2025年の労使団体交渉を総括
 ―WSI報告

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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WSI(ハンス・ベックラー財団所属の経済社会研究所)が3月に発表した報告書によると、高インフレを経た2025年の団体交渉は、賃上げの動きが「正常化」した一方で、引上げ水準は前年比で大きく低下した。協約賃金は名目で平均2.6%上昇したが、実質ではわずかなプラス(0.4%)にとどまり、産業間格差や景気停滞の影響がより鮮明となった。以下にその概要を紹介する。

新規協約数と期間

連邦労働社会省(BMAS)によると、2025年には合計5,580件の新たな団体協約が締結され、そのうち産業別協約は1,861件、企業別協約は3,719件であった。団体協約の中核を成したのは、約1,500件の新たな賃金協約であり、このうち約600件が産業別協約、約900件が企業別協約であった(図表1)。

図表1:2025年に新たに登録された団体協約件数
  賃金協約 基本労働協約(枠組み協約) 基本的労働条件(枠組み規定)を含む労働協約 変更協約および並行(補足)協約 合計
産業別協約 605 71 652 533 1,861
企業別協約 928 329 1,302 1,160 3,719
合計 1,533 400 1,954 1,693 5,580

注:「基本労働協約(Manteltarifvertrag)」とは、労働時間、休暇、解雇・試用期間、手当の基本ルールなどの労働条件の「枠組み」を主目的として包括的に定める協約を指し、「基本的労働条件(枠組み規定)を含む労働協約(Tarifverträge mit Mantelbestimmungen)」とは、別の主目的(多くは賃金)に加えて、一部だけ労働時間等の労働条件の枠組み規定を含む協約を指す。「変更協約および並行(補足)協約(Änderungs- und Parallel-TV)」は、既存の労働協約に対して修正したり(変更協約)、追加的に並行適用したり(並行協約)するものを指す。

出所:BMAS(2026).

2025年の団体協約の有効期間は平均25.4カ月で、平均27.9カ月と過去最長だった前年に比べるとやや短縮された(図表2)。ただし、新聞(日刊)産業では36カ月、ドイツ鉄道では33カ月という長期の合意もみられた。全体としては、24カ月の有効期間を持つ団体協約が標準となっており、2025年に新規締結された協約のうち、24カ月未満の有効期間の協約の適用対象は、全体のわずか10%にとどまった。さらに、労働組合の賃上げ要求の基準とされることが依然として多い「12カ月」の有効期間の団体協約は、4%強の労働者にしか適用されていなかった。

図表2:団体協約の平均有効期間(2010~2025年) (単位:カ月)
画像:図表2

出所:WSI-Tarifarchiv.

賃上げ要求と妥結内容

インフレが落ち着いたため、2025年の労働組合による賃上げ要求は、前年(2024年)と比べて明らかに低い水準となった。2024年には、多くの産業で二桁の賃上げ要求が掲げられていたが、2025年にはそのような例はむしろ例外的で、多くの産業で賃上げ要求は6.0%から8.0%の範囲に収まった。例外は保険業で、過去数年の賃金上昇が平均を下回り、早急に回復させる必要性が特に大きかったことから、統一サービス産業労働組合(ver.di)は12.0%の賃上げを要求した。同様に、新聞(日刊)産業でも12.0%の賃上げを要求した。他方、鉄鋼業のような危機的状況にある産業は、「雇用維持措置に関する要求」を前面に出した上で、賃上げについては具体的な引き上げ率を数値で示さず、実質賃金維持の要求にとどめた(図表3)。

2025年の賃上げ要求では、前年までと異なり、「社会的要素の重視(注1)」がかなり後退した。それまでは、多くの産業において、高インフレによる下位賃金層の負担に配慮して、こうした層の賃金が大幅に引き上げられてきたが、今回は、すべての労働者を対象とする一律の賃上げが要求された。もっとも例外的に、公共部門、保険業、繊維・衣料産業では、社会的要素を重視し、主に定額部分(最低保障額)を中心とする賃上げ要求が掲げられた。

2025年に妥結した賃金協約の平均引上げ率は6.6%(前年は9.7%)で、このうち平均3.5%が同年中に発効した。多くの産業の妥結率は5.0%から7.0%の間に収まったが、平均を上回る高い妥結率となった産業もいくつかあった。その一つが保険業で、ver.diによれば「この30年で最良の結果」を達成したとされる。

