資料シリーズNo.269
諸外国の失業保険制度のオンライン化に関する調査
―アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、韓国―

2023年5月9日

概要

研究の目的

規制改革実施計画(2022年6月7日閣議決定)では、失業認定を含む雇用保険受給関連手続きについて、「デジタル技術を活用した行政サービスの見直し」に関する意見も得たうえで、対応の方向性を検討する方針が示された。この議論の参考になる材料を提供するため、諸外国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、韓国)における失業認定を含む雇用保険の受給関連手続きのオンライン化の状況について、文献調査等により情報収集を行った。

研究の方法

文献サーベイ

主な事実発見

  • 失業保険制度の認定手続き等におけるオンライン化の進展の度合いは各国で異なる(図表1)。アメリカではオンラインによる申請・認定手続きが普及し、対面方式は行われなくなってきている。一方、イギリスでは対面方式の面談が求職活動を促進する効果がある(雇用年金省調査)との考えに基づく制度設計上、オンライン化に慎重な姿勢を崩していない。ドイツやフランス、韓国は行政のデジタル化を推進する政府方針のもと、利用者の利便性と公平性、メリットとデメリットを考慮しつつ、オンライン化を推進している。

    図表1 失業認定手続きの「オンライン化」の状況

    アメリカ
    (カリフォルニア州)
    イギリス ドイツ フランス 韓国

    ・申請、認定、給付の全プロセスをオンライン化している(郵便や電話での申請も可能)。

    ・申請時、受給資格に疑いがあり、確認する必要が生じた場合は、電話で確認する。

    ・新規申請時の認定の可否は郵便で回答。

    ・パソコン非保有者はアメリカンジョブセンター(公共職業紹介機関)や公立図書館のパソコンを利用して申請・認定手続きが可能。

    申請は主にオンライン。

    認定は原則として来所・面談による。

    ・求職者登録や失業認定に関する一連の流れ(登録・ガイダンス・カウンセリング予約・手当申請・支給)は、2022年1月1日以降、オンライン機能付IDを活用してオンライン処理が選択可能に。

    ・求職登録の相談や人材紹介の面接はビデオ電話で実施することも可能。失業後の初回相談は原則対面だが、失業前4週間以内に同様のものを実施済みであれば不要。ただし、雇用エージェンシーから要請がある場合、直接対面に応じる必要あり。 

    ・求職者登録のための必要事項の登録、書類の提出、個別就職計画(PPAE)の作成手続きをオンライン化(電話や対面も選択可能)。

    ・パソコン環境の整っていない求職者は雇用局に設置されているPCでデジタル申請が可能。

    ・求職者登録のための初回面談におけるPPAE作成は原則、対面(物理的出席)による。

    ・給付認定のため1カ月に1回、PPAEの更新(求職活動及び訓練受講の記録の更新)をする必要あり(オンライン上でデータ更新が可能)。                 

    ・資格申請には雇用センターへの訪問が必須。

    ・認定は、4回目は対面、それ以外はオンライン申請が可能。ただし、反復受給者は1回目、4回目、長期受給者は1回目、4回目に加えて受給満了日の直前または前々回の失業認定日にも対面で認定を受ける必要あり。

    ・1回目は集団教育を行う。2、3回目は自主的な再就業活動を基本として原則オンライン申請とし、4回目以降は担当者の介入を通じて積極的な求職活動を支援。

    アメリカでは、連邦失業税法や社会保障法で定める要件をもとに、各州が州法等で独自のプログラムを制定し、管理、運営を行っている。本調査で取り上げたカリフォルニア州をはじめ、多くの州ではオンラインによる失業保険の申請・認定手続きが一般的になっている。オンラインで申請すると、支払当局はその内容を前職等の雇用主に確認するなどして、誤認や虚偽等がないかどうかをチェックする。2週間に1度行う継続申請の手続きで、受給者は「仕事を探しているか」など6項目の質問にオンラインで回答し、認定を得る。こうした方式が浸透し、オンライン化自体の是非を問う議論は目立たない(図表2)。

