諸外国における外国人材受入制度 ―非高度人材の位置づけ
―シンガポール

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シンガポールにおいては、建国以来経済成長を支える存在としての外国人労働者の役割が広く認知されてきた。現在、全人口における外国人は約3割を占め、うち8近くが就労ビザを持つ労働者である(注1)。しかし、経済的な成熟期に入ったことに加え、世界的な金融危機の影響等を受け、2000年代後半になると、高度人材・非高度人材ともに、外国人材の流入を抑制する方向へ政策方針は転換している。少子高齢化の影響もあり、経済維持のための一定割合での外国人材の必要性は認めつつも、外国人雇用税を引き上げるなど、外国人材流入のハードルを年々高めている傾向にあるようだ。今後は、ローカル人材(シンガポール市民及び永住権保有者)に配慮しながら現状の受け入れレベル(労働力の3分の1)を維持していくことを目指すとする。

制度構造としては、高度人材向けスキームとして、管理職などの「雇用パス(Employment Pass :Eパス)」、中高度人材向けとして「Sパス」がある。非高度人材向けスキームとしては、特定産業(建設、製造、海運、サービス業、家事など)のみに許可される「労働許可(Work Permit)」がある。家事以外の労働許可はさらに、上級技能(Higher Skilled)労働者に与えられる「R1パス」と、基礎技能(Basic Skilled)労働者に与えられる「R2パス」に分かれるが、R1パスの方は一定以上の報酬額及び経験年数等を取得要件としているため、非熟練労働に相当するのはR2パスと家事労働者に与えられる労働許可と考えられる。就労ビザをもつ外国人のなかでも労働許可保有者が7割と最も多い。

就労可能期間は、Eパス・Sパスとは異なり、労働許可には出身国制限と最長雇用可能期間が設定されている。とはいえ、出身国により、R1で22~26年、R2パスで14年と長期的な雇用(労働許可の更新を続けた場合)が可能である。また、最大雇用期間の適用がされない出身国(マレーシアなど)もある。さらに、家事労働者は、特定国(バングラデシュ、カンボジア、香港、インド、インドネシア、マカオ、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、韓国、スリランカ、台湾、タイ)出身者のみに制限されており、最長雇用期間は適用外である。

シンガポールは、外国人労働者の雇用に当たり、外国人雇用税(Foreign Worker Levy)を義務づけている。これは、Sパスまたは労働許可をもつ外国人労働者を雇う企業が、その雇用に対して毎月支払う1人当たりの税金である。外国人労働者数を規制するメカニズムとしての側面もあるが、政府収入の大きな部分を占めており、シンガポール特有の重要な政府財源となっているようである。さらにSパスと労働許可保持者に対しては、外国人雇用上限率が定められており、これらを変更しながら需給調整が行われている。

労働許可の受け入れ分野は、建設業、製造業、海運業、石油化学産業、サービス産業、家事労働。規模としては、労働許可枠の非高度人材が現在100万人近く存在する。労働許可枠の外国人労働者の増加は、建設分野における労働者の拡大が背景にある。ただし、2012年から2015年の間、毎年3万人前後増加し続けたが、ここ数年は減少傾向にある。他方、建設労働者と同様に大きな集団を形成している家事労働者(注2)については、毎年5000人前後の増加で推移し、2017年現在24.7万人となっている。

受け入れを国籍別に見ると、マレーシア、香港、マカオ、韓国、台湾、中国、インド、スリランカ、タイ、バングラデシュ、ミャンマー、フィリピン等であり、家事労働者の受け入れ国として認められているのは、バングラデシュ、カンボジア、香港、インド、インドネシア、マカオ、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、韓国、スリランカ、台湾、タイの13カ国。うち、ほとんどをインドネシア、フィリピン出身者が占める。

図表
区分 レベル 条件 スキーム 規模
専門職
(Employment Pass)
高度
  • 専門職、管理職、役員対象。
  • 月額S$3,600以上の給与と相応の学歴。
雇用許可制 187,700
技能労働者
(S pass)
中高度
  • 中度技能(技術者等)スタッフ対象。
  • 月額S$2,200以上の給与と相応の学歴または資格。
  • 就労経験年数(Sパス申請が許可されない職種)。ウェイター、バーやラウンジのホステス、食料品店のオーナー。
雇用許可制 184,400
準技能労働者
(労働許可・建設)
中熟練
(R1:上級技能)
次のうち2つを満たすこと。
  • 4年以上の就労年数。
  • 規定の資格。
  • S$1,600以上の月額給与。
雇用許可制 284,900
非熟練
(R2:基礎技能)
規定の資格が必要。 雇用許可制
準技能労働者
(労働許可・家事)
非熟練 家事労働 雇用許可制 246,800
準技能労働者
(労働許可・その他産業)
中熟練
(R1:上級技能)
製造、石油化学、サービス、海運
各産業で規定する経験年数/月額給与/資格(そのすべてまたは一部)が求められる。
雇用許可制 433,500
非熟練(R2:基礎技能) 製造、石油化学、サービス、海運
各産業で規定する資格が求められる場合がある。
雇用許可制

参考レート

2019年1月 フォーカス:諸外国における外国人材受入制度 ―非高度人材の位置づけ ―イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、韓国、台湾、シンガポール

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