EU拡大と域内労働力移動:フランス
EU拡大に関するフランスの対応
—新規加盟国の労働者受け入れについて

2004年5月1日のEU拡大を受けてフランス政府はこのほど、新規加盟国からの人的移動の自由を段階的に認める方針を発表した。同方針によると、5月1日以降、新規加盟国のうち自営業者や研究者などは、就業の自由が認められているのに対して、賃金労働者としての就労を希望する者は、原則的に、EU域外出身者と同じ規定を適用され、フランスでの労働が制限される。しかし、2年後の2006年には、この就業制限に関する見直しが行われ、賃金労働者の就労についても部分的に解禁される可能性がある。フランス政府は人的移動の自由について、5年後の2009年までの完全実施を目指しているが、国内の労働市場の状況、特に失業率の動向が大きな鍵となる。こうした中、社会問題省は、新規加盟国の労働者受け入れに関する移行措置についての手引き『L’EUROPE S’ELARGIT : comment la France accueillera les ressortissants des nouveaux Etats membres ?』(『ヨーロッパ、拡大す ~ フランスは、どのように新規加盟国の国民を迎えるか ~』)を発表した。詳細は以下の通り。

1.就労規制の設定理由

フランス政府は、国内労働市場を保護するため、新規加盟国からの労働者受け入れに関して、移行期間を設けている。その背景には、フランスの厳しい雇用情勢と特殊な人口動態がある。フランスの失業率は、依然として高く、求職者は200万人以上といわれる。このため、現在実施されている雇用対策の効果を高めるためにも、新規加盟国からの労働者の受け入れは、労働市場の変化を見極めながら、段階的に行わざるを得ない。また、出生率は他のEU諸国に比べ高い水準を維持しており(2000年現在、1.88)、このことは、今後、労働市場に多くの若年者が供給されることを意味する。さらに、就業率の低い高齢者も、労働力の供給源となり得る潜在的な労働力として存在している。
こうした状況に加え、EU拡大後の労働者の移動が極めて不透明であるということも、労働者の受入れに規制を設ける要因となっている。労働者の移動については、様々な研究をもとに予測されているが、フランスへの労働者流入を推定することはかなり困難である。しかし、新規加盟国の国民の間で、生活・所得水準の高い他国への移住の強い憧れが、依然として存在することは事実である。
このような理由から、フランスは、新規加盟国からの労働者の受け入れを暫定的に制限することを決定した。

2.移行期間

新規加盟国からの賃金労働者に対しては、EU拡大日(2004年5月1日)から2年間、原則的に、従来通りの規制を適用する。ただし、自営業者に対しては、同日以降、その入国および事業開始の自由が認められている。この期間の終了時に、移行措置に関する評価や、雇用環境、その後の見通しなどの調査が、全国規模で行われる予定である。
この調査の結果によっては、制限措置の3年間の延長が決定される可能性がある。また、労働力不足の深刻な産業などについては、新規加盟国からの賃金労働者の受け入れの解禁や、全国規模での移行措置の適用の停止などの措置が採られることもあり得る。いずれにせよ、労働市場の状況、特に失業率の動向により、2年後の措置の詳細は決定されることになる(ただし、雇用環境が悪化した場合でも、新規加盟国出身者の就労規制を強化する法整備がなされることはない)。なお、5年の移行期間後、ドイツやオーストリアが既に表明しているような期間の延長(2年間)については、現在のところ検討されていない。

3.カテゴリー別の移行措置

1.賃金労働者(原則)

新規加盟国出身者が、賃金労働者としての就労を希望する場合、原則的に、EU域外出身者と同じ規定を適用し、フランスの労働市場へのアクセスは制限される。

まず、労働許可の申請が従来どおり義務付けられる。この申請は、就労を希望する地域の労働需給状況によっては、県労働管理局により却下されることもあるが、EU域外からの申請者よりは優遇される。
また、労働許可が認められると同時に、国民に準じる扱いを受け、同一の雇用状況のフランス人賃金労働者と同等の権利を有することとなる。つまり、新規加盟国出身の賃金労働者は、労働許可証を申請する手続きについては制限があるが、許可されれば、滞在や就労のみならず、様々な社会的な権利を得られるといえる。

2.賃金労働者(例外)

新規加盟国からの賃金労働者の就労は、5年間の予定で制限しているが、季節労働者などある種の賃金労働者については、例外が認められる。

a.若年実地研修労働者(研修生)

2国間協定が交わされた新規加盟国の若年者(18歳から35歳)で、職業訓練の一環として、報酬を得ながら就労する者は、移行期間中も、その2国間合意の制約内で、一時的な賃金労働をすることが可能である。ちなみに、現在までにポーランドやハンガリーなどと協定が締結されている。この措置は、企業における賃金労働者としての勤労経験を通じて、個々人の職能の向上や、フランスに対する理解・見識を高めることを目的としている。