    図表2 米カリフォルニア州のオンライン失業認定申請(継続申請)において、
    画面上で回答 (Yes or No)を求められる質問項目

    ①病気や怪我で働けない状態だったか(Were you too sick or injured to work?
    ②病気や怪我以外の理由で平日フルタイムの仕事に就けない状態だったか(Was there any reason (other than sickness or injury) that you could not have accepted full-time work each workday?)
    ③仕事を探しているか(Did you look for work?
    ④仕事を拒否したか(Did you refuse any work?
    ⑤何らかの学習か訓練への参加を始めたか(Did you begin attending any kind of school or training?
    ⑥(実際に支払われたかどうかにかかわらず)仕事や収入があったか(Did you work or earn any money, Whether you were paid or not?

    イギリス(求職者手当)は申請のみオンライン化しており、その後の受給資格の認定や維持には、原則として来所のうえ面談を受けることを義務付けている。失業者に対する給付の支給には、制度上、面談を通じた「受給者誓約」の作成や、定期的な求職活動の確認等が重要な要素として組み込まれている。面談の実施には求職活動を促進する効果がある、との考え方を反映したものといえる。こうした対面による面談をオンラインに切り替える動きはみられない。

    ドイツは2017年制定の「オンラインアクセス法(OZG)」に基づき、2022年末までに、デジタル化が可能なすべての行政サービスをオンラインで提供し、各行政ポータルサイトをネットワーク化することを義務付けた。これに基づき、「失業手当Ⅰ」における失業者登録、手当の申請、支給という一連の手続きが、利用者の利便性に応じてオンラインで行えるようになった。

    フランスの失業保険の申請や認定の手続きにおけるオンライン化は、2015年から本格的に進められた。初回の申請手続きにおける個別就職計画(PPAE)作成のための面談が対面で行われる以外は、原則としてオンライン手続きが可能となっている。実際、学歴が低く、資格や技能を持たないため、長期失業者になる可能性が高い求職者の場合は定期的な対面での面談が行われているが、それ以外は面談も含めて原則としてオンラインによる手続きとなっている。PPAEの更新や必要書類の提出は通信によって遠隔で行える。オンライン化後、雇用局での窓口受付業務を午前中に制限し、午後は事前予約した求職者への対応や求職支援ワークショップを実施する時間に充てるようにした。

    韓国は2011年からインターネットを介した失業給付(失業給与)の申請が本格的に可能になった。システムへのログイン時の本人確認は、既存のインターネットバンキングや政府への申請業務に使用する認証書(共同認証書)を使用している。

  • コロナ禍では各国で対面による申請・認定等の手続きを「非接触型」の電話やオンライン等に切り替える動きが進展した(図表3)。

    図表3 コロナ禍における「オンライン化」の実施状況

    アメリカ
    (カリフォルニア州)
    イギリス ドイツ フランス 韓国

    コロナ禍前からすべての手続きをオンライン化していた。

    ・コロナ禍では、システムダウンなどで申請・認定手続きが滞ったことへの批判が多く報じられた。

    緊急かつ例外的な措置として一時的に来所による面談を免除。コロナ禍初期には求職活動や就業可能であることを要件から除外。

    ・面談等の再開にあたっては若者など相対的に「支援を要する」層から段階的に行うとの意向が示された。

    ・行政サービスのデジタル化の動きが感染拡大抑制のために加速。例外的に電話またはオンラインによる失業申請、認定が期間限定で行われた。

    ・最初のロックダウン時に感染拡大防止の観点から雇用局のサービスのすべてが原則オンラインによる手続きに。

    ・ロックダウン解除後、サービスの質を確保する必要性のある一部サービスは物理的な手続きに戻された。

    ・2022年6月までは1回目、4回目を含むすべての回の失業認定がオンライン申請可能であった。

    アメリカでは申請件数が急増してシステムがダウンしたり、電話回線もつながりにくくなるなどして支給事務が滞り、州民からの批判を招いた。個人情報の不正取得による詐欺行為も増加した。このため、古くなったシステムの更新や体制の強化、詐欺被害の防止対策の徹底が求められている。

