諸外国における外国人材受入制度 ―非高度人材の位置づけ
―イギリス

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イギリスの外国人材受入制度は、従来の度重なる制度改変で複雑化していたスキームを5つの階層に整理することにより、審査基準の明確化、手続きの簡素化(入国・就労許可の一体化など)を図った。同時に、域外からの外国人受け入れに関する引き締め策としてのポイント制(Point Based System)(注1)を、2008年から導入している。

制度構造としては、5つの階層から構成されている。第1階層(Tier 1)が高度技術者、第2階層(Tier 2)が専門技術者、第3階層(Tier 3)が非熟練労働者、第4階層(Tier 4)が学生、第5階層(Tier 5)がその他となっているが、第3階層の非熟練労働者枠に関しては、制度導入以来一度も開かれてはいない。それでは、イギリスは非熟練職種に外国人材は用いず、全てが国内労働者によって担われているのかというと、そうではない。この非熟練労働市場における供給不足分を補っているのが、EU第5次拡大以降加盟した中東欧諸国(A8, A2)(注2)出身の労働者である。彼らの域内における移動は原則自由であり、外国人材受入スキームの枠外にあるため、制度表上(図表)には存在していない。しかし現実には、中東欧諸国出身労働者という可視化できない枠が、主には第3階層の枠上に存在しているのである。イギリスにおいては、特にポーランドからの労働者が多く、男性においては建設業、配管工など、女性においてはホテル・飲食業のほか小売業などのサービス業でも広く就労していると言われる。

図表
区分 階層 レベル 業種(職種) スキーム
高度技術者 経済発展に貢献する高度なスキルを持つ者 Tier 1 高度 科学者、企業家、起業家、投資家、学卒起業家 ポイント制
一般 停止(2011年)
就学後就労 停止(2012年)
専門技術者 国内で不足している技能を持つ者 Tier 2 専門 看護師、教員、スポーツ選手、企業内異動、宗教家 ポイント制:
雇用許可制(労働市場テスト有)
エンジニア、科学者、IT技術者、看護師、シェフ ポイント制:
労働力不足職種リスト(労働市場テスト免除)*2018年4月現在34職種
非熟練労働者 技能職種の不足に応じて人数を制限して入国する者 Tier 3 非熟練 不足職種 停止中
学生 Tier 4     ポイント制:
受け入れ許可制
他の短期労働者、若者交流プログラム等 Tier 5     ポイント制

では、第5次拡大以前はどうだったのかというと、一部の業種(職種)を域外の労働者に担わせる特別のスキームが存在した。詳しくは資料シリーズNo.207の各論(第1章イギリス(PDF:4.3MB))をご覧いただきたいが、農業労働者向けの季節農業者受入スキーム(Seasonal Agricultural Worker Scheme : SAWS)と、業種別スキーム(Sector Based Scheme : SBS)という2つのスキームが、かつては非熟練職種の供給源の1つとして存在していた。この2つのスキームの対象職種は、いずれも国内労働者の忌避する傾向の強い3K職種に当たる。しかし、この2つのスキームは、制度運用上の問題点が多かった(注3)ことから既に廃止されている。すなわち、現在イギリスにおいては、域外から非熟練職種の外国人材を受け入れるスキームは、制度の枠としては存在するものの実施はされていない。

ここで、第2階層と第3階層の境界ラインを確認しておきたい。第2階層は、区分上は専門技術者として位置付けられており、何らかの技能を持ち、かつ国内で不足している技能者に制限されている。スキームとしては、専門技術者かどうかは雇用許可制で選別し、国内で不足しているかどうかについては労働市場テスト(国内労働者の供給が無いことを証明)を課すが、さらに著しく不足が認められる業種(職種)については、MAC(Migration Advisory Committee)が作成する労働力不足リストで定め、労働市場テストを免除するという仕組みとなっている。つまり、制度上では非熟練労働者はこの第2階層から完全に排除されているわけだ。しかし、可変的なのはMACが定める労働力不足リストである。このリストで不足職種と認められれば、労働市場テストが免除されることから、国内労働力供給の有無にかかわらず就労が可能となる。そしてこのリストは随時(不定期に)改変される。気になるのはリストの中身であるが(現在の34職種については資料シリーズNo.207の第1章(PDF:4.3MB)に記載)、例えば従来はリストに入っていた「専門的介護労働者(skilled senior care worker)」を2011年3月の見直しでリストから外している(注4)。このほか、同時期に「料理人(chef)」についても、収入や経験年数の要件(注5)を厳格化するなどの措置をとっている。これらのことから、労働市場の需給状況によって、高度人材と非高度人材を分ける境界ラインは多少の上下動が可能であることがわかる。しかしながら、何らかの専門技術を持たない非熟練労働者がこの階層に入り込む余地は少ないと見ていいだろう。

参考レート

2019年1月 フォーカス:諸外国における外国人材受入制度 ―非高度人材の位置づけ ―イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、韓国、台湾、シンガポール

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