労働政策研究報告書No.238
諸外国における解雇の金銭解決をめぐる制度構造・運用実態・政策評価
―独・仏・英における有識者ヒアリングを踏まえた調査研究―
概要
研究の目的
諸外国(ドイツ・フランス・イギリス)における解雇の金銭解決制度の法的構造を文献調査を通じて明らかにするとともに、各国の有識者に対するヒアリング調査を通じて、同制度の運用実態や政策的な評価を明らかにする。
研究の方法
文献調査,ヒアリング調査
主な事実発見
Ⅰ ドイツ法(第一章)について
ドイツにおいては、解雇制限法によって、常時11人以上を雇用する事業所において勤続6ヶ月を超える労働者に対して行われる全ての解雇は、社会的に正当なものであることが要求され、かかる社会的正当性を欠く解雇(不当解雇)に対する法的救済としては、当該解雇の無効が原則となっている(解雇無効原則)。これは、同法の立法当初から、その目的が労働関係の存続を保護することにあると解されていることによる。また、このような労働関係の存続保護は、ドイツでは、法律(事業所組織法)上および判例上、被解雇労働者には解雇訴訟期間中について継続就労請求権が認められることによって強化されている(但し、前者については幾つかの例外があるとともに、後者については労働者は解雇訴訟の第一審に勝訴するまでは行使できないこととなっている)。そのほか、ドイツでは、一定のグループに属する労働者や一定の動機に基づく解雇が特に禁止されており(特別規制)、この場合にも当該解雇は無効となる。
もっとも、解雇制限法中では、1a条および9条・10条(=解消判決制度)において、解雇の金銭解決制度も同時に整備されている。このうち、後者の解消判決制度は、1951年の解雇制限法制定当時から存在する制度であり、解雇は社会的に不当ではあるが、同時に労・使当事者間の信頼関係が崩壊している場合に、裁判所が当事者いずれかの申立てに基づいて判決(=解消判決)を下すことにより、使用者に対し労働者へ補償金を支払うことを命じつつ、労働契約関係を解消することを可能とするものである(但し、解雇が上記の特別規制違反により無効である場合は、解消判決制度は利用できない)。かかる補償金の法的性質は、労働者が労働関係を失うことに対する補償と理解され、原則として月収12ヶ月分を上限に裁判官の裁量によって算定されることとなっている。一方、前者の解雇制限法1a条は、2003年の解雇制限法改正により、解雇訴訟数の減少(=労働裁判所の負担軽減)や使用者にとっての解雇コストの明確化等を目的として導入された制度である。同条によれば、経営上の理由に基づく解雇の事案において、使用者が解雇通知中において法所定の事項を記載し、かつ労働者が出訴期間(解雇通知の到達から3週間以内)を徒過した場合に、労働者は使用者に対し同条所定の算定式(勤続年数×月収×0.5)に基づく補償金請求権を取得することができる(この場合、出訴期間が徒過されているため、労働契約関係自体は当該解雇によって有効に終了することとなる)。
もっとも、有識者へのヒアリングによれば、これら解雇制限法が定める解雇の金銭解決制度は、ドイツの解雇紛争処理実務においては、いずれもほとんど利用されていない。これは、解消判決制度については、利用要件(特に解消事由)が厳格に設定・解釈されているためであり、解雇制限法1a条については、労働者・使用者双方にとって利用するメリットに乏しい制度構造を採用してしまったことによる。前者については、信頼関係の崩壊という例外的局面における利用が本来想定されているので、政策的評価としては肯定的な意見が多いが、後者に対しては消極的な意見が目立った。また、解雇制限法1a条に関しては、上記の理由により解雇コストの明確化という当初の政策目的は達成されていないため、解雇の件数や使用者の解雇に対する意識にも何ら影響を及ぼしていないとされる。
一方、ドイツにおける労働関係紛争は労働裁判所において処理されることとなっており、同裁判所においては和解前置主義が採られている。そして、解雇紛争に関しては、そのほとんどが労働裁判所における和解(=裁判上の和解)によって解決されているという実態があることが従来から指摘されており、このことは有識者ヒアリング調査によっても改めて確認された。また、かかる裁判上の和解における和解内容をみると、稀に復職が合意されるケースもあるとされるが、ほとんどのケースでは金銭解決(=使用者の労働者に対する補償金の支払いと労働契約関係の終了)となっている。