入していなかった企業(処置群)に対して、制度を既に導入していた企業(対照群)よりも大きな雇用拡大効果がもたらされたのかに焦点を当てた。分析には、2017年から2024年までの、厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」の業務データを用い、差の差の分析(difference-in-differences)によって推定した。主な事実発見は、以下の2点である。

  1. 2020年の高年法改正による65~69歳の常用労働者数の増加効果は、2019年時点における対照群の企業よりも、処置群の企業において、より大きかった(図表1)。前者よりも後者の方が、2019年から2020年にかけては0.14~0.16人、2021年にかけては0.18~0.2人、65~69歳の常用労働者数の増加幅が大きかった。しかし、2020年を基準に推定した場合は、処置群と対照群間の増加幅の違いは確認されなかった。基準年の違いによって、このような差が生じた理由として、第一に、改正法が制定された2020年の時点で、一定数の企業が60代後半層を対象とした制度改訂と雇用拡大をすでに進めていたこと、第二に、施行年である2021年には制度改訂を行った企業であっても、コロナショックのため雇用の拡大には慎重であったことが示唆される。

    図表1 65~69歳の常用労働者数に対する2020年高年法改正の効果(DID)

    2019年基準

    2020年の高年齢者雇用安定法改正による65~69歳の常用労働者数の増加効果は、2019年時点における対照群の企業よりも、処置群の企業において、より大きい。 しかし、2020年を基準に推定した場合は、処置群と対照群間の増加幅の違いがない。
      モデル1(ウェイトなし) モデル2(ウェイトあり)
    Coef. Robust
    s.e.
    Coef. Robust
    s.e.
     
    処置群×年  
     2017年 0.010 0.135 0.085 0.157
     2018年 -0.138 0.087 -0.115 0.104
     2019年(ref)  
     2020年 0.158 0.050 0.142 0.056
     2021年 0.195 0.075 0.177 0.087
     2022年 0.290 0.111 0.259 0.128
     2023年 0.510 0.115 0.446 0.131
     2024年 0.548 0.127 0.460 0.145
    N 1,186,312 1,163,952
    N (groups) 161,378 158,412

    2020年基準

      モデル3(ウェイトなし) モデル4(ウェイトあり)
    Coef. Robust
    s.e.
    Coef. Robust
    s.e.
     
    処置群×年  
     2017年 0.180 0.161 0.292 0.189
     2018年 -0.119 0.096 -0.065 0.113
     2019年 -0.024 0.053 0.003 0.060
     2020年(ref)  
     2021年 0.010 0.053 0.005 0.061
     2022年 0.054 0.084 0.048 0.099
     2023年 0.288 0.093 0.265 0.108
     2024年 0.284 0.103 0.237 0.120
    N 1,203,973 1,181,329
    N (groups) 164,151 161,134
  2. 全常用労働者に占める65~69歳の割合を被説明変数にした場合は、2019年を基準にしても2020年を基準にしても、同様の結果が得られた(図表2)。Overlap weightを用いて重みづけを行った場合も、処置群固有の線形トレンド項を法改正前の期間のみを統制した場合も、処置群の方が65~69歳の割合の増加幅が大きかった。しかし、分析対象全期間の処置群固有の線形トレンド項を統制すると、これらの正の効果はほぼ消失した。このことから、2020年高年法改正は、65~69歳の割合に対して、処置群により大きな正の効果を及ぼしているが、同時に平行トレンドに依存している部分がある程度あるものと解釈される。

    図表2 65~69歳の常用労働者割合に対する2020年高年法改正の効果(DID)

    2019年基準

    全常用労働者に占める65~69歳の割合に対する2020年の高年法改正については、概ね処置群の方が対照群よりも割合の増加幅が大きい。
      モデル5(ウェイトなし) モデル6(ウェイトあり)
    Coef. Robust
    s.e.
    Coef. Robust
    s.e.
     
    処置群×年  
     2017年 -0.119 0.023 -0.140 0.024
     2018年 -0.118 0.018 -0.123 0.018
     2019年(ref)  
     2020年 0.134 0.017 0.150 0.017
     2021年 0.272 0.021 0.290 0.022
     2022年 0.374 0.025 0.401 0.026
     2023年 0.490 0.028 0.527 0.029
     2024年 0.554 0.031 0.600 0.031
    処置群の傾き  
    対照群の傾き  
    N 1,186,312 1,163,952
    N (groups) 161,378 158,412
      モデル7
    (基準年以前のトレンドを考慮)
    モデル8
    (全期間のトレンドを考慮)
    Coef. Robust
    s.e.
    Coef. Robust
    s.e.
     
    処置群×年  
     2017年 ー 0.100 0.029
     2018年 -0.053 0.014 -0.003 0.020
     2019年(ref)  
     2020年 0.150 0.017 0.030 0.015
     2021年 0.290 0.022 0.050 0.018
     2022年 0.401 0.026 0.042 0.018
     2023年 0.527 0.029 0.047 0.016
     2024年 0.600 0.031 ー
    処置群の傾き 0.134 0.006 0.107 0.003
    対照群の傾き 0.064 0.010 -0.013 0.005
    N 1,163,952 1,163,952
    N (groups) 158,412 158,412

    2020年基準

      モデル9(ウェイトなし) モデル10(ウェイトあり)
    Coef. Robust
    s.e.
    Coef. Robust
    s.e.
     
    処置群×年  
     2017年 -0.166 0.026 -0.203 0.026
     2018年 -0.174 0.022 -0.193 0.022
     2019年 -0.066 0.016 -0.079 0.017
     2020年(ref)  
     2021年 0.111 0.016 0.114 0.016
     2022年 0.206 0.020 0.217 0.020
     2023年 0.331 0.023 0.349 0.024
     2024年 0.391 0.026 0.423 0.027
    処置群の傾き  
    対照群の傾き  
    N 1,203,973 1,181,329
    N (groups) 164,151 161,134
      モデル11
    (基準年以前のトレンドを考慮)
    モデル12
    (全期間のトレンドを考慮)
    Coef. Robust
    s.e.
    Coef. Robust
    s.e.
     
    処置群×年  
     2017年 ー 0.114 0.036
     2018年 -0.058 0.016 0.018 0.028
     2019年 -0.011 0.014 0.027 0.019
     2020年(ref)  
     2021年 0.114 0.016 0.008 0.014
     2022年 0.217 0.020 0.006 0.016
     2023年 0.349 0.024 0.031 0.015
     2024年 0.423 0.027 ー
    処置群の傾き 0.113 0.004 0.112 0.004
    対照群の傾き 0.045 0.008 0.006 0.006
    N 1,181,329 1,181,329
    N (groups) 161,134 161,134

政策的インプリケーション

2020年の高年齢者雇用安定法改正は、法改正以前に66歳以降の就労を可能とする制度を導入していなかった企業に対して、制度を導入済みの企業よりも、大きな雇用拡大効果をもたらしていた。具体的には、前者の65~69歳の常用労働者数や全常用労働者に占める65〜69歳の割合を、より引き上げる効果が見られた。

政策への貢献

研究結果を高齢者雇用対策課、人材開発政策担当参事官室に提供。EBPMアクションプランに活用予定。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様な人材と活躍に関する研究」
サブテーマ「多様な人材と活躍に関する研究」

研究期間

令和7年度

執筆担当者

森山 智彦
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
張佳潔
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー

関連の研究成果

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。