アジアの若者に対する職業訓練政策:中国
人口大国から人的資源大国へ

雇用・失業状況

「中国労働統計年鑑」によると、2003年の中国の総人口は12億9200万人(香港特別行政区、マカオ特別行政区、台湾省を除く)であり、そのうち経済活動人口は7億6075万人、労働力参加率は76.2%となっている。

就業者数は7億4432万人であり、その内訳は、都市部が34.4%(2億5639万人)、農村部が65.6%(4億8793万人)となっている。また、就業者数の推移をみると、1994年の6億7455万人から2003年の7億4432万人へと、過去10年間で6977万人増加している。

2003年末時点の都市部の登録失業者数は800万人、登録失業率は4.3%であり、前年と比較すると、登録失業者数は30万人増加、登録失業率は0.3%上昇している。

職業訓練の概要

中国政府は、これからの経済発展には「人口大国から人的資源大国への変身」が必要であるとの認識から労働力の質の向上に取り組んでいる。高い素質を持った人材の養成に力を注ぐことが、安定的な経済基盤の築くことになり、それを促す的確な職業訓練は中国における雇用促進活動の重要な役割を担っている。

中国では、社会主義の下で、より多くの国民に仕事を与えるために、一般の教育と並行する形で職業訓練が取り入れられており、まず職業教育、職業訓練を受けて資格を取得し、その後就職に至るといった流れができている。

職業訓練は、大きく就業前訓練、在職訓練、転業訓練、見習い制度に分けられ、初級、中級、高級の職業資格訓練とその他の技能訓練、適応性訓練などをカバーしている。

政府は、高等職業学校、中等専門技術学校、高級技工学校、技工学校、職業訓練センター、民間職業訓練機構、企業内訓練センターなどの職業訓練機構の発展を通じて、多様な方向からの多段階の職業教育と訓練システムを確立している。

若年者対象の職業訓練プログラム

中国では、労働力の新規参入が毎年1000万人以上、さらに都市部の登録失業者の約7割を35歳以下が占めており、若年者の就業問題が年々深刻化している。そこで、中国政府は社会全体の就職の圧力を緩和し、若年労働者の技能を高めるために労働予備制度、起業促進プログラム、青年見習い計画等、様々な取り組みを進めている。

(1)労働予備制度

1999年、国務院はこれまで個別の地域で試行してきた労働予備制度を全国レベルで展開する通達を下した。労働予備制度は、若年労働者の能力向上、失業者の能力開発を目的とし、「先ず訓練をうけ、後に就職する」(先培訓、後就業)という方針の下、職業教育や職業訓練を行う制度である。

対象は、都市部の高卒や中卒で高等教育に進学できなかった者および農村部で高等教育に進学できず、農業以外の分野に就業する者、もしくは農村部から都市部の非農業部門に移動する者である。

訓練期間は、中卒者3年、高卒者1~2年が基本であり、主に技工学校、職業訓練センター、民間訓練機構で実施されている。2003年には126万人の都市部で進学できない中卒、高卒者が同訓練に参加した。

(2)起業促進プログラム

1998年、解雇された若年労働者の起業の促進を目的に青年同盟と労働社会保障部により起業促進プログラムが開始された。同プログラムは、当初、熟練技能をもつ中高年のレイオフ労働者に対して、起業の機会を与えるために発足したプログラムであるが、若年労働者の就職難を背景に、訓練対象者を若年層に広げている。

プログラムの焦点は、職業訓練および仲介サービスを用いて、若い企業家を養成することにある。具体的には、国際労働機構(ILO)が組織した「SYB(会社の作り方)訓練」に沿って進められており、内容は起業意識、起業計画、起業計画書の三つから構成されている。総訓練時間は80時間。訓練修了後、受講生は自身の作成した起業計画書を完成させ、これに基づいて起業計画を実施していく。なお、起業訓練プログラム修了者には、起業の際に、税金の優遇、小額貸付、無担保融資等の優遇措置が取られている。

(3)青年見習い計画(インターンシッププログラム)

1998年以降、学生募集枠を広げた四年制大学の学生が続々と卒業しており、大卒者の就業問題も浮上している。近年の新入生募集に関するデータから推算すると、今後、数年間四年制大学の卒業生数は大きな増加率を維持し、2005年には卒業時に就職が決まっていない卒業生が120万人に達すると推測される。

このような状況の下、上海市では2002年より青年見習い計画を導入し、一定の条件をクリアした企業で、就職先が決まっていない学生を対象に就職のための適応性を強化している。期間は通常3~6カ月、最長1年であり、受入れ企業には自治体から一人につき500元/月の補助金が支給されている。

同プログラムは受入れ企業をはじめ、大学生とその家族の高い支持を得ており、上海では、既に108企業で実施され、2000人以上のインターンが企業内で研修を受けている。上海市で始められたこの制度は2003年以降、全国に広がりをみせ、大学生の就業意識・能力の増強の一つの形として期待されている。

就業者数の推移

参考

  1. 国家統計局人口与就業統計司編『中国労働統計年鑑2003』中国統計出版社、2003
  2. 張亜力「中国における若年者の雇用」『2004年海外委託調査連絡員会議』内部資料、労働政策研究・研修機構、2004
  3. 中国人民共和国国務院『中国就職情報と政策』白書、2004
  4. 莫宋主編『2003-2004年中国就業報告』労働社会保障部労働科学研究所、2004

2005年10月 フォーカス: アジアの若者に対する職業訓練政策

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