この場合における補償金額の算定に際しては、勤続年数×月収×0.5という算定式を目安(基準)として用いることが従来から労働裁判所実務における慣行として確立しており、この点に何ら変化は生じてないこともまた、有識者ヒアリング調査によって確認された。かかる算定式の出自については必ずしも明らかではないが、ここでの0.5という係数は、裁判上の和解手続の開始時点では、当該解雇の適法性・有効性に関する心証が50:50であることに由来しているため、かかる心証をはじめとして、個々の事案における諸事情によって上記の係数は変動しうるとされる(なお、かかる算定式は上記でみた解雇制限法1a条において定められているものと同一であるが、これは同条の立法化に際し、裁判上の和解実務で用いられている算定式を範としたことによる)。
このように、ドイツにおける解雇紛争のほとんどが裁判上の和解を通じた金銭解決により処理されている実態に関して、有識者へのヒアリングでは積極的な評価が多くみられた一方、あくまで労働関係の存続保護を重視し、労働者の継続就労請求権を強化すべきとの意見もみられた。しかし他方では、金銭解決に関する当事者の予測可能性を高める観点から、解雇無効の法的救済は差別的解雇のような場合に限定し、不当解雇に対する法的救済については、使用者の補償金支払義務を原則とすべきとの意見もあった。
なお、ドイツでは、解雇に先立ち、労働契約当事者間で合意解約を行うことは、書面による限りは、契約自由の原則に基づいて可能であるが、有識者へのヒアリングによれば、使用者からの合意解約の申込みを承諾した場合、失業給付の受給に不利益(停止期間)が生じること等を理由に、労働者がこれを受け入れることは稀であるとされる。また、合意解約のなかで幾らの補償金額が定められるかは個別事案によって様々であり、前述の通り、解雇の金銭解決制度(特に解雇制限法1a条)の影響も特にみられない。
Ⅱ フランス法(第二章)について
フランスにおいては、伝統的に労働者を解雇した使用者には(当該解雇の正当性の有無にかかわらず)解雇補償金の支払いが義務付けられているほか(但し、当該労働者が勤続8ヶ月以上であることが要件となる)、1973年法以降は解雇理由が「現実かつ重大な事由」によって正当化されることが要求されている。そして、解雇理由にかかる事由が認められず、当該解雇が不当解雇と判断された場合の法的救済については、労働法典上は、裁判官による復職の提案と使用者による労働者への不当解雇補償金の支払いを規定しているが、復職には当事者双方の同意が必要であることから、実際にこれが実現することは稀であり、不当解雇補償金の支払いが一般的な救済方法となっている。かかる不当解雇補償金の法的性質については、損害賠償的性格と不当解雇に対する民事罰・抑止的性格を併せ持つものとして理解されている。また、その算定方法について、従来は下限(賃金6ヶ月分以上)のみが定められており、裁判所間でも認容額が異なっていた。そのため、不当解雇補償金額に関する予測可能性を向上させる目的で、2017年のオルドナンスにより、被解雇労働者の当該企業における勤続年数に応じた上限および下限を定める一覧表が導入された。これにより、現在では不当解雇補償金は、かかる範囲内において労働裁判所により算定されることとなっている(なお、上記のうち下限については従業員数11人未満の小規模企業に対しては異なる基準が適用される)。
一方、フランスにおいては、差別的解雇等の一定の事由に基づく解雇に関しては、労働法典上、違法解雇として禁止されているが、かかる違法解雇の場合には当該解雇は無効となる結果、労働者には原則として復職の権利が認められている。一方、復職を望まない労働者に関しては、不当解雇の場合と同様に、使用者に対して補償金を請求することも可能であるが、この場合の補償金額の決定に当たっては、賃金6ヶ月分以上という従前の下限が引き続き適用されるとともに、上限を定める上記一覧表は適用されないこととなっている。
以上を前提に、有識者ヒアリング調査では、上記の不当解雇補償金に関する一覧表導入の政策的評価について、導入の前後で認容額自体には大きな影響はないようであるが、その予測可能性が高まったとの評価がある一方、一覧表が適用されない訴訟形態(差別を理由とする解雇無効の主張や未払残業代等の金銭支払請求)が増加している、勤続年数が短いため一覧表の上限設定により低い補償金額しか期待できない労働者が(労働裁判所への申立ての複雑化・厳格化と相まって)提訴を諦めるといった問題もあることが指摘された。また、フランスにおいては解雇紛争は労働裁判所において処理されるところ、有識者へのヒアリングによれば、上記一覧表の導入によって解雇後における裁判外(前)での和解の増加という影響も生じているとされる。その理由としては、一覧表の導入により裁判になった場合における不当解雇補償金額の予測可能性が増したため、当事者間で交渉しやすくなったこと、和解金がかかる一覧表の範囲内であれば、不当解雇補償金に対応するものと性質決定され、不当解雇補償金の場合と同様に税・社会保障費の免除・優遇制度の適用を受けることができること等が挙げられる。