図表3:2025年団体交渉ラウンドにおける主な要求と妥結内容
妥結日 産業等 要求 2025年の賃金 2026年/27年の賃金 有効期間
2025年1月30日 ブランデンブルク州の民間運輸業 月額400ユーロ ゼロ月1カ月、2025年2月から月額180ユーロ 2026年2月から3.0% 24カ月(2026年12月まで)
2025年2月16日 ドイツ鉄道 7.6% 3カ月間一時金200ユーロ、2025年7月から2.0% 2026年7月から2.5%、2027年以降は毎年2.0%に加え12月に一時金支給 33カ月(2027年12月まで)
2025年3月4日 ドイツポスト 7.0% ゼロ月3カ月、2025年4月から2.0% 2026年4月から3.0% 24カ月(2026年12月まで)
2025年3月6日 製紙・板紙・プラスチック加工産業 7.5% ゼロ月5カ月、2025年7月から2.0% 2026年5月から2.4%、2027年1月から1.1% 27カ月(2027年4月まで)
2025年3月12日 東部ドイツ菓子産業 9.9%、最低月額360ユーロ ゼロ月4カ月、2025年6月から5.0%、最低月額135ユーロ 2026年7月から2.5% 23カ月(2026年12月まで)
2025年3月12日 外食チェーン業 月額500ユーロ、時給15ユーロ、(賃金等級TG1) ゼロ月8カ月、2025年3月から平均6.8% 2026年1月から2.9%、2026年10月から8.6%(いずれも平均) 30カ月(2026年12月まで)
2025年4月5日/6日 公共部門(連邦・自治体) 総額8.0%、最低月額350ユーロ ゼロ月3カ月、2025年4月から3.0%、最低月額110ユーロ 2026年5月から2.8% 27カ月(2027年3月まで)
2025年4月10日/11日 西部ドイツ繊維・衣料産業 6.5%、最低月額200ユーロ 5カ月間一時金275ユーロ、2025年8月から2.0%、最低月額60ユーロ 2026年10月から2.9%、最低月額80ユーロ 27カ月
(2027年5月まで)
2025年4月16日 ヘリオス病院グループ 8.0%、最低月額350ユーロ ゼロ月2カ月、2025年3月から3.0%、最低月額110ユーロ 2026年5月から3.0% 27カ月(2027年3月まで)
2025年4月28日/29日 東部エネルギー・供給産業(AVEU) 7.5%、最低月額320ユーロ 2025年4月から3.5% 2026年4月から3.5% 23カ月(2027年2月まで)
2025年5月5日/6日 ニーダーザクセン州の自動車整備業 6.5% ゼロ月3カ月、2025年7月から2.3% 2026年8月から3.3% 26カ月(2027年5月まで)
2025年6月27日 ゴム産業 6.7%、組合員ボーナス ゼロ月7カ月、組合員ボーナス450ユーロ 2026年1月から2.1%、2026年12月から2.2%、2026年以降は年額428ユーロの組合員ボーナス(協約賃金に連動) 24カ月(2027年5月まで)
2025年7月4日 保険業 社会的要素付きで12.0% ゼロ月4カ月、2025年8月から5.0%、最低月額200ユーロ 2026年9月から3.3% 26カ月(2027年5月まで)
2025年7月21日 新聞(日刊)産業 12.0% ゼロ月2カ月、2025年3月から月額100ユーロ、2025年5月から月額90ユーロ 2026年3月から3.0%、2027年2月から月額110ユーロ 36カ月(2027年12月まで)
2025年9月12日 労働者派遣業 7.5% ゼロ月3カ月 2026年1月から2.99%、2026年9月から2.5%、2027年4月から3.5% 24カ月(2027年9月まで)
2025年9月30日/10月9日 北西ドイツ/東部の鉄鋼業 実質賃金の確保 ゼロ月3カ月 2026年1月から1.75% 15カ月(2026年12月まで)
2025年11月12日 コカ・コーラ(CCEP) 月額150ユーロの先行引上げ、5.0% 一時金400ユーロ 2026年1月から2.9%、2027年1月から2.4% 28カ月(2027年12月まで)
2025年11月19日 住宅産業 7.0% ゼロ月2カ月 2026年1月から3.1%、2026年1月に一時金100ユーロ、2027年2月から2.3% 26カ月(2027年12月まで)

注:ゼロ月(Nullmonate)は、賃上げが発効しない据置期間を指す。%は賃金引上げ率を表す。

出所:WSI-Tarifarchiv.

