ディスカッションペーパー 22-05
転職行動の男女差:転職前後のタスク距離と賃金変化に着目して
概要
研究の目的
本研究は、厚生労働省により2020年3月から公開されている職業情報提供サイト(日本版O-NET)の数値情報と2020年12月に当機構において実施した転職者アンケート調査を職業でマッチングしたデータを使用して、ホワイトカラー転職者の転職行動の男女差や、転職前後のタスク距離が賃金変化に与える影響について検証することを目的とする。
研究の方法
日本版O-NETの数値情報と転職者アンケート調査の個票データを用いた二次分析
主な事実発見
実証分析の結果、次の3点が明らかになった。
第1に、転職前後の職業移動の傾向は男女で異なる。男性は、管理職、技術職、営業職の中で異なる職業へ転職している者が多いのに対し、女性は、事務職の中で異なる職業へ転職している者が多い。また、男性については、高度な相互(管理・交渉・育成)タスクを多く行う事務職(商品企画・開発・マーケティング、調査、広報、人事、法務、財務・会計、販売事務)から管理職への転職や、販売職から営業職・販売店長等への転職がみられている。一方で、女性については、高度な相互タスクを多く行う管理職、非定型事務職、営業職・販売店長等から、定型タスクを多く行う定型事務職への転職が多くみられるなど、男性とは対照的な職業移動がみられている(図表1)。
第2に、男性については、開発技術者、IT技術者、保健医療職が、定型事務職と比較してタスク距離の近い(すなわち仕事内容が類似する)職業へ転職している。一方で、女性については、定型事務職と比較して、保健医療職はタスク距離の近い職業に転職しているのに対し、高度な相互(管理・交渉・育成)タスクを多く行う管理職、非定型事務職、営業職・販売店長等はタスク距離の遠い職業に転職している。ただし、正規雇用かつ自己都合離職をしている女性(転職者アンケート調査における女性フルタイム転職者の約3割)に限ると、男性と似たような転職行動がみられている(図表2)。
第3に、タスク距離と賃金変化との関係について、男性については、転職前後のタスク距離が近いほど転職前後の賃金低下が抑制されている(あるいは賃金が上昇している)(図表3)。
注)転職者アンケート調査で尋ねている121職業について、5つのタスク(「相互(管理・交渉・育成)タスク」「技術(設計・修理・保守)タスク」「手仕事タスク」「コンピュータタスク」「定型タスク」)のスコアを参照しながら、10職業に集約。
注)< >はリファレンスグループ * p<0.1 ** p<0.05 *** p<0.01
括弧内の値は分散不均一に対して頑健な標準誤差。
その他の説明変数として、前職勤続年数、学歴、企業規模変化、雇用形態変化、離職理由、仕事に役立つ資格有ダミー、離職期間を含む。
注)* p<0.1 ** p<0.05 *** p<0.01 括弧内の値は分散不均一に対して頑健な標準誤差。
その他の説明変数として、転職時年齢、前職勤続年数、学歴、企業規模変化、雇用形態変化、離職理由、仕事に役立つ資格有ダミー、離職期間を含む。
Model2では、転職前後のタスク距離と賃金変化の関係についての男女差を確認するため、タスク距離と女性ダミーの交差項を推計式に追加。
政策的インプリケーション
本研究の政策的示唆として、高度なタスクを多く行う女性のスキルが活かされるような環境の整備の重要性、日本版O-NETの数値情報を使用したタスク距離を活用した転職支援の可能性、職業分類小分類レベルの職業情報を有する統計データの整備の重要性があげられる。
政策への貢献
労働政策の効果的、効率的な推進(ハローワーク等現場活用を含む)のための基礎資料として活用されることが期待される。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「全員参加型の社会実現に向けたキャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「職業情報、就職支援ツール等の整備・活用に関する研究」
プロジェクト研究「多様なニーズに対応した職業能力開発に関する研究」
サブテーマ「職業能力開発インフラと生産性向上に向けた人材の育成に関する研究」
研究期間
令和3年度
研究担当者
- 小松 恭子
- 労働政策研究・研修機構 研究員
関連の研究成果
- 労働政策研究報告書No.215『ミドルエイジ層の転職と能力開発・キャリア形成』(2022年)
- 資料シリーズNo.252『ミドルエイジ層の転職と能力開発・キャリア形成─ミドルエイジ層の転職に関わる人々のインタビュー調査記録─』(2022年)
- 調査シリーズNo.215『ミドルエイジ層の転職と能力開発・キャリア形成~転職者アンケート調査結果~』(2021年)
- ディスカッションペーパー21-11『日本版O-NETの数値情報を使用した応用研究の可能性:タスクのトレンド分析を一例として』(2021年)
- 資料シリーズNo.240『職業情報提供サイト(日本版O-NET)のインプットデータ開発に関する研究(2020年度)』(2021年)
- 資料シリーズNo.227『職業情報提供サイト(日本版O-NET)のインプットデータ開発に関する研究』(2020年)
- 資料シリーズNo.203『仕事の世界の見える化に向けて─職業情報提供サイト(日本版O-NET)の基本構想に関する研究─』(2018年)
- 資料シリーズNo.168『マクロの労働移動、転職市場の実態─既存統計とヒアリング調査より─』(2016年)
- 調査シリーズNo.149『中高年齢者の転職・再就職調査』(2016年)
- 労働政策研究報告書No.175『転職市場における人材ビジネスの展開』(2015年)
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