企業の「オフィス回帰」で仕事満足度が低下、母親の負担感強まる
―WSI調査
ドイツでは近年、雇用主が従業員に出社を求める「オフィス回帰(RTO:Return to Office)」の動きが広がっている。WSI(ハンス・ベックラー財団経済社会科学研究所)の2025年就業者調査によると、テレワークが可能な業務に従事する労働者の3分の1超が、勤務先から出社日数を増やすよう指示を受けたと回答した。特に注目されるのは、こうした企業方針が育児中の母親の負担感を強め、仕事満足度を低下させている点である。WSIの担当者は、企業によるオフィス回帰の強化が、仕事と家庭の両立を困難にし、労働市場における男女間の不平等を拡大させる可能性があると警告している。
3分の1超が「オフィス回帰」を経験
報告書によると、テレワークが部分的に可能な就業者のうち、3分の1超がオフィス回帰(出社強化)を経験していた。さらに、21%は過去12カ月以内に指示を受けたと回答しており、オフィス回帰が比較的新しい動きとして広がっていることがうかがえる。雇用主が求める出社日数は、平均で週3日程度だった。
また、出社強化の指示を受けた労働者のうち、28%は実際に出社日数を増やした一方、20%は増やしていなかった。出社を増やしていない理由としては、「仕事上、そこまで出社する必要がないから」が最も多く、次いで「書面による在宅勤務の合意があるから」、「育児などの事情で対応できないから」などが挙げられた。これらの結果からは、企業が求める出社方針と、働く側の実情との間にずれがあることが読み取れる。
母親の満足度は、父親より低い
オフィス回帰施策に対する従業員の満足度は総じて低いが、なかでも母親の低さが目立つ。報告書では、オフィス回帰施策への満足度を0~10の尺度で測定しており、父親が4.8であるのに対し、母親は3.6にとどまった。子どものいない男性は4.3、子どものいない女性は4.1と男女であまり変わらない中、母親の数値のみが相対的に低くなっていた。
その背景として、女性と男性の間で無償ケア(家庭内の育児や介護など)がなお不均等に分担されている点がある。つまり、出社日数の増加は、単なる勤務形態の変更にとどまらず、託児所への送迎や朝晩の子どもの世話、家事との調整負担をより大きく引き受けている層に強く影響し、オフィス回帰施策は、とくに母親にとって、生活全体の再調整を迫る措置として受け止められているといえる。
この傾向は、子どもの有無だけでなく、実際に誰が子育てを担っているかという観点からも明確に確認できる。報告書によると、子どもの世話の大半を自ら担っている人の満足度は3.4と最も低く、これに対し、パートナーが主に子育てを担っている場合は4.8、両者で均等に担っている場合は4.7であった(図表1)。
図表1:職場のオフィス回帰施策(RTO)に対する満足度(0~10)

出所:WSI(2026).
この結果は、オフィス回帰の負担が一律ではなく、家庭内におけるケア分担のあり方によって大きく異なることを示している。報告書は、オフィス回帰施策に対する不満が特に強いのは、就業外のケア責任を担い、出社日数を増やすことが難しい労働者であると指摘する。そのうえで、オフィス回帰施策は柔軟な働き方を後退させ、時間のやりくりが難しい労働者ほど、より大きなストレスを抱えやすくする可能性があるとしている。
さらに今回の調査では、オフィス回帰施策がある職場の方が、ない職場よりも仕事満足度が低い傾向が確認された。仕事満足度は、オフィス回帰施策のない職場で6.9、ある職場で6.5だった。とくに、指示によって実際に出社を増やした人では6.4と、より低かった。また、オフィス回帰による負担感は、裁量が低い非管理職で特に強くみられた。
背景にある「統制強化」への疑念
オフィス回帰を推進する理由として、雇用主が多く挙げていたのは、「同僚間の交流促進」や「チームワークの円滑化」である。これに対し、労働者側は必ずしも同じようには受け止めていない。報告書によると、多くの労働者は、オフィス回帰施策の背後に「統制強化への欲求」や「管理職による部下への信頼不足」があるとみていた。加えて、オフィス回帰施策について公式な理由や説明を受けた人は半数程度にとどまっていた。
そのうえで報告書は、公式な理由や説明が示された場合の方が、示されなかった場合に比べて満足度が高いことを明らかにしている。透明性を欠いた運用は、オフィス回帰施策への反発を強める要因となっていた。十分な説明がないまま出社に関する裁量だけが狭められれば、従業員の不満や不信感を招きやすいことが示された。
男女不平等を強める可能性
今回の調査結果は、オフィス回帰施策が単なる勤務管理上の問題ではなく、労働市場における男女間の不平等とも深く関わる可能性を示している。テレワークは、通勤時間の削減や生活時間の柔軟化を通じて、とくに育児責任を負う人の就業継続を支えてきた。そこに出社義務の強化が加われば、短時間勤務への移行や就業中断を余儀なくされる人が出るおそれがある。報告書は、こうした影響がとりわけ母親に集中しうる点を重視している。
このため、オフィス回帰施策の拡大は、女性の就業拡大や就業時間の増加をめざす政策方向とも緊張関係にある。WSIの担当者は、業務全体の約4割では従来どおりテレワークの実施が可能であり、在宅勤務を希望する労働者も依然として多いと指摘する。そのうえで、柔軟な働き方を個別企業の判断のみに委ねるのではなく、法的・制度的なルール整備が必要だと論じている。
参考資料
- Neue Studie des WSI: Ein Drittel der Erwerbstätigen mit Vorgaben für weniger Homeoffice konfrontiert – Folgen für Job-Zufriedenheit und Belastung
(23.03.2026) - Yvonne Lott, Eileen Peters: Zurück ins Büro? Verbreitung, Hintergründe und Folgen von Return-to-Office-Initiativen.
WSI Policy Brief Nr. 96, März 2026. - Tagesspiegel: Weniger Homeoffice, mehr Belastung: Pflicht zur Rückkehr ins Büro drückt Jobzufriedenheit deutlich
(23.03.2026)
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