2025年の賃上げ率

2025年に新たに締結された団体協約と、前年までに2025年向けとしてすでに合意されていた賃上げを合わせてみると、2025年の協約賃金は名目で平均2.6%上昇した。産業別にみると、上昇率は宿泊・飲食業の6.8%から金属・電機産業の0.6%まで幅があり、産業間の格差が大きかった(図表4)。こうした差異は、各産業のその時々の経済状況を反映したものであり、労働者の交渉力や交渉課題の優先順位にも直接影響している。伝統的な工業部門の多くで雇用削減が進む一方、多くのサービス部門では労働力や熟練人材の不足が深刻化している。ドイツの労使関係モデルでは、長らく金属・電機産業を中心とする工業部門が主導的役割を果たしてきたが、近年はそれに代わって公共部門の存在感が増している。

図表4:2025年の協約賃金引上げ率(主な産業) (対前年比、単位:%)
画像:図表4

出所:WSI-Tarifarchiv.

インフレの影響

2022年と2023年は、ドイツの消費者物価がそれぞれ6.9%、5.9%上昇するなど、歴史的に高いインフレ率に見舞われた危機の年であった。これに対し、2024年と2025年には物価動向は再び正常化した。2025年の消費者物価上昇率は前年と同じ2.2%で、欧州中央銀行(ECB)の目標インフレ率に近い水準となった。高インフレ期には労働者の実質賃金が大きく低下したが、2024年には再び実質賃金の増加が実現した。ただし、それによってもそれまでの損失が完全に埋め合わされたわけではない。こうしたなか、団体交渉政策上はなお回復需要が残っており、2025年の団体交渉ラウンドでは、前年にみられた実質賃金上昇への転換を維持できるかどうかが焦点となった。

さらに、ドイツ連邦統計局の国民経済計算(2026年1月公表)の「実質・連鎖価格による原系列」によれば、GDPは2023年に前年比0.9%減、2024年に同0.5%減となった後、2025年には同0.2%増にとどまった。その主因は輸出のさらなる減少であり、そのマイナスの影響は内需の強まりによっても補うことができなかった。これに伴い、失業者数は年平均でほぼ300万人に増加し、失業率は6.3%となった。

全体として、ドイツでは労働市場の分断がいっそう進んでおり、それが労働組合の交渉力にも直接影響している。多くの産業、とりわけサービス部門では、労働力や熟練人材の不足が続くか、むしろ深刻化している。一方、現在の危機の影響をとくに強く受けている一部の工業部門、なかでもドイツの伝統的な基幹産業の一つである自動車産業では、大幅な雇用喪失に直面している。そのため、こうした産業では雇用維持が労働組合にとって中心的な課題となっており、それが団体交渉政策にも反映されている。総じて、多くの産業で厳しい経済環境が分配をめぐる対立を著しく先鋭化させており、それが比較的多くのストライキや労働争議の発生に表れている。

インフレ手当(IAP)の影響

2025年の協約賃金の上昇は、これまで支払われてきた「インフレ手当(IAP)(注2)」の終了という重要な特殊要因にも大きく左右された。インフレ手当は、高インフレによる労働者の負担軽減を目的として、使用者が2022年10月26日から2024年12月31日までの間、1人当たり合計3,000ユーロを上限に、税および社会保険料の負担なく支給することが認められた時限的な一時金である。IAPは、措置期間中であれば、一括で支払うことも、複数回に分けて支払うことも可能であった。

そのほかのIAPの特徴は、以下のとおりである。

  • ①義務ではなく任意の給付であり、労働者に当然の受給権があるわけではなく、企業の判断や労使交渉の結果として支払われたこと。
  • ②既存賃金に上乗せして支払う臨時的措置と位置づけられ、通常の賃金とは別に追加で支払う必要があり、既存賃金の付け替えでは非課税扱いにならなかったこと。
  • ③現金だけでなく、現物給付でも可能であったこと。

