介護分野の業種別最低賃金、7月1日から引き上げ

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介護分野の業種別最低賃金が2025年7月1日から引き上げられ、保有資格に応じて、未経験者は時給16.10ユーロ、介護補助士は同17.35ユーロ、看護介護専門士は同20.50ユーロとなる。適用期限は2026年6月末までとし、さらに法定有給休暇に加えて、年間で9日間の追加の有給休暇(週5日勤務の場合)を取得する権利も付与される。

法定最低賃金と業種別最低賃金

ドイツでは、ナチス時代に国家が労働条件を直接規制していた歴史的経緯から、「賃金政策への国家介入」には、労使双方に警戒感が根強くある。そのため、第二次世界大戦後は「労使自治(Tarifautonomie)」を原則とし、産業別の労働協約によって賃金(協約賃金)を決定してきた。

しかし、東西ドイツ統一後の雇用情勢の悪化(特に旧東独地域)、EU拡大による外国人労働者の流入、賃金ダンピングの深刻化、ハルツ労働市場改革に伴う規制緩和といった要因が重なり、労使だけで賃金の下限を設定し、それを全国の労働者に波及させることが次第に困難となった。

このような状況下で、協約賃金の恩恵を受けられない低賃金労働者の存在が社会問題となり、必要な業種に限定して個別に最低賃金を導入する動きが始まった。その結果、こうした業種別最低賃金が「つぎはぎの絨毯(Bunter Teppich)」と揶揄されるほど複雑な形で拡充された。最終的には約10年間の議論を経て、2015年1月1日に史上初の「法定最低賃金(当時、時給8.50ユーロ)」を導入することで解決が図られた。

現在も残る「業種別最低賃金」は、海外労働者送出法(AEntG)や労働者派遣法(AÜG)に基づいて、連邦労働社会省が法規命令(Rechtsverordnung(注1)によって定めている。業種別最低賃金は、法定最低賃金より高い金額が設定されているが、適用期間中に法定最低賃金を下回る場合には、法定最低賃金が優先される。

この法規命令により、企業(雇用主)は国籍や本社所在地にかかわらず、ドイツ国内で該当業種に従事するすべての労働者(ドイツ人・外国人問わず)に対して業種別最低賃金を支払う義務がある。対象業種は、派遣労働や、食肉加工、介護など外国人労働者が多く、低賃金になりやすい業種が指定されている(注2)

保有資格に応じた金額

2025年7月に改定が予定されている介護分野の業種別最低賃金は、介護労働者の賃金ダンピング防止と人材確保を目的として、2010年8月に導入された。当初は「旧東ドイツ」と「旧西ドイツ」の地域別に設定されていたが、その後、地域差は廃止され、2021年7月から、保有資格に応じた3段階の最低賃金が導入されている。

今回の引き上げは、2023年8月に介護委員会が提出した勧告に基づき、連邦労働社会省が発出した法規命令(第6次介護分野における強行的労働条件法規命令)(注3)に基づいて正式に決定された。この業種別最低賃金は、2026年6月末まで適用される。法規命令はさらに、介護分野の労働者に対して、法定有給休暇に加えて、年間9日間の追加の有給休暇(週5日勤務の場合)の取得権利も規定している。

図表1:介護分野の最低賃金時給(2024年以降)
  職業訓練を受けていない補助者(未経験者) 介護補助士
(看護介護補助士)
介護士
(看護介護専門士)
2024年2月1日~ 14.15ユーロ 15.25ユーロ 18.25ユーロ
2024年5月1日~ 15.50ユーロ 16.50ユーロ 19.50ユーロ
2025年7月1日~ 16.10ユーロ 17.35ユーロ 20.50ユーロ

出所:Bundesregierung(2025)(注4)

なお、この業種別最低賃金が適用されるのは、認可された介護施設で働く労働者に限られ、それ以外の労働者には、現行の法定最低賃金(2025年1月1日~、時給12.82ユーロ)が適用される。

人材不足を背景に大幅な賃金上昇

現地の報道(Tagesschau)によると、医療・介護分野で働く労働者の賃金は、過去10年で大幅に上昇している。同分野のフルタイム労働者の月収の中央値は、2014年から2024年の10年間で、2,829ユーロから4,048ユーロへ、43.1%上昇した。同分野の労働者で、特に賃金上昇の恩恵を受けたのは、高齢者介護(Altenpflege)で、2014年の2,616ユーロから2024年の4,228ユーロへ、61.6%も上昇した。この大幅な賃金上昇の背景には、少子高齢化の進展に伴う慢性的な人手不足や業種別最低賃金引き上げの影響が強く反映されていると見られている。

なお、今回の最低賃金改定によって、看護介護専門士の業種別最低賃金は初めて時給20ユーロを超える高水準となるが、連邦統計局によると、少子高齢化の影響で、人材不足は今後も継続し、10年間で9万人の看護介護士が不足し、2049年までに、3倍の28万人以上が不足する可能性があり、人材の確保が難しい情勢は今後も続くと予測されている。

参考資料

参考レート

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