資料シリーズNo.266
若年既卒者の雇用動向
―厚生労働省「雇用動向調査」二次分析―

2023年3月31日

概要

研究の目的

新規学卒一括採用の慣行が根強いわが国では、新卒時の安定的な職業への移行の可否によってその後の中長期的なキャリアが大きく左右される。そのため近年、若者が卒業後にも安定的な職業へ移行できる機会を広げるべく様々な対策が進められている。本研究は、それらの既卒者支援の発展にむけての基礎資料として、雇用期間に定めのない一般労働者(以下「正社員」)として入職するまでの経緯や入職先での状況に、新卒就職者と既卒就職者との間でどのような違いがあるのか、また既卒者の中でも就業経験や個人属性によってどのような違いがあるのか、情報を収集し精査することを目的とする。

研究の方法

厚生労働省「雇用動向調査」の平成26年(2014年)~令和2年(2020年)の上半期(1月~6月)・下半期(7月~12月)の事業所調査、入職者調査、離職者調査について、計14回分の個票情報の使用許可を得た。そのうち本資料シリーズでは、事業所調査と入職者調査の7年間の累積データをウェイトバックし復元値を二次分析した。

主な事実発見

  • 2014年から2020年の累積データを集計した結果、新卒者の定期採用が行われる上期に新卒者または卒業後3年以内既卒者を正社員として採用した事業所のうち、7割強が新卒者を採用し、約3割が3年以内既卒者を採用していた。上期と下期を合算して年間での比率を算出すると、約6割が新卒者を採用し、約5割が3年以内既卒者を採用していた。
  • 学歴計でみると3年以内既卒者を採用した事業所数は上期と下期とで同程度だが、大学卒および専門学校卒の3年以内既卒者を採用した事業所数は上期、高校卒の3年以内既卒者を採用した事業所数は下期の方が多い。
  • 新卒就職者も3年以内既卒就職者も約半数を大学卒が占めるため、若者全体の雇用動向には大学卒の動向が色濃く反映される。しかし性・学歴別に年間の若年入職者に占める3年以内既卒就職者の比率をみると男女とも高校卒が突出して高い。また3年以内既卒就職者の入職先事業所の特徴や入職までの経緯は、性・学歴や就労経験、入職時期によって多様である。
  • 非大卒の3年以内既卒就職者は就労経験がない場合、卒業後も学校経由で入職する傾向がある。一方で、大学卒の3年以内既卒就職者は就労経験がない場合も広告経由が最も多い。高学歴者が在学中の就職活動時から求人情報を活用しているのに対し高校生は情報収集に慣れていないことや、専修・高専・短大には職業に直結した専門教育を行う学校が多いため、学校と企業の関係が密であることが背景にあると思われる。
  • 3年以内既卒就職者のうち前職がある人について前職離職から現職入職までの期間を性・学歴間で比べると、大学卒男性では3分の1強が15日未満という短期間に現職へ転じた。対照的に高卒男性で15日未満と答えた人は4分の1に過ぎない。若い高卒男性は、転職先の内定を得てから離職するといった計画的行動をとる人が少ない可能性がある。

図表1 正社員への若年入職者に占める新卒就職者と3年以内既卒就職者の構成比
(2014年~2020年累計、性・学歴別)

(Nはケース数、単位:%)

図表1画像:正社員への若年入職者に占める新卒就職者、上期の3年以内既卒就職者、下期の3年以内既卒就職者の比率を性・学歴別に示したところ、男女とも3年以内既卒就職者の比率は高校卒で最も高い。

図表2 3年以内既卒就職者の入職前の就業経験
(2014年~2020年累計、入職時期・性・学歴別)

図表2画像:3年以内既卒就職者の入職前の就業経験は、上期より下期の入職者で「就労経験なし」が多い。学歴間を比べると、他の学歴より高校卒は「就労経験なし」の比率が高い。

政策的インプリケーション

既卒者への支援を設計する際は、人口規模の上で主要な対象者となる大学卒と、困難度が高い非大卒層(特に高校卒)の両者をカバーできるよう注意を払う必要がある。また、下記のような学歴ごとに異なる特徴にも配慮が必要である。

<学校と職業との関連度>

  • 専門学校卒や高専・短大卒は学校で学ぶ内容と職業とが強く関連しているため、学歴ごとではなく、目指す職業別に支援を行うことが既卒者支援においても有効だろう。

<採用時期>

  • 高校既卒者は欠員補充等の個別の労働需要による求人が多い下期に採用される傾向がある。年度途中に高校既卒者を雇用する事業所に公的訓練や若者を孤立させないための支援を提供することが、職場定着支援として有効だろう。
  • 専門学校既卒者は新卒者の定期採用が行われる上期に採用される傾向がある。定期採用では就職できなかった層を支援するには、専門学校卒への労働需要を持つ事業所に、定期採用に限らず広く応募機会を設けるよう呼びかける必要がある。

<入職経路>

  • 若さゆえ経験が少ない高校既卒者は、情報収集や計画的な転職活動に不慣れなので、情報提供と併せて相談機関としてのハローワークの役割が期待される。
  • 非大卒層は卒業後も学校の支援を受ける傾向があるので、既卒者が応募可能な求人情報など卒業後の就職活動に有益な情報を、学校経由でも伝えていくことが効果的な支援につながる可能性が高い。

政策への貢献

若年労働者の能力開発や職場定着にむけての支援対策、および若年労働者を雇用する事業主に対する雇用管理改善支援対策を立案する際の資料を提供する。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様な人材と活躍に関する研究」
サブテーマ「多様な人材と活躍に関する研究」

研究期間

令和4年度

執筆担当者

岩脇 千裕
労働政策研究・研修機構 主任研究員
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 研究顧問

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

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