「法定合意解約」制度の現状と課題①
 ―制度利用の増加と失業保険改革

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2025年10月

2008年に導入された、解雇と自己都合退職の中間的な労働契約の終了の制度である「法定合意解約」制度の利用件数が増加している。労使双方にとってメリットがあるため増加しているが、政府は過度な利用を問題視しており、同制度を利用した失業保険給付の支出を抑制する改正に乗り出す方針である。政府の改正案は利用件数の抑制と失業保険収入の増加をねらいとしているが、問題の本質は制度の悪用であり、不正利用を押さえ込む対策の必要性を主張する声もあがっている。

利用件数は創設当初の2.7倍に

2008年に創設された「労使合意による労働契約の解約」制度(以下、法定合意解約制度)(注1)は、自己都合の退職、経済的理由または個人的な理由による解雇に加えて、無期雇用契約を終了する一つの方法である。雇用主にとって紛争を回避でき、解雇にかかる費用負担を予め決定できるメリットがある一方で、従業員にとっても自己都合退職の扱いにならず、失業手当の受給資格を享受できる。雇用主と従業員の合意に基づいて成立するため、雇用契約を円満に終了する方法として(注2)利用件数が近年増加する傾向にあり、2025年第1四半期は12万7,998件であった(注3)。2024年は1年間に51万4,627件にのぼった。制度創設直後の2009年の年間利用件数は19万1,713件だったが、2014年には31万964件に増加。制度創設直後から15年間(2009年から2024年にかけて)で約2.7倍の利用件数に増えたことになる(図表1参照)。

図表1:法定合意解約の利用件数(四半期ごと)
画像:図表1

出所:DARES資料(Les ruptures conventionnelles, 9 octobre 2025 Trimestrielles Nationales)を参照して作成。

法定合意解約制度は、その手続きの簡易さとともに、行政による公式の承認、労使間の紛争が労働審判に提訴される可能性をほぼ完全に排除できること、さらに前述のように、自己都合の退職扱いにならず労働者に失業手当の受給資格が与えられること等により、労使双方によって高く評価されている(注4)。ただ、件数の急増を問題視する政府は過度な利用と捉えている(注5)

制度の濫用に対する改正案

パノシアン=ブーベ労働大臣は、政労使による失業給付制度に関する協議のなかで、失業保険財政に負担をかけている法定合意解約制度の見直しを検討していることを伝えた(注6)。制度の濫用が横行し、失業保険財政を圧迫していると考えているため、同大臣は7月15日、失業保険制度に関する協議の一環として、労働組合と雇用主に対し、この制度の見直しを求めていることを明らかにした(注7)。だが、労使間で意見が分かれている(注8)

失業保険管理団体「Unédic」が6月末に発表した報告書によると、法定合意解約に伴って失業保険の給付金受給資格を得た受給者は、他の受給者よりも給付金の支出割合がわずかに高い(注9)。さらに、法定合意解約の恩恵を受ける労働者は、主に普通解雇される労働者に比べて、より高い日額給付金を受け取り、失業期間が約15カ月と長くなる傾向があると労働大臣は指摘した(注10)。2023年には、法定合意解約により労働契約を終了した68万人が失業給付を受給しており、全手当受給者の18%に相当する(注11)。また、法定合意解約によって支払われた給付金の額が2024年には94億ユーロに達し、給付費支出総額365億ユーロの25%強に達すると予想されている(注12)。これは10年間で8ポイントの増加であり(注13)、失業保険財政を圧迫する要因と考えられている。

待期期間の延長

パノシアン=ブーベ労働大臣が発表した制度改正の選択肢は多岐にわたる。企業の従業員規模、給付額、給付期間、待期期間など、政府はあらゆる可能性を検討しているとするが、最終的な選択肢として待期期間の延長が有力である(注14)

フランス・トラバイユ(公共職業安定所)に求職者登録してから最初の失業給付金を受給できるまでに待期期間が設けられている。現行制度では、最低7日間と定められているが(注15)、労働契約の終了時に受け取った補償金に基づいて計算され、解雇補償金が高額であればあるほど、この期間は長くなる(注16)。受給までに数週間、あるいは数カ月も待たなければならない場合もあり、この期間の上限は現行制度では5カ月とされている。法定合意解約に署名した従業員は、通常の解雇の場合に支払われる補償額よりも高い額を交渉できることも多いため、失業給付を受け取るまでの待期期間が、長くなるのが一般的である。

検討されている改正案では、法定合意解約の従業員の失業手当受給までの待期期間を延長し、経済的解雇や普通解雇された従業員の待期期間は延長しないとしている(注17)

雇用主負担増による利用の抑制

待期期間の延長のほかにも、バイルー首相が7月15日に発表した改正案には、法定合意解約に対する雇用主の負担を30%(注18)から40%に引き上げることが挙げられている(注19)。現行制度では、法定合意解約によって労働契約を解約した雇用主は、従業員に支払った補償額の30%に相当する拠出金を支払っており、その額は最大9万4,000ユーロに達する(注20)。バイルー首相に代わったルコルニュ新首相は、財政支出の削減のため次期社会保障予算に改正案を盛り込む可能性がある。

この制度改正によって政府は、雇用主に対して、法定合意解約の利用の削減を促すと同時に、社会保障機関への雇用主の納付額を増加させることを目指している(注21)。この措置によって納付額を10%ポイント引き上げる制度改正を検討しており、社会保障費として年間2億5,000万ユーロから3億ユーロの追加財源が確保されると試算している。

ただ、この改正による法定合意解約の減少と社会保障財政の収入増は両立しないとの指摘もある。この改正による納付額の増加の試算には、法定合意解約の削減分が加味されていないからである。また、法定合意解約の削減による失業保険給付額の減少は、自己都合の退職の件数に対する法定合意解約の件数を考慮に入れながら試算すべきだが、その割合を測定することは不可能である。こうした不確定要素があるので、改革による納付額の増額を試算することはできないという指摘がある(注22)

(ウェブサイト最終閲覧日:2025年10月23日)

参考レート

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