この「若年実地研修労働者」としての身分での就労には、相応の学位の取得や、関連分野での職業経験、さらに一定のフランス語力が必要とされる。就労期間中は、賃金や社会保障などに関して、同一企業内の同職種・地位の労働者との差はない。この身分での就労の申請や承認などの行政手続きは、地方自治体の関係部署と連携しながら、国際移民局が行う。

実地研修の期間は、原則として1年間である。同じ雇用主の下では、6ヶ月の延長が1度だけ可能であり、最大18ヶ月間の就労が認められている。しかし、その後延長することはできず、さらにフランスでの新たな就業も認められず、帰国しなければならない。

b.季節労働者

農業省により労働力不足と認定された地域において、ワイン用のブドウやその他の果物の収穫時などの繁忙期には、新規加盟国の労働者の一時的就労が認められる。この場合も、新規加盟国との間で2国間協定の締結が前提となる。この措置の目的は、フランスの労働市場への新規加盟国労働者の一時的な受け入れを容易にすることであり、その制度や手続きについては、若年実地研修労働者と類似している。

季節労働者は、雇用主と季節労働契約を締結しなければならない。その際、賃金などの労働条件は、同一身分のフランス人労働者と同等の扱いを受ける。就労に関する行政手続きは、国際移民局を中心に行われる。各契約書は、労働管理局で審査され、その同意を得なければならない。雇用期間の終了後は、フランスでの新たな就業は出来ず、母国への帰国が義務付けられている。

c.新規加盟国のサービス業被用者

新規加盟国のサービス業者は、2004年5月1日以降、フランスでの営業活動の自由が認められており、商談など企業活動のために、賃金労働者である従業員を労働許可の申請をせずに派遣することができる。ただし、常用従業員に限られ、当該事業のために新たに採用された者をフランスへ派遣することはできない。

企業は、その営業活動を雇用関係当局に申告しなければならない。また、フランスにおける諸規制の遵守が義務付けられ、派遣された労働者は、フランスの国内労働者と労働条件などで同等の扱いを受ける。

3.自営業者(非賃金労働者。主に個人事業主や自由業者)

新規加盟国出身者は、2004年5月1日以降、会社設立や事業展開を自由にすることが可能となった。自営業者として就業するためには、自らが被用者ではないことを明確に示す必要がある。

新規加盟国出身の自営業者による事業活動は、国内の同業者と同じ諸規則が適用され、商業登記簿への記載や、業種によっては、職業団体への加入が義務付けられる。

自営業者は、滞在許可証の申請と、商業登記簿への登記により、営業を開始することができる。その家族に対しても、原則的に、自営業者と同期間の滞在許可証が交付される。

4.研究者

2004年5月1日以降、研究者としての身分であれば、新規加盟国出身者は、フランスに自由に入国でき、研究活動を行うことができる。彼らに対する扱いは、学生ないし賃金労働者と同等で、フランスの教育・研究機関から賃金報酬を受けながら研究する場合、つまり、賃金労働者として研究に従事する場合でも、労働許可証の取得は免除される。

5.医療関係者(医師や看護師・介護士を含む)

医療関係職従事者が、5年間の移行期間中、賃金労働者としてフランス国内で就労することは、原則として認められていない。しかし、県労働管理局により「医療関係者が不足している」と認められた地域では、新規加盟国出身者の就労は可能である。その場合も、原則的に、EU認定共通資格所持者のみが対象となり、県の社会保健局による「既加盟国からの医療関係者に対するものと同様の審査」を経た後に、医療業務に就くことが可能となる。

また、開業して医療業務に携わる(自営業)場合は、資格や居住など様々な国内法による規制がある。そのため、2004年5月1日からの事業開始の自由は、実質的には、適用除外となっている。

6.求職者

新規加盟国出身者の求職者としての入国は、認められていない。しかし、新規加盟国出身者でも、フランスで失業した者は、求職活動が可能で、失業保障制度の対象にもなる。また、フランスの失業給付を受けながら、3ヶ月を限度に、出身国での求職活動が認められている。

7.学生

学生は、旅券か身分証明書の提示で自由に入国が可能となり、その就学期間の滞在許可証を受けることができる。

学生は、パートタイムに限って、賃金労働が許される。学生の家族(配偶者と子供)は、たとえEU加盟国外の国籍所持者であっても、フランス領内での滞在のみならず、いかなる就労(賃金労働者や自営業者として)も認められる。


参考資料

  1. Delegation aux Affaires Europeennes et Internationales au Ministere des Affaires sociales, du Travail et de la Solidarite, L’EUROPE S’ELARGIT: comment la France accueillera les ressortissants des nouveaux Etats membres ?
  2. La documentation francaise, Immigration : les impacts sur le marche du travail, problemes economiques, no 2851, 2004
  3. Ministere Ministere des Affaires sociales, du Travail et de la Solidarite新しいウィンドウへ

2004年7月 フォーカス: EU拡大と域内労働力移動

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