外国人労働者の正規雇用可否の指標となる「人手不足職種リスト」を更新

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2025年6月

外国人労働者の雇用・採用の可否の基準となる人手不足職種リストが4年ぶりに全面的に更新された(注1)。このリストは地域圏別に作成されており、農業、飲食業、宿泊業など、人材が不足している81の職種(職業名)をリストアップ。多くの地域圏が農業関連などの職種を新たに追加している。雇用主の人手不足解消への期待が高い一方で、実務の現場では人手不足であるにもかかわらず、リストから漏れた業種・職種があるため、その業界の雇用主からは不満の声があがっている。

2025年人手不足職種リストの特徴

不法就労者を雇用した場合、3万ユーロの罰金(外国人一人当たり)と5年の懲役刑が科される可能性がある(労働法典L.8256-2条)(注2)。そのため求職者の多くが外国人の業種では、採用に尻込みする雇用主も少なくない(注3)。だが、各地域圏で定める「人手不足職種リスト」に掲載されれば、その職種での正規雇用が可能になる。このため、人手不足職種リストへの掲載は、EU域外の労働者を雇用する場合に懸念される有罪判決の可能性を回避する措置として期待されている。

リストは地域圏ごとのさまざまな業界団体との協議に基づいて作成されるため、掲載される職種は地域によって異なる(注4)

13の全ての地域圏でリストに掲載されている職種は、「雇用農業労働者」「畜産農家」「菜園園芸労働者」「ワイン製造・樹木栽培労働者」「料理人」「ホテル従業員」「ホームヘルパーとハウスキーピング(Aides à domicile et aides ménagères)」である。そのほか、12の地域圏で掲載されているのが、「家事・家庭内清掃員(Employés de maison et personnels de ménage)」「飲食業の厨房アシスタント・見習い・一般従業員」「食品産業のその他の熟練労働者」「建築塗装および仕上げ熟練作業員」「石工」「非熟練建設労働者」である。また、8地域圏以上で掲載されている職種は、「非熟練建設労働者」「溶接工」「食品業界の非熟練労働者」「その他の非熟練産業労働者」「その他の熟練産業労働者」「施設メンテナンス業」である(注5)

13の地域圏の中で最も多くの職種を挙げているのがパリを含むイル・ド・フランスで41職種、次いでフランス南東部のプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュールで39職種である。一方、最も少ないのは北部のオー・ドゥ・フランスとコルシカ島で27職種である(図表1参照)。2021年のリストでは、ほとんどの地域圏で30職種を掲載するかたちをとっていたが、2025年のリストでは、掲載職種数にばらつきがある。また、ほとんどの地域圏が職種数を増やしている。

図表1:地域圏ごとの人手不足職種リストの掲載職種数
地域圏名 2021年 2025年
オーヴェルニュ=ローヌ・アルプ 30 37
ブルゴーニュ=フランシュ・コンテ 30 30
ブルターニュ 30 23
サントル・ヴァル・ド・ロワール 30 32
コルシカ島 14 27
グラン・テスト 21 32
オー・ドゥ・フランス 30 27
イル・ド・フランス 30 41
ノルマンディ 30 26
ヌヴェル・アキテヌ 30 31
オクシタニ 30 35
ペイ・ド・ラ・ロワール 30 33
プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール 26 39

出所:Arrêté du 1er avril 2021およびArrêté du 21 mai 2025に基づく。

農業関係の職種の多くで掲載数が増加した背景には「農業危機(Crise des agriculteurs)」と言われる問題がある(注6)。2024年3月に政府は緊急措置として2021年のリストを更新し、12の都市圏(コルシカ島以外の地域圏)に農業関連の「雇用農業労働者」「畜産農家」「菜園園芸労働者」「ワイン製造・樹木栽培労働者」の職種を加えた(注7)

2021年リストからの変更点

2021年リストと2025年リストの主な変更点は以下のとおりである。

2025年リストで初めて掲載され、とりわけ多くの地域圏(9以上の地域圏)で掲載されたのが、「非熟練建設労働者」「建築塗装および仕上げ熟練作業員」「溶接工」「その他の非熟練産業労働者」「食品産業のその他の熟練労働者」「その他の熟練産業労働者」「飲食業の厨房アシスタント・見習い・一般従業員」「料理人」「ホテル従業員」「カフェやレストラン従業員」「ホームヘルパーとハウスキーピング(Aides à domicile et aides ménagères)」である(図表2参照)。このほか、「認定された熱処理および表面処理作業者」と「金属加工、組立、錠前職人などの非熟練労働者」も多くの地域圏(6~7の地域圏)で掲載されている。

