新たな移民関連法が公布
 ―滞在許可の厳格化で国外追放も

カテゴリー:外国人労働者労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2024年4月

2023年12月に新たな移民関連法が成立し、憲法評議会の審議を経て、1月26日に「移民規制と社会統合の改善のための法律(以下、「新移民関連法」)(注1)」として公布された。従来、国外退去義務の適用対象外だった「特定不法外国人」についても、フランスにとって脅威となると判断されれば滞在許可を取り消し、即刻国外追放を命じることができるようになった。2月22日には新移民関連法の規定に基づく初めての国外追放が実施されている。外国人の受け入れと滞在許可を厳格化する一方で、建設や飲食といった人手不足職種において就労する不法滞在者を一定の条件のもとで正規化する条項も盛り込まれている。以下で新移民関連法による改正内容とともに、憲法評議会によって削除された条項についても紹介する。

「特定不法外国人」の扱いの厳格化と追放命令

13歳未満でフランスに到着した外国人、あるいはフランスに20年以上居住している外国人、フランス人と婚姻関係にある外国人、フランス人の子どもの親である外国人は、「特定不法外国人(certains étrangers irréguliers)」として保護されており、従来の制度ではフランスから追放されることはほとんどなかった(注2)。今回の制度改正で、国家の基本的利益に対する攻撃やテロ活動への関与が疑われる場合には、この保護対象から除外され、国外追放される可能性がある。

新移民関連法では、このように国の脅威となると判断された場合、県知事が国外追放の判断を下すこともできるとしている。公布から1カ月も経たない2月22日には、南仏ガール県で新移民関連法の規定に基づく初めての国外追放が実施された。

今回追放(本国チュニジアへの送還)(注3)(注4)されたのはイスラム教導師マジュブ・マジュビ氏で、反フランス的言動や女性差別、反ユダヤ的な発言を繰り返し行い、人種的憎悪の扇動やテロ活動を促したりしたことなどが問題視された。

マジュビ氏は1980年代からフランスに居住し、仏国籍の女性と結婚し、仏国籍の4人の子どもの父親で、2029年まで有効の滞在許可証を保有していた。従来は入国滞在法典L. 611-3条(注5)に規定されていた「特定不法外国人」に該当し、国外追放処分の執行は事実上不可能だった。しかし、新移民関連法は、上述のように公の秩序に重大な脅威を与える外国人の国外退去処分とすることを認めており(注6)、この規定を利用した初めての事例となった(注7)。ダルマナン内相は、新移民関連法の制定により迅速な国外追放の手続きが可能になったとして、法改正による成果を強調した(注8)

滞在許可証発給・更新の拒否

共和国の原則の尊重に同意しない場合や、それを履行しない場合に、滞在許可証の発給・更新拒否や没収事由になる条項が盛り込まれた。3年または5年の拘禁刑(emprisonnement)などに処された外国人の国外追放手続きが可能となる。

人手不足職種における不法滞在者の就労

新移民関連法の趣旨として、人手不足の職種における不法就労者の例外的な正規化(滞在許可の緩和)と、外国人医療人材に対する滞在許可の拡大が、外国人の社会統合や亡命に関する措置、重大な犯罪があった場合の強制退去の促進とともにある(注9)

有効な滞在許可証を持たないが、人手不足の職種(建設、介護、飲食関連など)で就労する外国人労働者の正規滞在化を可能とする条項は、法案審議にあたって与野党間の激しい論争の焦点となった(注10)。一時は廃案となり成立があやぶまれたが、野党からの修正提案を受け入れる形で成立した。

少なくとも3年間以上フランスに在住し、過去24カ月間に合計で少なくとも12カ月間、人手不足職種における雇用労働者としての就労実績があるとともに、刑罰を受けていない、ことなどを条件に、1年間有効の滞在許可証を交付する制度とした。当初の法案では8カ月間の就労としていたものを長期間化する修正が加えられた。また、交付条件が厳格化され、当初案では条件に合致した場合、自動的交付とされていたが、県知事が個別に滞在許可証の交付の是非を判断することになった。この措置は、2026年末までの試験的な実施である。

