資料シリーズ No.221
若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ
(第2回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査 ヒアリング調査)

2020年3月13日

概要

研究の目的

近年のわが国では、若者の職場への定着促進が重要な政策課題として位置付けられている。この課題に対して労働政策研究・研修機構(以下「JILPT」)は、若者が最終学歴の学校を卒業後初めて正社員として勤務した会社(以下「初めての正社員勤務先」)を離職した背景と離職後のキャリア形成状況を把握するため、2016年と2018年の2回に渡り、若者を対象とするWebモニター調査(アンケート調査)を実施した(調査シリーズNo.164No.191)。さらに2018年調査では、アンケート調査回答者の中から「初めての正社員勤務先」を勤続3年以内に離職した「早期離職者」を30人選び、ヒアリング調査を実施した。本報告はこのヒアリング調査の結果をとりまとめたものである。

研究の方法

  1. 以下の3つの条件に該当するモニターを対象に、2018年9月にアンケート調査を依頼した。

    ① 2018年4月2日時点で20歳~33歳(1984年4月~1998年3月生まれ)。

    ② 高校、専門学校、短期大学、高等専門学校、大学、大学院修士課程を卒業・修了した。

    ③ 正社員として勤務した経験が1回以上ある。

  2. アンケート調査の回答者から、図表1の条件に基づき「初めての正社員勤務先」を勤続3年以内に離職した早期離職者を30人選出してヒアリング調査を実施し、中学校在学時から調査時点に至るまでの長期的なキャリアについて尋ねた。

図表1 ヒアリング調査対象者の選定基準

図表1画像

主な事実発見

<1>「初めての正社員勤務先」における早期離職の背景

  1. 企業が正確な職業情報を提供したつもりでも入職後にミスマッチが発生した
    • 採用選考時に若者に過大な期待を抱かせる曖昧な言動があった。
    • 採用担当部門が伝えた公式情報と現場での運営とのズレ。
    • 情報の解釈の仕方が若者と企業とで異なる。
    • 若者が雇用契約の内容を確認しないまま入職した。
    • 若者の知識・経験不足に起因する根拠のない自信や思い込み。
  2. 職場で法令違反や倫理的に不適切な行為が放置されていた
    • 経営資源不足・達成困難な目標設定→法令・倫理を犯しても短期的業績の達成を優先。
    • 労働者自身が職場の「空気を読んで」行為に荷担してしまう。
    • 不適切な行為をした人が有能な場合、離職されると困るため、被害者が「和を乱す」存在として扱われる。
    • 若者が通報・相談しない。
  3. マネジメントの不行き届きが若者の採用・育成に影響
    • 人事部門と現場とが情報を共有・協働していない。
    • 配属後の教育が現場任せで部署や上司ごとの当たり外れが大きい。
    • 上司・先輩と若者の間のコミュニケーション不足。
    • 業務過多・人手不足で人材配置に余裕がない。
    • 業務配分が属人的でお互いに助け合えない。
    • 個人単位の成果主義で短期的成果を求める→上司・先輩が若者を敵視・お荷物扱い。

<2>早期離職後のキャリア形成

早期離職者の離職後のキャリアは5類型に分類できる(図表2)。これらを分ける要因は以下のとおりである。

図表2 早期離職後のキャリアの5類型

図表2画像

  1. 入職時および離職時(転職活動時)の社会変動や景況変化。
  2. 若者本人の属性(性・学歴・居住地)。
    • 高学歴者は戦略的・主体的にキャリアを形成する傾向。
    • 都市部の大卒男性は「正社員」として転職するたびに前職での問題が改善されていく傾向。
    • 女性・非大卒・非都市部の若者は「正社員」の賃金の低さや労働条件の厳しさを背景に、非典型的なキャリアを選択する傾向。非正規職の掛け持ち、副業、独立起業、投資などでキャリアの補強を試みる人もいる。
  3. 正社員志向の人でも一つの組織で勤め上げることを目指す人は少ない。
  4. 「初めての正社員勤務先」で心身にダメージを受けた人は離職後のキャリア形成が困難。
    • 彼・彼女らが冷静な判断をするには、一定期間の療養と信頼できる人からの客観的な視点の提供が必要。
    • 療養せず性急に「正社員」を目指すと、むしろ失業期間が長期化する恐れがある。

政策的インプリケーション

若者の不本意な早期離職を防止し安定的なキャリア形成を支援するには以下の取組が必要。

  1. 企業・職場
    • 採用選考から配属後の教育まで、人事部門と現場が協働して方針・プログラムを作成・運営。
    • (特に新人を配置した現場での)人材配置・業務配分の適正化。
    • 行き過ぎた成果主義の改善(チーム単位で評価・短期的成果を求めない)。
    • あらゆる職階の従業員に対する「働くことのルール」「コンプライアンス」研修。
    • 若者と上司・先輩、現場と人事部門とのコミュニケーション活性化。
  2. 学校・行政
    • 離転職を含む長期的キャリアを考えさせるキャリア教育。
    • キャリア教育へ「シティズンシップ教育」「ライフ・キャリア」の視点を導入。
    • 若者が自身の状況を「問題」と認識できるように啓発。
    • 入職前の若者に、職場トラブル等発生時の具体的な対処法や相談窓口を案内。
    • 心身にダメージを受けた若者が、家族の経済的・精神的支援を得られない場合でも、十分に療養した上で段階的に就労へと移行できるよう支援する。
    • 非正規職の掛け持ち・副業等の働き方に対する労働基準の責任の所在や、個人事業主の労働者性についてルールを明確化。

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「多様なニーズに対応した職業能力開発に関する研究」
サブテーマ「若者の職業への円滑な移行とキャリア形成に関する研究」

研究期間

平成30年度~令和3年度

執筆担当者 (五十音順)

岩脇 千裕
労働政策研究・研修機構 主任研究員
小黒 恵
労働政策研究・研修機構 アシスタント・フェロー
金崎 幸子
労働政策研究・研修機構 元研究所長
清原 悠
労働政策研究・研修機構 アシスタント・フェロー
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 研究顧問
千葉 将希
労働政策研究・研修機構 アシスタント・フェロー
山口 塁
労働政策研究・研修機構 アシスタント・フェロー

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