高インフレを背景に、インフレ手当は、労働者に物価高への迅速な補償をもたらすと同時に、当時懸念されていた「賃金・物価スパイラル」を回避するため、賃金上昇を抑制する手段としても想定されていた。

このインフレ手当をめぐっては、当初、労働組合内部でも活発な論争があった。一方では、足元の物価上昇を短期的に補う魅力的な一時金として評価された。他方では、賃金表に反映される恒常的な賃上げを抑えるものであり、長期的には労働者の報酬水準をその分押し下げる側面もあった。もっとも、実際には、ほぼすべての産業でインフレ手当の額や支給方法に関する協約が締結された。

実務上、ドイツでは多くの団体協約でインフレ手当が活用された。連邦統計局によると、2022年から2024年までの全期間を通じて、協約適用労働者の8割以上(86.3%)が、平均2,680ユーロのインフレ手当を受け取った。

多くの団体協約では、このインフレ手当は2023年と2024年に分けて複数回支払われた。しかし、2025年には、前年まで一時金として支払われていたインフレ手当が終了したため、前年にこれを受け取っていた労働者には反動減が生じた。

このため、2025年に合意された賃上げは、多くの産業で、新たな賃金増をもたらす前に、まずこの実質的な減収分を埋め合わせる必要があった。インフレ手当の終了は、2025年の協約賃金の動向を強く押し下げる要因として作用したのである。

WSIの試算では、インフレ手当を考慮しない場合の2025年の協約賃金の引上げ率が、いくつかの産業について示されている。取り上げられたほぼすべての産業で相当の差がみられ、最も差が大きかったのは金属・電機産業であった。インフレ手当を除けば賃金上昇率は3.9%となり、インフレ手当を含めた場合の0.6%の6倍以上になっていた計算になる。小売業および卸売・対外取引業では3倍超、化学産業と保険業では2倍超となっていた。対象となった8産業全体でみると、2025年の平均協約賃金上昇率は2.6%ではなく4.2%になっていた(図表5)。

図表5:25年の協約賃金引上げ率(主な産業、インフレ手当あり/なしの場合)

(対前年比、単位:%)

画像:図表5

出所:WSI-Tarifarchiv.のモデル試算。

協約賃金の長期的推移

2025年の協約賃金の平均上昇率(名目)は2.6%で、5.4%だった2024年、5.5%だった2023年に比べると、かなり低い水準となった(図表6)。高インフレ期の特異な団体交渉ラウンドを経て、2025年の協約賃金の動きは再び長期的なトレンドに戻ったとみることができる。2.6%という伸び率は、協約賃金が毎年2.0%から3.0%の範囲で上昇していた2010年代の平均的な伸びとおおむね重なる。

消費者物価が2.2%上昇するなかで、協約賃金は実質で0.4%上昇した。このため、2025年の団体交渉ラウンドでは、協約適用労働者の実質賃金水準はおおむね維持され、わずかながら改善もみられたといえる。

ただし、2021年から2023年にかけての高インフレ期に、協約適用労働者は大幅な実質賃金の損失を被っており、2024年と2025年の実質賃金の増加をもってしても、その損失はなお完全には埋め合わされていない。協約賃金の実質水準は、依然として2020年時点の水準を下回っている。こうした購買力の低下を背景に、団体交渉上の回復需要はなお相当程度残っている。

図表6:名目協約賃金と実質協約賃金の推移(2010~2025年)

a)対前年比、単位:%

画像:図表6

b)指数、2010年=100

画像:図表6

注:「実質」は、国内消費者物価の動向で実質化した値。

出所:WSI-Tarifarchiv, Destatis.

以上みてきたように、2025年のドイツの団体交渉は、高インフレ期後の「正常化」の年となった。しかし、実質賃金の回復はなお限定的であり、2020年時点の水準にはなお届いていない。加えて、サービス部門における人手不足と工業部門における雇用不安という産業間の分断が、団体交渉の内容や賃上げ水準に色濃く反映された。今後の団体交渉では、実質賃金の回復をめぐる需要と、経済停滞下での雇用維持とのバランスをいかに図るかが、引き続き重要な課題になるとみられる。

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