「連邦協約遵守法」施行
 ―公共調達で労使自治を支え、安値競争に歯止め

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2026年6月

連邦労働社会省(BMAS)と連邦経済・エネルギー省(BMWE)が共同所管する「連邦協約遵守法(注1)」が、2026年5月1日に施行された。同法の目的は、連邦の公共調達において、労働協約を遵守する企業が人件費の高さを理由に不利な競争を強いられないようにすることにある。連邦政府が「公正な労働条件を守る企業から調達する」という姿勢を示すことで、労働協約という労使自治の仕組みを側面から支え、賃金ダンピングによる安値競争に歯止めをかける狙いがある。

連邦協約遵守法の概要

同法は、連邦レベルの公共契約のうち、原則として推定契約額が5万ユーロ以上の「公共工事契約」、「サービス契約」および「コンセッション(公共施設・サービスの運営権等)」を適用対象としている。「物品供給契約」は対象外とされる。

制度の基本的な仕組みは、連邦政府等の発注者が、受注企業に対し、契約履行に従事する労働者について連邦労働社会省の法規命令で定められた最低労働条件に相当する労働条件を保障するよう求めるというものである。なお、企業が労働協約に直接拘束されているか否かは、入札参加の要件とはされていない。企業が労働協約に直接拘束されている必要はなく、契約履行中に対象労働者へ協約相当の労働条件を保障すれば足りる。

対象となる労働条件は、協約上の賃金に加え、有給休暇(年次休暇)、最長労働時間、最低休息時間、休憩時間などである。ただし、具体的な内容は、各産業について連邦労働社会省が法規命令で定めることにより、初めて拘束力を持つ。そのため同省は、施行時点ではまだ具体的な法規命令は存在せず、遵守すべき協約上の労働条件は今後、産業別に定められると説明している(注2)

また、遵守義務は、元請企業にとどまらず、下請事業者や労働者派遣事業者にも及ぶ。受注企業は、これらの事業者に対しても、対象労働者に所定の労働条件を保障させるための措置を講じる必要がある。特に賃金については、下請事業者等による未払いが生じた場合、元請企業が手取り賃金部分について保証人に類似する責任を負う仕組みが設けられている(注3)

一方、適用対象外となるものとしては、競争制限禁止法(注4)第4部の適用対象外とされる契約、例えば軍事装備品の調達など、防衛・安全保障に特有の公共契約がある。また、2032年12月31日までに開始される、連邦軍の需要を満たすための公共契約・コンセッションも、同法の適用対象外とされている。さらに、直接発注については、同法が前提とする調達手続が行われないため、原則として適用対象外である(注5)

また同法の履行確保は、鉱山・鉄道・海運分野に由来する連邦社会保険機関であるKBS(Knappschaft-Bahn-See)に設置される「連邦協約遵守検査機関(Prüfstelle Bundestariftreue)」が担う(注6)。同機関は、労働者や第三者からの通報等により、法律違反の疑いがある場合に調査を行う。発注者は必要な契約資料を同機関に提供する義務がある。違反が確認された場合には、契約上の違約金、契約解除、将来の公共調達からの除外等につながる可能性がある。

なお、同法は原則として2026年5月1日に施行されたが、賃金証明データを電子的に照会・送信する手続に関する第8条5項については、2028年1月1日に施行される(注7)

背景にある労働協約適用率の低下

連邦協約遵守法が施行された背景には、ドイツにおける労働協約適用率(Tarifbindung)の長期的な低下がある。ドイツでは、使用者団体と労働組合が締結する労働協約が、賃金や労働時間などの労働条件を定める中核的な役割を担ってきた。しかし、協約に拘束される企業・事業所や、協約適用事業所で働く労働者の割合は、1990年代後半以降、長期的に低下している。ハンス・ベックラー財団経済社会研究所(WSI)によると、2024年時点で、協約適用対象の労働者は全体の49%、旧西独地域で50%、旧東独地域で42%であり、1998年時点と比べていずれも大きく低下している(図表1(注8)。WSIは、ドイツ産業の中心が大企業・工業部門からサービス業や中小企業へ移る中で、労働組合の組織化や協約制度の維持が難しくなっていることが背景にあると指摘している。

図表1:従業員および事業所の団体協約適用率の推移(協約の種類別)(1998年~2024年)
画像:図表1

出所:WSI(https://www.wsi.de/de/tarifbindung-15329.htm新しいウィンドウ).

全16州のうち14州に「先行実績」

ドイツでは、連邦法に先行して、州レベルで公共調達に協約遵守を組み込む制度が発展してきた。WSIによれば、2026年時点で全16州のうち14州に何らかの協約遵守規定を含む州調達法が存在し、協約遵守規定がないのは、バイエルン州とザクセン州のみである。もっとも、州法の内容には、濃淡があり、バーデン=ヴュルテンベルク、ブランデンブルク、ハンブルク、ヘッセン、ニーダーザクセン、ノルトライン=ヴェストファーレン、ラインラント=プファルツ、シュレスヴィヒ=ホルシュタインの8州では、公共交通分野を除けば比較的限定的な規定にとどまる。他方、ベルリン、ブレーメン、メクレンブルク=フォアポンメルン、ザールラント、ザクセン=アンハルト、テューリンゲンの6州では、近年、非協約拘束企業にも公共契約の履行条件として協約水準の労働条件を求める、より実質的な「協約遵守」規定が導入・強化されている(注9)

関係者の反応

労働組合側は、連邦協約遵守法を基本的に歓迎している。ドイツ労働総同盟(DGB)は、「公正に交渉された賃金と労働条件を尊重する」国の姿勢を示すものであり、賃金ダンピングではなく品質で競争する企業にとっても意義があると評価した。他方で、5万ユーロという閾値の高さや、物品供給契約や防衛関係発注が除外対象とされている点、履行確保や制裁の実効性については、引き続き課題が残ると指摘している(注10)

これに対し、経済界・使用者側からは批判が強い。ドイツ商工会議所(DIHK)は、同法が追加的な証明義務、複雑な責任・賃金計算上の問題、企業内での労働条件の不均衡をもたらすとして、「官僚主義の拡大」だと批判した。また、公共調達コストの上昇や、中小企業が公共入札から遠ざかるおそれも指摘している。ドイツ卸売・貿易・サービス業連盟(BGA)も、公共調達を「より高く、遅く、複雑で、誤りの生じやすいもの」にするとして、同法は経済と労使自治に対する誤ったシグナルであり、協約適用率の持続的な上昇にはつながらないと批判している(注11)

同法を共同所管する連邦労働社会省(BMAS)は、同法が協約を適用する企業の競争上の不利を取り除き、連邦調達における公正な競争を確保するものだと説明している。バーベル・バス労働社会相は、連邦の契約を受注したい企業は「協約上の労働条件を確保しなければならない」と述べ、同法がそのための法的基盤になると強調している。また、今後、道路・橋梁、医療、教育インフラなどの公共投資が増える予定であることから、公共資金が公正な賃金と良好な労働条件につながることの重要性を訴えている(注12)

連邦協約遵守法は、労働協約の適用率低下という構造的課題に対し、公共調達という連邦政府の購買力を活用して対応しようとする制度である。企業に協約そのものへの加入を強制するものではないが、連邦契約を履行する限りにおいて、協約相当の労働条件を保障させる点に特徴がある。労使自治を直接置き換えるのではなく、公共調達を通じてその基盤を補強する制度として、今後の運用や実効性を注視していく必要があるだろう。

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