調査シリーズNo.164
若年者の離職状況と離職後のキャリア形成
(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)
- お詫びと訂正
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本文10~12ページに誤りがございましたので、訂正いたしました。
2月17日までにダウンロードされた方は下記の最新版を再度ダウンロードして下さい。ご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。(平成29年2月17日)
概要
研究の目的
若年正社員の離職状況および離職後のキャリア形成状況を把握し整理することで、若年者が安定的かつ健全にキャリアを形成できる職場の条件および社会のあり方を探索することを目的とする。
研究の方法
Webモニターアンケート調査「若年者の能力開発と職場への定着に関する調査」
- 調査時期:
- 平成28年2~3月
- 調査対象:
- 以下の条件に全て該当する人が本調査へ進むようスクリーニング調査を実施
- 生年月:1982年4月~1995年3月生まれ(調査時21~33歳)
- 職歴:正社員として勤務した経験が1回以上ある人
- 最終学歴:高校、短期大学、高等専門学校、専修学校(専門課程)、大学、大学院修士課程を卒業(修了)または中退した人
- 離学時期:2007年3月~2013年3月に離学(卒業・中退)
回収時には、「就業構造基本調査(総務省統計局2012年10月1日実施)」の特別集計の結果(JILPT 2014)をもとに、性・年齢層・学歴ごとに回収目標数を割付けた。
主な事実発見
- 学校卒業後初めて正社員として勤務した会社等(以下「初めての正社員勤務先」と略す)を離職した若者には、女性・低学歴層・中退者など労働市場で不利な属性をもつ人が多い。ただし新卒時の円滑な就職と離職とは関係がない。
- 離職者と勤続者の「初めての正社員勤務先」での経験を比べると、離職者は長時間労働者が多く、採用時に聞いた労働条件と現実とが異なる人が多い。また離職者は、「残業代の不払い」「人手不足」「希望した日に有給休暇が取れない」など多様な職場トラブルの経験者が多く(図表1)、女性では「結婚・出産・育児・介護を理由に辞めるよういわれた」人の86.8%が、男性では「暴言・暴力・いじめ・嫌がらせ」を受けた人の49.5%がその後離職している。
- 離職者には採用後3ヶ月間に「指示が曖昧なまま放置され、何をしたらよいか分からな」かった人や、「先輩社員と同等の業務を初めからまかせられた」人が多い。また高校卒男性は「歓迎会」をしてもらった場合、専修・短大・高専卒男性は「他事業所・他部署の人に紹介された」場合に勤続傾向が高まるのに対し、低学歴層の女性では若者側から「分からないことがあったとき自分から相談した」「希望の仕事内容や働き方を伝えた」「働きぶりに意見・感想を求めた」場合にむしろ離職傾向が高まることから、上司や先輩社員の側からのコミュニケーションの不足が離職の一因である可能性が示唆された。
- 「初めての正社員勤務先」の勤続期間が同じである人同士を比べると、男女とも勤続者は採用直後から現在までにあらゆる行動特性への自己評価が高まるのに対し、離職者は自己評価が上がる人と下がる人がいる。
- 性別・学歴問わず多い離職理由(図表2)は「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」であり、この理由を挙げた人のうち現在他の会社等で正社員として働いている人は、男女とも労働時間が大幅に短くなっている。また特に男性で「キャリアアップ」「やりたい仕事とは異なる」ことを理由とする人が多く、その人たちはこれらの理由と整合的な転職をした傾向が高いことから、若年期の離職にはよりよい状況を試行錯誤しながら模索するポジティブな一面もあるといえる。一方、女性の離職理由は学歴問わず「結婚・出産」が最多だが、上記2)より会社から強要されたケースも含まれると推察され、額面通りにだけ受け取るべきではない。
- 「初めての正社員勤務先」離職者の離職後1年間の状況を見ると、男性では正社員として働いていた者が6割弱、正社員以外の雇用形態で働いていた者が約3割で、女性では、正社員は約3割、正社員以外の雇用が4~5割であった。調査時点においては男性では正社員比率がやや高まる一方、女性は正社員も正社員以外の雇用も減少し、もっぱら家族の世話などをしている人が増えた。初めての正社員勤続期間によって就業状況は異なり(図表3)、短期で離職した人ほどいずれの時点においても正社員割合は小さく、また、現在の勤務先に対する満足感は、1年未満の早期離職をした男性において特に低い傾向がみられた。1年未満の特に早い離職については、その後のキャリアに与える影響も大きいと考えられる。
