ドイツ:「連邦協約遵守法」の概説と邦語訳

山本 陽大(労働政策研究・研修機構主任研究員)

木内 大登(同志社大学大学院博士後期課程)

本稿は、ドイツにおいて2026年5月1日に施行された「連邦協約遵守法(Bundestariftreuegesetz)」(但し、8条5項については、2028年1月1日施行)について、その概説と邦語訳を試みるものである。同法の速報的な紹介としては、海外労働情報『「連邦協約遵守法」施行-公共調達で労使自治を支え、安値競争に歯止め』(2026年6月)があるので、そちらも併せて参照されたい。

 今般の連邦協約遵守法は、いわゆる公共調達に際し受注企業の労働者に一定水準以上の労働条件を保障し、当該企業に対してその遵守を義務付ける点で、機能的には、わが国における公契約条例に相当する。ドイツにおいても、これまでに州レベルの公共調達に関しては各州法による同様の規制が存在したが、連邦協約遵守法は、その名の通り、連邦レベルでの公共調達に関して連邦法の形式をもって規制を行うものとなっている。

 その内容をみると、連邦協約遵守法は、ドイツ国内で行われる、推定調達・契約価格が5万ユーロ以上の建設や役務提供に関する連邦レベルでの公共調達およびコンセッション(公共施設等の運営権の付与)に対して適用される(1条1項・3項)。連邦本体をはじめ、このような公共調達やコンセッションの付与(以下、併せて「公共調達等」という)を行う主体は「連邦調達者」(2条1項)、その相手方は「受注者」(同条2項)と定義される。そして、連邦調達者は、当該公共調達等にかかる履行(契約)条件として、受注者は公共調達等の業務に従事する労働者に対し、使用者として第5条に基づいて定められる最低労働条件を保障すべき旨を、当該受注者との間で定めなければならない(3条1項)。また、受注者が下請企業や労働者派遣を利用する場合もありうるが、この場合には連邦調達者は、当該受注者との間での公共調達等にかかる履行(契約)条件として、当該受注者は、当該公共調達等の業務に従事する労働者に使用者として上記の最低労働条件の保障を行うよう、下請企業や派遣元企業に対して要求し、かつ適切な措置によりその履行を確保すべき旨を定めることとなっている(同条2項)。

 これにより、まずは公共調達等の業務に従事する労働者に対する最低労働条件の保障(あるいは、その履行の確保)が、受注者にとっての当該公共調達等に関する契約条件となるが()、ここでいう「最低労働条件」の設定に当たって重要な役割を果たしているのが、労働協約(Tarifvertrag)である。ドイツにおける労働協約は、産業別に組織された労働組合と使用者団体との間で締結される産別協約が一般的となっているが()、連邦協約遵守法5条により、連邦労働社会省(BMAS)には、労働組合または使用者団体の申請があった場合に、これら申請者の締結にかかる労働協約上の労働条件のうち、報酬、年次有給休暇、最長労働時間、最低休息時間および休憩時間であって、公共調達等に対して適用されるものに関して法規命令を発出する権限が認められている。そして、このような法規命令が発せられた場合、その適用範囲内にいる受注者等の使用者は、公共調達等の業務に従事する労働者に対し、当該法規命令中で定められた上記の協約上の各労働条件を、最低労働条件として保障すべき義務を負うこととなる(4条1項)。

 そのうえで、以上でみた使用者の労働者に対する最低労働条件の保障義務に関しては、連邦協約遵守法上、その履行確保のためのシステムが複線的に整備されている。この点、まず使用者には、公共調達等の業務に従事する労働者に対し、上記の最低労働条件の保障に関して請求権を有することについての情報提供義務が課されている(4条3項)。また、下請企業や派遣元企業が介在している場合、最低労働条件のうち報酬の支払いに関しては、元請企業たる発注者には連帯保証人と同様の責任が課されている(12条)。これらはいずれも、私法上の履行確保システムといえるが、それと並んで、連邦協約遵守法は、最低労働条件保障義務にかかる監督のために、連邦協約遵守監督機関を新たに設置している。同機関が、受注者等が上記の義務に著しく違反したことを認定した場合には、連邦調達者に対する関係で、契約罰(調達価格の1%、違反が複数ある場合には10%が上限)や調達関係の即時解約といった制裁が発生し得るとともに(11条)、今後の公共調達(委託)手続からも排除されることとなる(14条)。

 このような連邦協約遵守法の最大の特徴は、前述の通り、公共調達等の場面における最低労働条件の設定機能を労働協約が担っている点にある。ドイツでは、労働協約は当該協約を締結した使用者団体に加盟している使用者に対してのみ適用されるのが原則であるが(労働協約法3条1項、4条1項)、連邦協約遵守法に基づく法規命令が発せられた場合には、使用者団体加盟の有無にかかわらず、当該法規命令の適用範囲内にいる全ての使用者(受注者等)が、公共調達等の業務に従事する労働者に対し、協約上の労働条件の保障(=協約の遵守〔Tariftreue〕)義務を負うこととなる。その意味で、同法は、一種の労働協約の拡張適用制度を定めるものといえよう。

この点、ドイツでは、伝統的に産別協約が労働者の最低労働条件の設定や使用者間における公正な競争条件の確保といった機能を担ってきたが、1990年代以降、その適用率は年々低下していた。そのため、ドイツでは2014年8月の協約自治強化法によって、産別協約の機能を回復させあるいは補完する試みが行われたが()、それ以降も協約適用率の低下に歯止めはかからなかった()。なかでも公共調達等の受注企業については、協約の適用を受けず、低賃金で労働者を就労させ、協約適用を受ける他の企業よりも競争上優位に立っているケースがみられることが問題視されていた()。今般の連邦協約遵守法は、このような背景のもとで制定されたものである。従って、同法は、労働者に最低労働条件を保障するという点では、個別の労働関係を対象としたものではあるが、直接的な目的は上記でみた2014年の協約自治強化法と同様に(産別)協約システムの強化にあり()、むしろ集団的労使関係をめぐる法政策の一環として位置付けられる。同法の本格的な始動はこれからであるが、その政策効果を注視する必要があろう。

参考レート

プロフィール

写真:山本陽大氏

山本 陽大(やまもと ようた)

労働政策研究・研修機構 主任研究員
同志社大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。専門は労働法。
最近の主な著作に、労働政策研究報告書No.238『諸外国における解雇の金銭解決をめぐる制度構造・運用実態・政策評価』(JILPT、2026年)〔共著〕、『フリーランス法制を考える』(弘文堂、2025年)〔共著〕、労働政策研究報告書No.232『新興感染症と職場における健康保護をめぐる法と政策』(JILPT、2025年)がある。

プロフィール

写真:木内大登氏

木内 大登(きうち だいと)

同志社大学大学院法学研究科博士後期課程在籍。専門は労働法。
主な業績として、「労働者のテレワーク希望の利益と拒否の利益の法的構造(PDF:442KB)」日本労働研究雑誌788号(2026年)pp.132-143、「アクセンチュア事件判批」季刊労働法292号(2026年)pp.190-200、「テレワーク雇用社会における出社命令に関する考察-アイ・ディ・エイチ事件を契機として」季刊労働法285号(2024年)pp.76-99〔共著〕がある。

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