一方、フランスの労働裁判所においては調停手続の前置が義務付けられており、解雇紛争を調停によって解決する場合には、当事者間の合意のなかで解決金について定めることとされているところ、2013年および2016年の法改正によりかかる解決金の目安額が示された。もっとも、有識者へのヒアリングによれば、こちらについては、実務上は機能していないことが指摘されている。
以上のほか、フランスでは2008年以降、合意解約が法制化されている(法定合意解約制度)。これにより、当事者が合意解約を行おうとする場合には、法定の手続を経なければならず、また(解雇補償金の額以上の)合意解約補償金についても合意することが必要となる。有識者ヒアリング調査によれば、法定合意解約の利用は増加傾向にあり、制度として機能していると評価されている(近時における労働裁判所への申立件数の減少は、先ほどみた裁判外の和解の増加のほか、法定合意解約制度が機能していることも一因であることが指摘されている)。法定合意解約の提案は、退職を考えている労働者から行われることが多いようであるが、使用者が解雇に先立って提案を行うこともあるとされる。また、法定合意解約に際して支払われる解約補償金については、金額の相場は存在しないが、実際上は、労働者側としては不当解雇補償金に関する一覧表を、使用者側としては解雇補償金の額を意識しているとの見解が示された。
Ⅲ イギリス法(第三章)について
イギリスにおいては、コモンロー上は伝統的に解雇自由が原則であり、また解雇紛争は労使の自主的な解決・手続に委ねられるべきと考えられてきたが、集団的交渉によっては十分な保護が得られないケースが生じ、また解雇に関するストライキを減少させる目的も相まって、1960年代以降、解雇に関する立法規制が整備されてきた。特に1971年の労使関係法により定められた不公正解雇制度は、2年以上継続勤務している労働者に対する解雇について公正なものであることを要求している(ただし、この2年間の継続勤務要件については、2025年の雇用権法により、6ヶ月に短縮されている)。かかる公正性の審査は、手続面に焦点を当てて当該解雇に関する使用者の行動が合理的であったかという点を中心に行われるが、かかる審査の結果、不公正解雇と判断された場合の救済については、原職復帰、再雇用および金銭補償の3つが予定されている。このうち、原則的な救済は原職復帰と再雇用(両者は解雇時と同一の条件が保障されるか否かで区別される)であるが、しかし労働者の希望や使用者にとっての実行可能性等を考慮しなければならないとされていることとの関係で、実際上は原職復帰・再雇用が命じられるケースは少なく、不公正解雇に対する救済は金銭補償が一般的とされており、この点は有識者ヒアリング調査によっても確認された。そして、この場合における金銭補償については、基本額と補償額に区分して算定されることとなっている。
このうち、基本額は、長期勤続の喪失や雇用が継続されないことから生じる損失(継続勤務要件が課されている制定法上の権利)に対する補償と位置付けられており、週給×勤続年数×0.5~1.5(この係数は当該労働者の年齢によって変動する)によって算定されるが、週給について£719が、また合計額について£21,570が上限としてそれぞれ設定されている。一方、補償額は、解雇による過去および将来の経済的損失(精神的損害は含まれない)に対する補償を目的として、正当かつ公平の観点から決定される。このうち、特に将来の経済的損失に関しては、被解雇労働者の賃金低下がどの程度継続するかの予測(推定)のもとで評価されるが、かかる補償額についてもやはり上限(1年分の総給与と£118,223のいずれか低い方の額)が設定されている。このように、イギリスにおいては、金銭補償について上限設定が行われていることとの関係で、使用者が解雇手続を遵守せずに上限額に相当する補償金を支給して解雇するという事態が生じうることが指摘されており、有識者ヒアリング調査によっても、特に零細企業においては実際にそのような事態が生じていることが確認された(もっとも、上記のうち補償額にかかる上限額の規制については、2025年の雇用権法により撤廃された)。