    イギリスでは感染対策として一時的に面談が免除され、電話で代替できるようにした。とはいえ、あくまでもコロナ禍における緊急かつ例外的な措置であるとし、感染拡大が収まっていくのに伴い、段階的に対面での面談を再開させている。

    ドイツでは失業認定を含む多くの申請等が非接触型に切り替わり、オンライン化が進展した。電話等での相談に加えて、2020年秋からはビデオコミュニケーションによる双方向型の求職・訓練等の相談サービスが始まった。これは利用者にも好評であり、今後も拡大する傾向にあるとみられる。

    フランスでは、コロナ禍の初期段階では初回の面談もオンラインで行われたが、その後、「サービスの質確保」を目的として対面方式に戻された。政府は行政サービスのデジタル化を推進する方針だが、サービスの質の確保や、情報通信機器の扱いに不慣れな求職者のため、オンライン以外の書面や対面、電話での対応を選択肢として残す必要性、自宅が画面に映ってアドバイザーに見られるのはプライバシー上問題だとして、オンラインでの面談を望まない者がいることへの配慮、などが求められている。

    韓国では、受給資格の申請及び資格認定後の最初と4回目の失業認定の申請は対面で行わなねばならなかったが、一時的に、すべての失業認定をオンラインでできるようにした。受給資格の認定についても、失業給付を繰り返して受給する者らを除き、オンラインでできるようにするため法改正の動きがあるなど、オンライン化を進めていく方向にある。また、申請手続の問い合わせなど雇用センターへの定型的な質問に対応するため、チャットボットを導入する動きもみられる。

  • 各国のオンライン化の導入理由やその効果を見ると、メリットとして利用者の利便性向上や手続きの効率化・迅速化などがあがっている。とくに山間部や島嶼部の住民らにとっては、窓口に出向くための移動時間や費用を削減できる効果は大きい。

    デメリットや課題としては、サービスの質の確保、情報通信機器の扱いに不馴れな高齢者らへの配慮、プライバシー保護、不正行為増加の可能性、システム開発及び運営にかかる保守・更新費発生、などが指摘されている。

  • 多くの国が、申請からの一連のプロセスの中で重要とみなす局面において、あるいは、より手厚い支援を必要とする者に対しては、原則として対面で対処する方針をたてている。

政策的インプリケーション

各国の失業保険制度において、①失業者が給付を受けるためには、行政当局等に申請等の手続きを行ない、認定を受ける必要がある、②認定を受けるためには、就労可能で積極的な就職活動を行っているなどの要件を満たさなければならない、③要件を満たさない者には支給停止などの措置をとる、という基本的な枠組みは共通している。

こうした一連のプロセスの中で、各国その程度は異なるが、それぞれ必要に応じて可能な範囲で、オンラインによる一部、あるいはすべての手続きを可能にしている。ただし、多くの国は重要とみなす局面において、または、より手厚い支援を必要とする者に対しては、原則として対面で対処する方針を立てている。また、オンライン化の手続きに不馴れな者や、それを望まない者らが不利益を被らないよう、対面方式などの選択肢を残している。

政策への貢献

失業認定のオンライン化に関する検討を行うための基礎資料として活用されることを想定。

本文

研究の区分

緊急調査

研究期間

令和4~5年度

執筆担当者

石井 和広
調査部(海外情報担当)主任調査員補佐 序章・第1章(アメリカ)
樋口 英夫
調査部(海外情報担当)主任調査員補佐 第2章(イギリス)
飯田 恵子
調査部(海外情報担当)主任調査員 第3章(ドイツ)
北澤 謙
調査部(海外情報担当)主任調査員補佐 第4章(フランス)
池田 美智子
調査部(海外情報担当)調査員 第5章(韓国)

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