EU拡大と域内労働力移動:中欧・東欧
国外労働に関する世論の動向

5月からEU加盟国となった中東欧10か国。これら新規加盟国から従来加盟国15か国への労働移動は、各国の労働市場に直接影響する問題として大きな議論を呼んでいる。新規加盟国の国民1人あたりGDPを従来加盟国と比較すると、依然として大きな経済格差がある。長期的には格差が平準化していくとしても、当面は中東欧諸国からの人口流出のプレッシャーが続くと考えられる。

いわば労働者の送出し側である東欧諸国においても、他の加盟国への移民がどれくらい生じるかが大きな議論を呼んでいる。一部の国では国民が移民労働にどれくらい関心をもっているか、世論調査も行われている。European Employment observatory(EEO)が紹介するそれらの調査結果をみると、各国の移民意欲は一様ではないことがうかがえる。移民労働への意欲は、各国の経済・雇用情勢と大きく関係する。以下では、失業率のレベルの異なる3つの国について、EEOの記事により世論の動向をみることとする。

ポーランド:若者の半数が国外労働に意欲

ポーランドの失業率は新規加盟国中最も高い(2004年4月18.9%)。この国で今年の3月に行われた世論調査の結果によれば、回答者の32%が他の加盟国での就労意欲を持っていた(他の加盟国で積極的に仕事を探す18%、特別の仕事があれば働いてもいい14%)。移民への関心が特に高いのは、若者と失業者であった。24才以下の回答者のほぼ半数(47%)が、他加盟国での仕事探しを考えており、そのうち4分の1は明確な意志を持っていた。また失業中の回答者の40%が、他加盟国での求職を考えており、そのうちやはり4分の1は明確な意志をもっていた。

希望する行き先は、ドイツ(36%)、英国(17%)で過半数を占めていた。

希望期間としては、回答者の半数が一時的な就労を望んでいた(1年以内35%、2年以内15%)。しかし、相当の長期にわたる移民の希望も約3割を占めていた(3年以上11%、ポーランドに帰らなくてもいい17%)。残りの2割は、ポーランドに住みながら国外で働くことを望んでいた。
過去数年間、ポーランド人が示す他加盟国で働くことへの関心は一定しているという。

ハンガリー:国外労働は労働者の2%以下?

ハンガリーの失業率は新規加盟国の中でみると相対的に低い(同5.9%)。この国では、労働者のモビリティが低いため、大量の国外移住が生じることはないと考えられている。様々な予測をみても、国外での仕事探しを考えている労働者は全体(約400万人)の1~2%にすぎないという。ただし若者、高学歴者ではこの割合が高くなる。ハンガリーの賃金が早くEU水準に追いつかなければ、有資格者たちが他の加盟国に吸い取られてしまうことが懸念されている。

なお、隣国のスロバキアは、新規加盟国の中ではポーランドに次いで失業率が高い。しかし国民のモビリティはハンガリーと同様に低く、やはり住居の移動を伴う労働移動は少ないと考えられている。

エストニア:国外労働の意欲は低下

エストニアの失業率は、従来加盟国15か国の平均と比較的近い水準にある(同9.2%)。この国で2003年12月に行われた世論調査の結果では、他加盟国での労働意欲は低下しているという。

明確かつ一貫して国外で働く意志がある者は約3%であった。国外での働き方としては一時的な働き方(数ヶ月単位、あるいは時々)が好まれており、永続的に国外で働きたいという者は8%である。男性、若者では国外労働の希望が特に高い。国外労働の主な動機はより高い賃金である。行き先の希望としてはフィンランド、ドイツ、英国の順で多い。労働条件については、現在の仕事と同等以上の仕事、行き先国の住民に匹敵する賃金という希望が6割を占めている。しかし、より資格要件の少ない仕事、より低い賃金でもいいとする回答も4割に上る。

このようにエストニアでも、国外労働の希望者の中心層は若者である。全体としては労働目的で国外に移住する者の数は相対的に少なく、労働市場に問題を生じさせるほどではないとしている。

なお、隣国のラトビアでは国外移住者数の減少が続いており、2003年は約2200人であった。しかし2003年のインターネットユーザーに対する調査からは、潜在的な移民の可能性はより大きいことが示唆され、推計では8万人を上回るという。これはラトビアの就業者数(約100万人)の8%以上ということになる。

以上の調査結果は、あくまでもそれぞれの国民が国外労働にどれくらい関心を持っているかを示す、データの一つにすぎない。これらがどこまで現実のものとなるかは、今後の労働市場の発展や、経済格差がどこまで解消されるかによっても変わってくるだろう。


2004年7月 フォーカス: EU拡大と域内労働力移動

関連情報