またその一方で、上記の基本額・補償額については、ともに幅広い控除・減額の可能性が存在する。このような控除・減額要因としては、解雇された労働者が応募すべき仕事に応募しない等損失を減らす義務(損害軽減義務)を怠った場合、適正な手続が採られていれば解雇が公正と判断される場合(いわゆるPolkey控除)、労働者がACAS(労使紛争の調停等を任務とする独立行政機関)が定めた行動準則に違反している場合(逆に、使用者が違反している場合には補償額は増額されうる)、不公正な解雇について労働者側にも過失がある場合等が挙げられる。このために、解雇が不公正と判断されたケースでも、結果として補償金額がゼロとなる場合もありうる。
但し、イギリスにおいては解雇が一定の類型に該当する場合には、上記とは異なる救済方法が採られている。この点につき、まず内部告発(公益開示)や健康・安全に関わる活動を理由とした解雇、労働時間規則等に基づく労働者代表としての活動を理由とする解雇、労働組合員であることや組合活動を理由とする解雇等については、不公正解雇制度上、2年間の継続勤務要件が課されないほか、公正性の審査において、自動的に不公正と判断されることとなっている。そして、解雇がこれらの理由に該当する可能性が高いことを労働者の側で証明した場合には、雇用審判所によって暫定的救済が付与されることがあり、これが付与された場合には、当該労働者は審理の終了まで労働契約上の地位を保障され、賃金の支払いを受けることができる。また、自動的不公正解雇のなかには、基本額に関して下限が別途設定されているもの(健康・安全に関わる活動を理由とした解雇等)、あるいは先ほどみた補償額に関する上限(2025年雇用権法以前の規制)が適用されないもの(内部告発を理由とする解雇等)もある。
またこのほか、解雇が差別やハラスメント等に該当する場合には、不公正解雇制度ではなく平等法による救済が適用される。この場合において予定されている救済は、申立人に権利がある旨の宣言、適切な措置(将来の差別を防止するための、基準や制度の変更、合理的配慮の実施、平等に関する教育訓練等)に関する勧告および補償金の支払いである。先ほどみた自動的不公正解雇の場合とは異なり、平等法違反の解雇に関しては、暫定的救済は適用されないが、補償金に関して不公正解雇についてみられるような上限は存在せず、また精神的損害の賠償についても認められることとなっている。
ところで、イギリスでは、不公正解雇にかかる審査および救済は雇用審判所において行われることとなっているが、2014年以降は、訴え提起の前にACASの調停を通じた和解合意(早期調停システム)を試みることが求められているほか、労働組合や弁護士等が関与した和解手続を利用することが可能であり、総じて裁判外における和解による解雇紛争の解決が指向されている。この点について、有識者へのヒアリングでは、不公正解雇に対する救済として、雇用審判所が金銭補償を算定する場合には、上記の通り、特に将来の経済的損失については推定によらざるを得ず、また各種の控除・減額が行われうるため、金額の予測が困難であることが、当事者をして和解による解雇紛争の解決を促している側面があるとの指摘がみられた。
政策的インプリケーション
「主な事実発見」を参照。
政策への貢献
本報告書の基礎となった調査研究の結果については、第205回労働政策審議会労働条件分科会(令和7年11月18日)において厚生労働省事務局より概要を報告。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「多様な働き方とルールに関する研究」
サブテーマ「多様な/新たな働き方と労働法政策に関する研究」
研究期間
令和6~7年度
執筆担当者
- 山本 陽大
- 労働政策研究・研修機構 主任研究員
- 古賀 修平
- 宮崎大学 地域資源創成学部 准教授
- 石田 信平
- 専修大学 法科大学院 教授
関連の研究成果
- 資料シリーズNo.129『諸外国における解雇ルールと紛争解決の実態―ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ』(野川忍=奥田香子=小宮文人=池添弘邦、日本労働研究機構、2003年)
- 一般図書『解雇ルールと紛争解決―10ヵ国の国際比較』(菅野和夫=荒木尚志編、2017年)
- 研究双書『解雇の金銭解決制度に関する研究―その基礎と構造をめぐる日・独比較法的考察』(2021年)
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