労働政策研究報告書 No.214
非典型的キャリアをたどる若者の困難と支援に関する研究

2022年3月24日

概要

研究の目的

わが国では、新卒時に安定した職業へ移行し長期的な企業内訓練と柔軟な配置転換により職務遂行能力を伸ばしていくキャリアが典型的なものとして捉えられてきた。しかし、こうしたキャリアを実現せしめて来た日本的雇用システムが見直されつつある今日、同システムに適合的でない雇用管理の下で働く若者のキャリア形成の状況と課題を明らかにする必要がある。

本報告の目的は、労働政策研究・研修機構がプロジェクト研究「若年者の雇用の質とキャリア形成のあり方に関する研究」において実施した以下の調査研究成果を、上記の問題意識に基づき「学歴」を軸に再分析することで、各学歴の若者のキャリア形成上の課題とその背景を明らかにし、支援に向けて提言を行うことにある。

研究の方法

以下の2つの調査結果を再分析する。

  1. JILPT「第2回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査」Webモニター調査
    回答者
    20~33歳(2018年4月1日時点)の正社員経験のある高卒~修士卒

    調査シリーズNo.191資料シリーズNo.221参照

  2. 厚生労働省「平成30年若年者雇用実態調査」(二次分析)
    回答者
    事業所調査:全国の常用労働者5人以上の事業所
     
    個人調査:上記に就業する15~34歳の若年労働者

    資料シリーズNo.236参照

主な事実発見

  1. 新規学卒者の性・学歴別就職後3年以内離職率は専門学校卒の女性で最も高い。雇用主が長期雇用や企業内訓練に消極的であることや、若者自身の転職・独立志向や専門家志向は、専門学校新卒者の就職後3年以内離職と有意な関連がない。彼らの離職の最大の要因は、初任給から給与が減額されたまたは変化がないことや、長時間労働等を伴う急速な昇給を経験したことである。
  2. 大学を卒業後、非正規や無業を経た後に正社員へ移行した既卒採用正社員は、同学歴の新卒採用正社員と比べて、女性は初任給から給与が減額される傾向が、男性は初任給から給与額が変化しない傾向と仕事内容が限定されている傾向がある。初任給から給与が減額されるまたは変化しないことは、既卒者の離職確率を高める強力な要因になっている。
  3. 高卒者は大卒者に比べて初職での仕事や働くことの悩みの相談相手の幅が狭い。こうした社会的ネットワークの幅の狭さは、離職後も変わらない可能性が高い。高卒者は大卒者に比べて初職就職までの社会経験は乏しく、初職就職先を決めるプロセスも学校の支援を受けてのものであった経緯を考えると、初職離職後の進路選択のための情報取集も偏ったものになりがちと思われる。
  4. 大学院修了後に非正社員となった若者がさらに低所得層になった確率は、男性では専門技術職以外の職業に就いた場合に、女性では高学歴層ならば「備えていて当然」の「マナー・社会常識」を雇用主が育成目標に掲げている場合に高い。彼らは「教育過剰」の状態にあると推察され、経済的困難に加えて専門的スキルの劣化が危ぶまれる。

図表1 性・学歴別新規学卒者就職後3年以内離職率

図表1画像

出所:JILPT(2019)「第2回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査」より作成

図表2 大学既卒者の初職の特徴を明らかにするためのロジスティック回帰分析

図表2画像

出所:JILPT(2019)「第2回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査」より作成

政策的インプリケーション

  1. 専門学校新卒者の就職後3年以内離職は、女性は労働時間の短縮、男性は経営層と一般従業員の交流や入職直後の丁寧な説明により抑制できる可能性が示唆されたが、その影響力は賃金の支払われ方の影響力に比べて極めて小さい。まずは賃金等の基本的な労働条件の改善が必要である。
  2. 大学卒業までのキャリアが非典型的であることが新卒時の正社員への移行可能性を低下させ、女性では既卒者として正社員になった場合の離職確率をも高める。若者の安定雇用への移行と職場定着を目標に予防的支援を行うには、若者の在学中の経験から就職活動、安定雇用への移行、職場定着まで含む初期キャリア形成過程の全体を射程に入れた調査研究を実施する必要がある。
  3. 高卒離職者はハローワークと公共職業訓練を比較的多く活用するので、公的支援が高卒離職者の弱点(社会的ネットワークの乏しさ)を補える可能性は高い。若者対象のハローワークで実施中の個別のキャリアコンサルティングは、高卒離職者を対象とする場合は特に丁寧に時間をかけて行うべきだろう。また公共職業訓練や求職者支援訓練、教育訓練給付金制度などの活用についてもわかりやすく積極的に伝えることが重要だろう。
  4. 大学院修了後、無業・非正規雇用から正規雇用かつ非低所得層に辿り着いた者は、大学卒で同様の経路を辿った者よりも、移行過程で先生や先輩の意見を参考にし、学校の職業指導の効用を高く評価する者の割合が高い。大学院卒非正規雇用者に対しては、大学が主体となり教員や先輩等の人脈を卒業後も利用できる仕組を作るなどの支援を行うことが有効だろう。

政策への貢献

若年労働者の能力開発や職場定着にむけての支援対策、および若年労働者を雇用する事業主に対する雇用管理改善支援対策を立案する際の資料を提供する。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様なニーズに対応した職業能力開発に関する研究」
サブテーマ「若者の職業への円滑な移行とキャリア形成に関する研究」

研究期間

平成30年~令和3年度

執筆担当者(執筆順)

岩脇 千裕
労働政策研究・研修機構 人材育成部門 主任研究員
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 研究顧問
久保 京子
労働政策研究・研修機構 人材育成部門 アシスタントフェロー

関連の研究成果

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