こうした人手不足の職種における不法就労者の正規滞在化は、上院での審議過程で、削除される可能性があったが、フランスは2050年までに390万人の外国人雇用者を必要とする推計もあるという実状を踏まえて盛り込まれた(注11)。成立した法律について、右派野党は正規滞在の条件の厳格化に成功したことを評価する一方、与党は毎年1万人の正規滞在化が見込めると評価している(注12)

この他の人手不足職種に関する措置として、病院や医療・福祉施設における採用ニーズに応えるためEU域外の医師、歯科医師、助産師、薬剤師を対象とする「人材-医療・薬学専門職」滞在許可証を新たに導入し、4年間の滞在を認めることになった。

被害を受けた不法滞在者の救済措置

不法滞在者が、「marchands de sommeil」(スラム街の悪徳家主)の被害者となった場合の救済措置が盛り込まれた。この「marchands de sommeil」は、不法滞在者の弱みにつけこんで、不衛生な住居や、多くの賃借人を狭い空間に押し込むなど相応しくない住居を相場よりも高い家賃で貸したり、人間の尊厳を踏みにじるなど、居住者(ここで言う借主、すなわち、不法滞在者)を危険にさらす貸主である(注13)。今回の法改正は、このような弱みに付け込む大家の撲滅を目指すと同時に、不法滞在者を救済する意味合いがあり、被害者には1年間の滞在許可証を交付し、刑事手続き期間中は、その更新も認めることとなった。

憲法評議会の指摘で削除された条項

以上のような改正内容とともに、12月に成立した段階の法律では次の内容も盛り込まれていたが、憲法評議会の指摘により、1月公布の新移民関連法からは削除された(注14)。国会における与野党のせめぎ合いの結果、野党からの追加要請よって盛り込まれた多くの条項が憲法評議会によって削除された形となった。ただ、こうして削除された条項の多くは憲法違反のために削除の指摘があったものではなく、立法趣旨から逸脱した内容のため削除されたものであり、次回の国会において新たな法案に盛り込まれる可能性がある。

1.フランス出生の者の国籍取得申請方法の変更

外国人の両親からフランスで出生した者が成人(18歳)となった場合、一定条件を満たせばフランス国籍を取得することができるが、従来の制度では「自動付与」とされている。12月の成立段階では「申請方式」に変更する条項が盛り込まれていた。

2.不法滞在を違法状態から軽罪に変更

不法滞在(séjour irrégulier)は、従来の制度では「違法状態(illégal)」とされているが、これを「軽罪(délit)」とし、3,750ユーロの罰金刑及び3年間の入国禁止などを科すことを可能とする条項が盛り込まれていた。

3.警察官などに対する殺人罪有罪者の国籍剥奪

国籍を付与されフランス人となった元外国人が、警察官など公権執行者に対する殺人罪で有罪となった場合には、フランス国籍を剥奪する措置が盛り込まれていた。

4.学生としての滞在許可証の発行条件の厳格化

学生滞在許可証が移民のルートになっているとの右派野党議員の指摘を反映して、学生の滞在許可証の発行条件を厳格化し、学業の励行の義務化とともに、滞在のための保証金の支払いを必要とする条項が盛り込まれていた。

5.諸手当受給の厳格化

家族手当や介護手当(APA:Allocation personnalisée d'autonomie)、住宅手当(APL:Aide personnalisée au logement)の受給条件について、従来の制度では6カ月間の居住実績があれば支給しているが、その条件となる在住期間を延長し、就労している場合は30カ月間(2年半)、就労していない場合は5年の在住期間を必要とする厳格化条項が盛り込まれていた。

6.家族呼び寄せ条件の厳格化

家族呼び寄せに必要なフランス居住実績については、従来の制度では18カ月間だが、これを24カ月間に延長し、「安定して、定期的で、十分な収入」「健康保険への加入」を条件に加える条項が盛り込まれていた。また、家族呼び寄せの配偶者の年齢については、18歳以上を21歳以上に変更し、病気治療を目的とした滞在許可証の発行を厳格化し、原則として、出身国で「適切な治療」が受けられない場合に限定し、医療保険制度による負担も、資力が十分であると判断された場合は、行われないことに変更する条項が盛り込まれていた。

7.受け入れ数上限の設定

外国人の受け入れ人数について、今後3年間のカテゴリーごとに入国許可者数の上限を決定する措置が盛り込まれていた。

(ウェブサイト最終閲覧日:2024年4月22日)

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