連邦雇用エージェンシー、業務軽減に向けたAI導入を計画

カテゴリー:労働条件・就業環境

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公共職業安定機関である連邦雇用エージェンシー(BA)は、2032年までに現在の職員の35%以上が退職または離職すると予測している。少子高齢化と労働人口の減少により、退職者の補充として新規採用を行っても、最大で3分の1のポストが空席となる可能性がある。このような将来的な人手不足に対応するため、BAはスタートアップAI企業「アレフ・アルファ(Aleph Alpha)」と業務提携し、最大1,900万ユーロを投じて職員の業務負担を軽減するAIアシスタントの導入計画を進めている。

職員不足をAIで補完

連邦雇用エージェンシー(BA)は、連邦労働社会省(BMAS)が所管する公共職業安定機関で、失業者や求職者への支援、雇用主への助言、失業給付など、幅広い業務を担っている。BAの最高情報責任者(CIO)、ステファン・ラトゥスキ氏によると、同機関では今後7年間で定年退職者が増加し、現在の職員数(約11万5,000人)を維持することが困難になる見通しだという。こうした人員不足に備えて、BAは業務のデジタル化やAI導入を早急に進める方針を打ち出している。

データ保護を重視し、国内AI企業と提携

現地の報道(Handelsblatt)によると、BAは、国内のAIスタートアップ企業「アレフ・アルファ」と4年間の業務契約を締結し、最大1,900万ユーロを投じる計画だ(注1)。すでに実施されたパイロットプロジェクトでは、書類作成、申請審査、情報整理、顧客対応といった業務にAIを活用することで、「最大30%の作業時間削減が可能」との結果が示されている。今後は、より少ない職員数でサービスを提供するために、AIの活用をさらに加速させ、職員が限られた時間内で処理できる業務量を増やしつつ、コア業務への集中を促進していく方針だ。

国内AI企業、アレフ・アルファとは

アレフ・アルファは、元Apple社のエンジニアであるヨナス・アンドルーリス氏が2019年にバーデン=ヴュルテンベルク州で創業したスタートアップのAI企業である。一般向けの生成AIではなく、特に機密性の高い行政機関や企業向けに、独自に開発した大規模言語モデル(LLM)を用いたサービスを提供している。

同社はすでにバーデン=ヴュルテンベルク州政府と提携して、州職員向けに、大量の書類を短時間で検索・要約できるAIアシスタントサービスを提供している。州は公的機関として、AI活用に際して厳格なデータ保護と情報管理の基準を設けており、アレフ・アルファは州内に設置された独立したデータセンターを通じて、それに対応したサービスを提供している。このような実績を背景に、アレフ・アルファは2022年、ベルリンに新たなデータセンターを開設し、欧州の一般データ保護規則(GDPR)に完全準拠したデータ提供の運用体制を整えている。

行政手続きのデジタル化も促進

BAはAI導入計画と並行して行政手続きのデジタル化も進めている。その背景には、2017年に制定された「オンラインアクセス法(Onlinezugangsgesetz, OZG)」の存在がある。この法律により、連邦および州は協力して、あらゆる行政サービスをオンラインで提供し、各行政のポータルサイトをネットワーク化することが義務付けられている。

連邦労働社会省(BMAS)とその下位機関は、260以上の連邦サービスのデジタル化を担っており、BAはその中でも多くのサービスを担当している。BAによれば、2023年末時点で約70のサービスがすでにデジタル化されている。

今年1月14日からは新たに、行政手続きの電子化の一環として「jobcenter.digital新しいウィンドウ」の機能が拡張され、ジョブセンター(注2)の公式アプリ「Jobcenter-App新しいウィンドウ」がリリースされた。このアプリはスマートフォンなどのモバイル端末に無料でダウンロードでき、時間や場所を問わず、利用者の関連申請やオンライン予約を簡単に行うことが可能となっている。

公共職業安定機関によるデジタル化とAIの活用は今後も同時並行で進められ、行政職員の負担軽減や業務効率化、そして利用者の利便性向上がさらに加速すると見込まれている。

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