調査シリーズNo.191
若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ
(第2回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)

2019年3月29日

概要

研究の目的

新卒一括採用制度が根強く残る日本社会では、就労経験が十分ではない新卒者以外の若者が応募できる正社員の求人は量的にも質的にも限られている。こうした機会の格差は、入職後の労働条件や教育訓練、職場環境などの違いにつながり、ゆくゆくは職場への定着/離職にも影響を及ぼすのではないだろうか。また、正社員の仕事を早期に離職した人とある程度経験を積んでから離職した人とでは、離職に至った経緯や理由、離職後のキャリア形成状況も異なるのではないだろうか。

本研究はこれらの問いに取り組むことによって、若者が安定的かつ健全にキャリアを形成できる職場・社会のあり方を探索することを目的とする。具体的には、「第2回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査」の結果を元に、若者が初めて正社員として勤務した会社等(以下「初めての正社員勤務先」)を離職した背景を、新卒者(卒業月またはその翌月に就職)と既卒者(卒業月の翌々月以降に就職)とで比較する。さらには、離職に至った経緯や理由、離職後のキャリア形成状況を、「初めての正社員勤務先」での勤続期間が異なるグループ間で比較する。

研究の方法

平成30年8月に、以下の条件をすべて満たす若者を対象とするWebモニター調査を実施した。回答者6,357名の中から、平成24年版「就業構造基本調査」に基づき性・年齢層・学歴による割り付けを行い、5,631名を分析対象として抽出した。

調査対象

  1. 生年月:1984年4月~1998年3月生まれ(2018年4月2日時点で20~33歳)。
  2. 職歴:正社員として勤務した経験が1回以上ある人。
  3. 最終学歴:高校、短期大学、高等専門学校、専修学校(専門課程)、大学、大学院修士課程を卒業・修了した人。

調査項目は2016年に実施した同名調査を踏襲した。さらに近年の「働き方」に対する関心の高まりを考慮し、「給与」「労働時間制度」「労働時間・空間・職務の限定性」などを追加した。また離職後のキャリアについてもより詳細に尋ねる項目を追加した。

主な事実発見

  1. 新卒時の就職の可否と、「初めての正社員勤務先」を離職した人の割合(離職率)との関係は性・学歴によって異なる。おおむね、既卒者の中で最も離職率が高いのは卒業から1年以内に就職した人である。その背景としては、就労経験は新卒者と同程度であるのに経験豊富な転職希望者と並び主体的に就職活動を行わねばならないこと、既卒者が利用しがちな応募経路は不正確な情報を含む傾向があり、入職前に得た情報と実際の労働条件が異なることは離職の要因になることなどが考えられる。
  2. 既卒者は、新卒3年以内離職率が高い産業(小売業、サービス業、医療福祉、教育学習支援など)や中小企業、同じ学歴の新卒者があまり就かない職種(その多くは離職傾向と関連が強い)に就職する傾向がある。さらに既卒者は、「短期間に何人もの従業員が採用されては辞めていく」「業務の中で法令倫理違反が行われている」といった特徴をもつ企業に就職する傾向があるが、これらの社風・企業体質が離職傾向に及ぼす影響力は新卒者ほどではない。
  3. 新卒者と比べて既卒者では、研修等の教育訓練や上司・先輩から働きかけるコミュニケーションが不足しがちであり、指示が曖昧なまま放置された人や、初めから先輩と同等の仕事を任せられた人の割合が高い。こうした扱いは概ね離職傾向と関連するが、既卒者では勤続傾向と関連する場合もある。反対に、新卒者では勤続傾向と関連する教育訓練や職場コミュニケーションが、既卒者では離職傾向と関連する場合もある。
  4. 若者の職務遂行能力は、性・学歴・離職の有無に関わらず、長く働くほど向上する。勤続期間が短いうちは企業側の期待水準に到達できない若者が離職し、勤続期間が長くなると能力の高い人がキャリアアップのために離職していくため、勤続期間が長くなるほど離職者と勤続者の能力水準は拮抗し、勤続3~5年を超えると離職者の方が高くなる。
  5. 「初めての正社員勤務先」を離職した人のうち、調査時点で正社員に転職している人は、「初めての正社員勤務先」を離職した理由となった事柄(賃金額、労働時間、職業生活への満足度)が現在の勤務先では改善している。例えば「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」ため離職した人の離職直前の週あたり実労働時間の平均は、男性で57.2時間、女性で52.5時間だが、彼・彼女らのうち調査時点で正社員に転職している人の現在の勤務先での週あたり実労働時間の平均は、男性で47.0時間、女性で42.0時間と大幅に短くなっている。

