アジアの若者に対する職業訓練政策:インドネシア
国家主導で労働力の質の向上を目指す

低学歴者を中心に失業者数が増大

非常に豊富な労働力人口を抱えるインドネシア。しかし、金融危機以降、労働市場の逼迫に伴い、失業者数は2000年には約581万人(失業率5.0%)であったのに対して、2002年には約913万人(同9.1%)へと急上昇している。また、学歴別にみると、就学経験のない者や小・中学校卒の者など、低学歴の者を中心に失業者数が飛躍的に増大していることがわかる。インドネシアでは1週間の労働時間が35時間未満の不完全就労者も多いため、単純な失業率以上に労働市場をめぐる問題は深刻。とりわけ若年者の失業問題は根が深く、国家全体の職業訓練政策を通して、こうした状況の改善を図りたいと考えている。

職業訓練政策の3本柱

金融危機以降、労働市場を取り巻く環境が悪化しており、中央政府は国家主導の職業訓練システムを通じて、労働力の質を向上させることに力を入れている。現在は、2003年の第13号新労働法を根拠とし、職業訓練政策の3本柱として「職業訓練調整機関」(注1)、「国家職業訓練制度」(注2)、「国家資格制度」(注3)の確立を急いでいる。

図1は、こうしたインドネシアの職業訓練システムの全体像を示したもの。職業訓練システムは就労者及び失業者を中心に設計されており、基本的にはその中から選抜された者のみ、訓練プログラムを受けることが可能になっている。訓練プログラムは「全国認定資格フレームワーク」で定められた能力(スキル)を基準として整備され、技能別、段階別などといった様々な訓練内容が準備される。また実際の訓練は、地方政府によって認定された「職業訓練機関」を中心に行われる。訓練終了後、卒業生は「全国認定資格フレームワーク」で定められた能力(スキル)を基準とした技能試験(国家資格制度)にエントリーすることが求められ、合格者は有能な労働力として国内外で活躍することが期待されている。なお技能試験に関しては、職業訓練機関の卒業生だけでなく経験者(在職者)にも門戸を開くことで、技能試験の普及促進を図ろうと考えられている。技能試験及び証書発行はLSP(職種別検定機関)が担当し、こうした職業訓練システム全体の調整を図るための機関として「職業訓練調整機関」が設置されている。

図1職業訓練システムの全体像

注目される若年者対象の職業訓練プログラム

若年者のための主要な訓練プログラムとしては、中央政府(労働移住省)管轄下の5つの職業訓練所(レンバン農業職業訓練所は除く)で実施されている「技術者養成プログラム」、地方政府が所管する高等教育機関に進学することのできなかった高等学校修了者を対象として行われる「専門職訓練プログラム」、若年層の就業機会の問題を解決するために、個々人が自ら職場を創設する(起業する)ことを目指した「TKMT養成プログラム」などのプログラムがある。

(1)「技術者養成プログラム」~中央政府(労働移住省)管轄下の職業訓練

「機械エンジニアリング」、「電子産業」、「溶接」の各分野で必要とされる知識や技術(マルチスキル)を持つ技術者を養成するための訓練プログラムであり、訓練期間は3年間(6セメスター)or5200時間以上である。同訓練プログラムでは、表のカリキュラムの一例で示すように、理論とワークショップ(現場)の授業内容をバランスよく取り入れるように心がけられている。

カリキュラムの一例
学年 授業内容
1年目 理論/576時間(一般理論96時間、技術課題192時間を含む)
ワークショップ/1344時間
2年目 理論/960時間(一般理論168時間、技術課題312時間を含む)
ワークショップ/960時間
3年目 理論/1152時間(一般理論240時間、技術課題336時間を含む)
ワークショップ/776時間

同訓練プログラムの対象者は高卒者~21歳までの若年者であり、高校時代の成績評価が良く(10段階評価で7以上)、かつ筆記試験(英語、数学、化学or物理)、面接、適性検査、健康診断に合格した者のみが受講できることになっている。これまでの被訓練者数については全体を網羅したデータはないが、各職業訓練所の同訓練プログラムの最大収容力は216名/年で、職業訓練所は5施設(レンバン農業職業訓練所は除く)あることから、全国で年間1000名以上の技術者養成が可能という。なお、同訓練プログラムの費用は6カ月(1セメスター)あたり約700万ルピアが必要となる。このうち受講生は100万ルピアを、中央政府は600万ルピアを負担している。同訓練プログラムには政府から9割弱の割合で補助金が出ていることになる。

ちなみに同訓練プログラムを修了した人の就職率は非常に高い。修了後のモニタリングは難しいものの、95%程度の者が就職先を見つけており、チェコスロバキア、オーストリア、ドイツ、中国などの海外で働く者も非常に多く見られる。同訓練プログラムはヨーロッパの評価機関からも認証を受けており、国際的に通用する資格を取得することができる。とりわけヨーロッパ企業からは溶接分野の人材ニーズが高い状況が続いている。

(2)「専門職訓練プログラム」~地方政府管轄下の職業訓練

「専門職訓練プログラム」とは、様々な理由によって高等教育機関(大学など)に進学することのできなかった高等学校(SLTA)修了者を対象として行われている1年間の訓練プログラム。「ジョグジャカルタ職業訓練所」で実施される。各分野における専門的な能力(スキル)を若年者に習得させることで、就労機会に備えることを目的としている。同訓練プログラムに参加するためには、1)高等学校(SLTA)以上の教育を受けていること、2)年齢が17歳以上25歳以下であること、3)精神及び身体が健康であること、4)選抜を通過することという条件を満たす必要がある。現在、具体的な訓練内容としては、役員秘書、ホテルのスタッフ、自動車技師、電気技師、観光ガイドの5種類が準備されている。

(3)「TKMT養成プログラム」~若年者の起業を促す訓練プログラム

TKMT養成プログラムとは、若年層の就業機会の問題を解決するために、個々人が自ら職場を創設する(起業する)ことを目指した訓練プログラム。同訓練プログラムに参加するためには、1)高等学校(SLTA)もしくはD1(ディプロマ1)の教育を受けていること、2)熟練技術を持っていることという条件を満たす必要がある。やる気のある若年層を中心に、新しい起業エリートを生み出すことを目的としている。

訓練期間は2週間程度と短期間ではあるが、訓練参加者の費用負担は無料となっている。ただしこのプログラムは中央政府(労働移住省)が運営しているが、予算上の制約があるため、プログラムに興味を持っている全ての参加希望者を受け入れることはできない状況にある。例えば、ジョグジャカルタ特別区で行われたTKMT養成プログラムのケースをみると、2004年5月16日~29日に開催された第VI期Iグループは、同一州内の5つの県や市から選抜された50名が参加できたに過ぎない状況にある。

2005年10月 フォーカス: アジアの若者に対する職業訓練政策

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