図表2:2021年リストと2025年リストの増減等
【新規】 特に多くの地域圏で掲載された職種(9以上の地域圏) 「非熟練建設労働者」「建築塗装および仕上げ熟練作業員」「溶接工」「その他の非熟練産業労働者」「食品産業のその他の熟練労働者」「その他の熟練産業労働者」「飲食業の厨房アシスタント・見習い・一般従業員」「料理人」「ホテル従業員」「カフェやレストラン従業員」「ホームヘルパーとハウスキーピング」
多くの地域圏で掲載さた職種(7~8地域圏) 「認定された熱処理および表面処理作業者」「金属加工、錠前職人、組立などの非熟練労働者」
【増加】 大幅増加職種 「雇用農業労働者」「畜産農家」「菜園園芸労働者」「ワイン製造・樹木栽培労働者」「食品業界の非熟練労働者」「家事・家庭内清掃員」「施設メンテナンス業」
掲載数が増加した職種 「土木事業、コンクリート、採掘作業における非熟練労働者」「土木工事、コンクリート工事、採掘作業における熟練労働者」
【減少】 大幅減少職種 「ボイラー技師」「板金工」「トレーサー(図面技術者)、錠前職人、金属加工、鍛冶屋」「機械および金属加工デザイナー」「トラック運転手」
掲載数が減少した職種 「大工(木材)」「屋根葺き職人」「測量士」「技術者および建築・土木設計担当者」「建築・土木技術者、現場管理者、建設監督者(幹部)」「電気・電子設計者」「熟練した木工職人と家具職人」「メンテナンスおよび環境技術者および監督者」「メンテナンスと環境の技術マネージャー」「通信技術者および管理者」
【削除】
掲載がなくなった職種
「熟練した木工職人と家具職人」「物流、計画、スケジュール管理のエンジニアおよびマネージャー」「医療技術者および準備者」「医療機器の専門家」「その他の医療従事者」

出所:Arrêté du 1er avril 2021およびArrêté du 21 mai 2025に基づく。

掲載される地域圏の数が大幅に増加した職種は、「雇用農業労働者」「畜産農家」「菜園園芸労働者」「ワイン製造・樹木栽培労働者」「食品業界の非熟練労働者」「家事・家庭内清掃員(Employés de maison et personnels de ménage)」「施設メンテナンス業」である。このほか、「土木事業、コンクリート、採掘作業における非熟練労働者」「土木工事、コンクリート工事、採掘作業に従事する熟練労働者」も増加している。

一方で、掲載数が大幅に減少したのが、「ボイラー技師」「板金工」「トレーサー(図面技術者)、錠前職人、金属加工、鍛冶屋」「機械および金属加工デザイナー」「トラック運転手」である。「大工(木材)」「屋根葺き職人」「測量士」「技術者および建築・土木設計担当者」「建築・土木技術者、現場管理者、建設監督者(幹部)」「電気・電子設計者」「熟練した木工職人と家具職人」「メンテナンスおよび環境技術者および監督者」「メンテナンスと環境の技術マネージャー」「通信技術者および管理者」も減少している。また、掲載がなくなった職種は、「熟練した木工職人と家具職人」「物流、計画、スケジュール管理のエンジニアおよびマネージャー」「医療技術者および準備者」「医療機器の専門家」「その他の医療従事者」である。

今回のリストの更新に際して、ヴォートラン労働・保健・連帯大臣(当時)(注8)は、24年6月、職種の選定にあたって、従来の方法にとらわれず実態に即したリストになるよう各地域圏の県知事に対して指示を出している(注9)。人手不足で採用が困難な職業だけでなく、実態として外国人労働者を多く雇用している業種や職種、つまり現に大半の職務が不法移民労働者によって担われているために公式統計には載っていない職業も考慮に入れるよう要請した(注10)

実態を反映しないリストとの声も

2024年1月に公布された移民法の改正によって、人手不足職種を対象として、不法就労者(travailleurs sans papiers)が一定の条件を満たせば、申請することによって在留資格の正規化が可能となった(注11)。求人(労働需要)の多い職業で働く不法就労者には、例外的に、「臨時労働者」または「従業員」の居住許可証の発行が認められる。過去24カ月間に少なくとも12カ月間の就労実績があり、フランス国内に3年間居住して社会に溶け込んでいることを証明する必要がある。この許可を申請するために雇用主を介する必要はない。ただし、最終決定は県知事の裁量に委ねられている。