①男性全学歴
②女性全学歴
注: * 「正社員以外の雇用」は、契約社員、派遣社員、アルバイト・パート・非常勤の合計、「その他就業」は「役員・自営・内職・家族従業員」、「非労働力、他」は「もっぱら家族の世話」「もっぱら勉強」及び「いずれもあてはまらない」の合計である。
政策的インプリケーション
- 離職者の「初めての正社員勤務先」では、長時間労働、採用時の説明と現実の労働条件の齟齬、残業代不払いや暴言・暴力・いじめ、女性の家族形成に伴う離職強要等の職場トラブルが多いといった、法律や社会的倫理に照らして問題といえる状況が起きているケースが比較的多い。雇用主に対して法令遵守・ハラスメント防止に向けての指導・支援を一層進めるとともに、若者に対しても働くためのルール学習やトラブル発生時の相談窓口の具体的な活用方法の教示を、学校や労働組合、若者支援団体等と連携して更に進めるべきだろう。また転職により長時間労働の解消やキャリアアップを実現できたと思われる若者も少なくないことから、転職も視野に入れたキャリア形成のあり方について広く若者に指導することも重要である。
- 離職者の「初めての正社員勤務先」では教育訓練や職場でのコミュニケーションが不足している。そのためか、離職者の中には学卒時に正社員として就職しある程度勤続したにもかかわらず、職業能力に対する自己評価が低下した人もいる。雇用主に対して、採用直後の若年正社員を放置せず明確な指示のもと簡単な業務から徐々に難しい業務へと段階的に仕事を任せていくことや、「従業員同士の助け合い」や「会社全体で従業員を育てる雰囲気」など職場のコミュニティ機能の強化が、若年正社員の職場定着につながることを周知するとともに、若年社員の教育訓練に必要なノウハウや資源を提供する支援もあわせて進めることが有益だろう。
- 学卒時の就職だけでなく、就職後の職場適応や能力開発、正社員経験後の転職においても高卒者は厳しい状況にあるため、再就職支援としては就業機会と能力開発の機会を同時に提供する制度が有効だろう。また高卒者は人間関係を理由に離職する傾向が高く、特に男性は自信喪失による離職が多い上に離職した事実によって自己評価が下がりがちである。さらに高卒男性は悩みがあっても相談しない傾向が、高卒女性は同年代の同僚や友人に相談しない傾向が高く、これらの傾向は新卒3年以内離職者でより顕著である。高卒の若者には高学歴層とは異なる特別な配慮と支援が必要である。勤務先企業や出身校との協力の上、就職活動から職場定着まで長期的な視野で支援を継続する仕組みを構築し、支援者の側から積極的に若者へ働きかけることが効果的だろう。
政策への貢献
主に職種ごとの離職状況、離職前後の企業規模・労働条件の変化についての分析結果が、若者の「早期離職」への対策を検討する際の参考資料とされた。
本文
全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。
- 表紙・まえがき・執筆担当者・目次(PDF:511KB)
- 序章(PDF:1.0MB)
- 第1章 個人属性と入職までのキャリア(PDF:1.2MB)
- 第2章 「初めての正社員勤務先」の基本的特徴(PDF:798KB)
- 第3章 「初めての正社員勤務先」による雇用管理の状況(PDF:913KB)
- 第4章 「初めての正社員勤務先」における担当業務の変化と能力開発の状況(PDF:902KB)
- 第5章 「初めての正社員勤務先」を離職した理由と相談相手(PDF:819KB)
- 第6章 第一部のまとめ(PDF:560KB)
- 第7章 初めての正社員勤務先を離職後の状況(PDF:804KB)
- 第8章 離職者の現在の就業状況(PDF:919KB)
- 第9章 離職者(と勤続者)の現在の生活(PDF:755KB)
- 第10 章 第二部のまとめ(PDF:504KB)
- 調査票/付表 (PDF:4.6MB)
研究の区分
プロジェクト研究「経済・社会の変化に応じた職業能力開発システムのあり方についての調査研究」
サブテーマ「若年者の職業への円滑な移行に関する調査研究」
サブサブテーマ「若年者の安定的な雇用への移行に関する研究」
研究期間
平成26年度~平成28年度
執筆担当者
- 岩脇 千裕
- 労働政策研究・研修機構 人材育成部門 副主任研究員
- 小杉 礼子
- 労働政策研究・研修機構 特任フェロー
- 岡崎 佑大
- 労働政策研究・研修機構 人材育成部門 臨時研究協力員
- 金崎 幸子
- 労働政策研究・研修機構 所長
データ・アーカイブ
本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.170)。