アジアの若者に対する職業訓練政策:韓国
若年失業対策としての職業訓練プログラムが拡充

アジア通貨危機が職業訓練政策の転換点

韓国の職業訓練制度は、1960年に経済開発計画の一部として開始され、70年代に整備が進んだ。当時の職業訓練政策は、一定規模以上の企業に企業内訓練の実施を義務付ける訓練義務制度および技能検定制度から成り、均一で熟練した労働力の供給など、第二次大戦後の経済発展に大きく寄与した。しかし80年代に入り非熟練労働者不足が顕在化するなど、従来の職業訓練制度の限界が指摘されるようになった。

1997年に発生したアジア通貨危機が職業訓練政策を技能労働者の養成から、失業者等の就業促進および在職者の職業能力向上にシフトさせる転換点となった。98年の失業率は7.0%にまで上昇し、緊急避難策として雇用創出、雇用保険制度の拡充、労働市場の流動化など、多額の財政支出を伴う雇用対策が講じられた。この結果2002年の失業率は3.1%と通貨危機以前の水準まで回復した。しかし若年雇用は回復がにぶく、就業までの期間の長期化、進学も就職もしない「無業」の若年者の増加など、若年失業問題が深刻化した。

若年失業は就業を通じた知識・技能の蓄積を妨げ、将来的な競争力の低下要因となることから、2003年に誕生した廬武鉉政権は、若年の雇用安定を重要な政策課題として位置付けた。これを受けて総理直轄の国務調整室と労働部(わが国の厚生労働省にあたる)は若年失業対策協議会を設立、「青年就業総合対策」を打ち出した。職業訓練プログラムとして、労働力需給のミスマッチ解消のためのSchool to Work支援、職業指導から就職までをパッケージとする就業支援プログラム、産学連携によるインターンシップ等が実施されている。

第1表:職業訓練の領域
正規教育時期
(小・中・高・大学)
労働市場進出段階 在職段階 失業段階
→青少年を訓練対象に →就業の困難な層を 訓練対象に
非労働力者(女性、高齢者など)
未就業者(青年失業者)
→在職者を訓練対象に
勤労者(雇用保険被保険者)
→就業の困難な層を訓練対象に
失業者
学生 中途脱落者、非進学青少年

職業訓練の行政組織

職業能力開発政策の全般は労働部によって企画・管理されている。地方自治体も国費(80%)と地方費(20%)を財源とする雇用促進訓練事業を主管するほか、個別の予算で職業訓練政策を企画、管理することができる。

公共職業訓練を実施する主な機関は、1)韓国産業人力公団、2)技能大学、3)韓国技術教育大学校、4)大韓商工会議所の4つ。これらの機関はそれぞれの設立目的により、技能士養成、多機能技術者養成、訓練教師養成、技能人材の育成などの職業訓練施策を行う。このほか、職業訓練法人、大学、専門学校、事業内訓練機関などの民間職業訓練機関に、労働部が訓練生を委託するかたちでも職業訓練が実施されている。

職業訓練プログラムの内容

職業訓練プログラムは、在職者向け、失業者向け、技能人材養成に大別される。在職勤労者訓練は、職業能力開発事業(雇用保険基金)を基本に多様な支援事業を実施。失業者訓練及び技能人材養成は、一般会計予算又は雇用保険基金を財源に公共及び民間職業訓練機関を通じて実施されている(第2表参照)。

第2表:各訓練事業の概要

第2表

若年失業対策における職業訓練関連施策

「青年就業総合対策」における主な職業訓練関連施策として下記のようなプログラムが実施されている。

(1)対応型訓練

大卒者は情報通信分野、高卒者は造船や自動車分野など、職業訓練対象の学歴等に応じて訓練職種を絞り込んだ職業訓練を実施する。

(2)中小企業向け青年採用パッケージ事業

対応型訓練と中小企業での採用を結びつけるサービスを提供する。

(3)インターンシッププログラム

中小企業と未就業新卒者を結びつける機能に注目が集まっており、雇用創出政策の一環として、インターン制支援対象企業および補助金額が拡大されている。

(4)「2+1」プログラム、「2+2」プログラム

School to Work 支援関連施策として教育機関から職に就くまでの移行期における産学間ならびに教育機関相互のコミュニケーションの必要性が認識され、欧米にならった施策等が取られている。

ドイツのデュアル・システムに類似している「2+1」プログラムは、実務知識と技術の修得を目的としており、産学協同の実務モデルとして注目されている。登録している学生は2年間学校で教育を受けた後、残りの1年を実地訓練(OJT)契約のもと、企業で働きながら学ぶ。

米国で導入された技術準備(Tech-Prep)プログラムの修正版とされる「2+2」プログラムは、高等学校から専門学校への進学を円滑に進めることを目的とする中等教育(職業訓練高校)-高等教育(職業訓練大学)間の接続プログラムで、職業訓練専門高校の最後の2年間を、同大学の最初の2年間の課程と関連づけられている。

2005年10月 フォーカス: アジアの若者に対する職業訓練政策

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