調査シリーズNo.149
中高年齢者の転職・再就職調査
- 記者発表「中高年齢者の転職・再就職調査結果」(PDF:879KB) (平成28年4月8日)
概要
研究の目的
急速な高齢化の中で、働く意欲と能力のある高齢者がその能力を発揮して、希望すればいくつになっても働くことができるような環境整備が課題となっている。このような中、平成25年4月より65歳までの継続雇用が義務化されたところであるが、離転職を行う中高年齢者の実態を把握することも重要である。
このため、本調査では、45~74歳の中高年齢者を対象に、転職・再就職に関する実態、意識などについて調査機関のモニターを活用して郵送調査を実施した。
研究の方法
調査実施業務委託機関の郵送調査協力モニターから、45歳~74歳までを男女別5歳区切りで各500人、計6,000人を選定し調査票を発送した。無効票を除き有効回答数は5357(89.3%)となった。
主な事実発見
※以下、章・節・項番号はそれぞれ対応する調査シリーズ本文中の記述箇所を表す。
- 調査対象者の約6割が転職経験を持っていた。転職経験者内での転職回数平均は、男性が2.4回、女性が2.7回だった。(2章2節1項)
- 転職の理由は男性では比較的多様性が見られる一方、女性では「家庭の事情」が約3割を占めていた。この「家庭の事情」には介護、家事・育児、配偶者の転勤等が含まれる。(2章2節3項)
- 転職で利用した機関・サービスの複数回答では「縁故」が4割程度で最も多く、「求人情報誌等」が3割強、「ハローワーク」が3割弱と続いた。(2章2節6項)
- 転職経験者における転職に要した求職期間は「0カ月」が19.8%、「1~2カ月」が23.7%、「3~5カ月」が13.8%であり、合計で約6割が半年未満であった。求職活動に要した費用は約8割が「0円」であった。(2章2節8~9項)
- 現在の勤め先の選定理由の複数回答では男性と女性で選択した人の比率が変わらない項目が多かったものの、「通勤が便利」と「労働時間、休日等の労働条件が良い」は女性が約4割、男性が2割以下と性差が大きかった。(2章2節4項)
- 男性に関しては45歳以上の中高年での転職に際して月の賃金額の平均値が低下していた。これは勤務日数・勤務時間の減少だけでなく労働単価の低下も反映したものと考えられる。一方女性に関しては、男性と同じく月の賃金額が高齢での転職ほど減少しているものの、1日あたりの勤務時間や月の平均時給の変化は小さく、基本的には月の労働日数の減少が賃金額の減少に反映されたものと解釈できる。(3章1節)
- 転職結果への満足度については、過半数の人が満足していることが分かった。一方、約2割の人は転職結果に不満を持っていることが分かった。満足度の規定要因としては、60歳未満での転職においては転職に伴う賃金の低下が満足度を低下させる主要な要因であった。一方、60歳以上での転職においては賃金の低下による影響が見られず、「自己適性志向」(i.e. 自分の興味、能力、個性、資格等に合った仕事を選ぶこと)が満足度を高める要因であった(図表1)。(3章3節)
図表1 転職結果への満足度を説明する重回帰分析の結果(強制投入法、直近の転職年齢別)
- 転職を希望しながら転職しなかった人にその理由を尋ねたところ、男女ともに「新しい環境に不安だったから」が約4割を占め最も多く、男性ではこれに加えて「賃金が下がるから」、「経験・能力を活かせないと思ったから」の選択率も高かった。(2章2節18項)
- 現在65歳以上の回答者全体に占める就業者の比率(以下「就業率」という。)、および回答者全体に占める自営を除く雇用者の比率(以下「雇用率」という。)を見ると、男性に関しては64歳以下での転職経験のある人(就業率37.6%、雇用率24.7%)の方が64歳以下での転職経験のない人(就業率26.5%、雇用率11.0%)よりも高かった。また、直近の転職年齢が高いほど雇用率が高くなっている(図表2)。(3章2節1項)
図表2 現在65歳以上の男性の現在の就業率・雇用率
(64歳以下での転職経験の有無および直近の転職年齢別) - 女性についても、64歳以下での転職経験のある人(就業率31.5%、雇用率26.8%)の方が64歳以下での転職経験のない人(就業率19.2%、雇用率14.4%)よりも高く、直近の転職年齢が高いほど就業率・雇用率が高くなっている(図表3)。ただし女性については専業主婦等、家庭に留まる人も一定数含まれているため、転職経験の有無が65歳以降の就業に及ぼす影響を男性ほど正確に見ることはできない。(3章2節2項)
図表3 現在65歳以上の女性の現在の就業率・雇用率
(64歳以下での転職経験の有無および直近の転職年齢別) - 今後の転職で希望する雇用形態としては60歳未満の男性は約6割が「正社員」を希望している一方、男性の60歳以降では3割前後、女性全体では6割前後が「パート・アルバイト」を希望していた(図表4)。(2章3節5項)
図表4 性別・年代ごとの今後の転職で希望する雇用形態(男性n=2,646, 女性n=2,711)
政策的インプリケーション
- 男女では転職活動の内容はもとより、その背景となる動機や就業意識が一部質的に異なっていることが示されており、この点に配慮した政策が必要と考えられる。
- 中高年齢者の転職では非正規化・賃金低下など他の年齢層であればネガティブに評価される変化が確認された。ただし男性の60歳以上、および女性全体では本人の希望自体が少日数・短時間を中心とすることから、一概に悪い変化とは言えず、本人の希望が実現していたかどうかに注目する必要がある。
- 転職結果への満足度については、45~54歳、55~59歳での転職の場合には「転職に伴う賃金減少」が満足度を低下させる主要な規定要因であったが、60歳以上での転職の場合には同変数が有意な説明変数とならなかった。常識的に考えれば賃金の低下はある程度普遍的に転職結果への満足度を減少させる要因と想定されるが、この常識が60歳以上の転職には当てはまらないという知見は特に重要である。
- 64歳以下での転職経験のある現在65歳以上の人のほうが、64歳以下での転職経験のない同年代の人よりも現在の就業率・雇用率が高かった。ただしその結果については、男性の定年退職や自身・家族の健康上の理由、経済的理由等が複合的に作用していると考えられ、今後さらに要因を精査する必要がある。
本文
全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。
- 表紙・まえがき・担当者・目次(PDF:396KB)
- 第1章 調査の趣旨、実施方法等
第2章 調査結果の概要 (PDF:896KB) - 第3章 転職経験者におけるその後の状況と転職満足度の規定要因(PDF:1.6MB)
- 第4章 自身の就業・生活、または高齢期の就業・生活に関する政府の政策について感じていること
第5章 主要な調査結果と今後の課題 (PDF:610KB) - 調査票・付属統計表1(個人属性)・付属統計表2(表側:調査時点で就業者/就業先企業属性)(PDF:3.2MB)
研究の区分
緊急調査
研究期間
平成27年度
調査担当者
- 田原 孝明
- 労働政策研究・研修機構 統括研究員
- 鎌倉 哲史
- アシスタント・フェロー
データ・アーカイブ
本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.88)。
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