図表1 卒業から入職までに要した期間別「初めての正社員勤務先」離職率(性、学歴別)

単位:% 太字は実数

図表1画像

図表2 「初めての正社員勤務先」入職後3ヶ月間に経験した職場でのコミュニケーション

(MA,性・学歴・経歴別)

図表2画像画像クリックで拡大表示

図表3 「現在の勤務先」と「初めての正社員勤務先」での職業生活の諸側面に対する満足感

(満足=5、やや満足=4、どちらでもない=3、やや不満=2、不満=1とした時の平均値)

図表3図表画像クリックで拡大表示

政策的インプリケーション

  1. 既卒者の年齢や職務遂行能力、就労経験等は個人差が大きく、新卒者と同じ扱いが職場定着に有効とは限らない。まずは既卒者の多様性を把握・整理するため、新卒者と同様に就職状況、離職率などを定期的に調査し、データを蓄積する必要がある。また、学校の支援を離れた既卒者の就職活動プロセスは新卒者と大いに異なり、なかでも応募経路の多様性に由来する情報の正確性に問題がある。民間の職業紹介サービス、インターネットの求人サイト、求人広告などについても、提供情報の正確さを義務づけ、ミスマッチを防ぐことが必要だろう。
  2. 既卒者は新卒者の3年以内離職率が高い産業や中小企業、離職リスクの高い特徴(労働者の入れ替わりが激しい、法令・倫理違反がある、長時間労働、教育訓練が少ない)のある企業へ就職する傾向がある。一方、既卒者の中でも年齢が高く就労経験豊富な者は、不適切な雇用管理への耐性が高く、問題が生じても表に現れにくい。しかし、たとえ若者自身が受け入れたとしても不適切な雇用管理状態が続くことは、若者自身の心身の健康を損なうだけでなく、長期的には従業員の疲弊により企業活動も負の影響を受ける。若者本人に対してだけでなく、若者を雇用する企業に対しても適切な雇用管理を行うよう指導や助言が必要である。
  3. 将来的に離職するか否かに関わらず、働き続けること自体が若者の職務遂行能力を向上させる。しかし能力水準が低い若者は自信を失い早期離職する傾向がある。若者自身が不本意に離職する事態を防ぐためには、雇用管理改善に加えて、採用時のマッチング向上、能力開発促進、育成を見据えた業務の計画的配分、入職後初期に相談できる企業外窓口の設置などが効果的であろう。一方、離職後に正社員へ転職できた人たちの中には、前職での問題点を解決できた人も少なくないことから、キャリアアップ等の前向きな理由による転職や、希望の労働条件を獲得するための転職は、積極的に支援していくことが大切である。

本文

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

お知らせ

本文及び付表に以下の訂正がありました。本HP掲載のPDFには訂正が反映されています。(2019年6月13日)

  • 本文第1章 図表1-8①(p.38) 上段中央の専門短大高専卒男性のグラフ

    点線丸囲いで強調する値を新卒者の回答率から既卒者の回答率へ修正しました(「労働条件・休日・休暇の条件がよい」「20.0」→「25.0」、「他に内定を得ることができなかった」「7.8」→「13.1」)

  • 本文第3章 図表3-4①(p.66)の上段右側のグラフ

    表示が見切れていた凡例を見えるようにしました(「■ 大学・大学院新卒(N=1,381)」を追記)。

研究の区分

プロジェクト研究「多様なニーズに対応した職業能力開発に関する研究」
サブテーマ「若者の職業への円滑な移行とキャリア形成に関する研究」

研究期間

平成30年度

研究担当者

岩脇 千裕
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
金崎 幸子
労働政策研究・研修機構 元所長
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 研究顧問
千葉 将希
労働政策研究・研修機構 アシスタント・フェロー
中山 明広
労働政策研究・研修機構 統括研究員

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