宿泊・飲食業界の主要な業界団体であるUMIH(Union des Métiers et des Industries de l'Hôtellerie)は、2025年2月にリストの更新が具体化した際、同業界は人手不足が深刻であり採用が極めて困難であるため、新たな通達が公布されることによって、すでに国内に滞在しており、宿泊・飲食業界の職業への就労を希望する外国人が正規雇用で就労できるようになると期待する声明を発表していた(注12)

ただ、その数カ月後、実際に公表されたリストは、地域圏によっては期待された職種が掲載されず、実態が反映されていないという批判もある。

UMIHはウェイターなど飲食店に関する職種をリストに掲載するように要請したが、「料理人」は全13地域圏で初めてリストに掲載されたものの、「飲食業の厨房アシスタント・見習い・一般従業員」「カフェやレストラン従業員」は掲載されていない地域圏(プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュールやブルターニュ)があり、UMIHは政府の対応を非難している(注13)。UMIH職業訓練・雇用委員会のバルテルミー委員長は、リストが実際の採用難を反映しておらず、実態と乖離しているという見解を示した(注14)

また、CGT(労働総同盟)イル・ド・フランスで移民労働者問題を担当するギドー氏は、全国で物流部門の「荷役作業者」や「配達ドライバー」が、現在もなお人手不足が深刻であるにもかかわらずリストから削除されたことを問題視している(注15)

全国民間ホームケア施設・高齢者住宅・サービス連合は、「看護師」や「看護助手」が全国的に深刻な人手不足で、採用が容易な地域圏などないと主張する。全地域圏で掲載されてもおかしくないが、「看護師」はブルゴーニュ=フランシュ=コンテ、グラン・テストなど7の地域圏、「看護助手」は8の地域圏に掲載されているのみであることを問題視している(注16)

U2P(地元企業連合)は食品業界の、「肉屋」「パン屋」「魚屋」に関連する職種などがリストアップされていない地域圏があることを遺憾だとしている。こうした重要な産業に目が向けられてないリストは、関係企業に多大なる影響を及ぼすとだろうしている(注17)

こうした掲載漏れが発生している理由について、リストの掲載基準が年間を通じて人手不足となる指標に基づき決定しており、需要のピークが一年の限られた期間に集中し、人手不足に季節性がある職種が外れたためではないかとの指摘もある(注18)

こうした批判に対して労働省は、人手不足の切迫度合いを地域別に数値化しており、掲載されていないのは、その数値が基準となる閾値を超えていないためだと説明している(注19)

閣内不一致も一因に

2024年1月の移民法改正では、与党法案に野党からの要請を盛り込む過程で、移民の就労促進と移民数の抑制という異なった政策方針が混在する法律となった。法改正を受けて、リストの更新に取り組み始めた当時のダルマナン内務大臣(与党「共和国前進」)は、特定の業種において人手不足が深刻化している現状に対応するために、法案に盛り込まれた不法就労者の正規化を促進する条項を活用する意向を示していた。だが、2024年6月の下院の解散と7月の新内閣の発足の結果、内務大臣には連立を組む共和党のルタイヨ議員が就任した。ルタイヨ内務大臣は、強硬派で移民数の削減を主要な政治姿勢としているため、リストの更新には消極的な立場だった(注20)

パノシアン=ブーヴェ労働・雇用担当大臣(注21)は、25年2月21日、労使に対しリストの改定案を提示し、全国的な労使協議を2月28日に開催し、3月初旬には法令を公表する意向だった(注22)。ところが、労使協議の過程で、不法就労の許可に消極的な内務大臣から強い圧力があったため、リストの改正が思うように運ばなかったとフランス民主労働総同盟(CFDT)のニコル全国連盟書記は指摘している(注23)

労働・雇用担当大臣は外国人受入れを推進する考えだが、内務大臣は移民を抑制する意向を示しており閣内に不一致があった。しかも、ルタイヨ内務大臣は5月に行われた共和党党首選に立候補を表明し、外国人労働者を抑制する基本姿勢を示しているため、リストの公表が自身の党首選に悪影響を及ぼすことを懸念し、リストの公表を遅らせたという見方もある。実際、リストが公表されたのは、共和党党首選で同氏が当選した5月18日の数日後だった(注24)

3月初旬の予定だったリストの公表が5月下旬まで遅れ、人手不足が顕著になる夏季に迫ったことにより、業種によっては大きな影響を受けるところも出てくる。特に宿泊・飲食業関連業種への影響は小さくないため、UMIHは政府に対して憤りを露わにしている(注25)

(ウェブサイト最終閲覧日:2025年5月30日)

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