公共分野の賃金交渉が妥結
 ―二段階で計5.8%引上げ

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2025年5月

連邦政府や地方自治体に従事する約260万人以上の労働者が影響を受ける公共分野の賃金交渉が4月6日、妥結した。これまで、労働側の賃上げ要求(8%)と地方自治体の逼迫した予算状況等を背景に労使の折合いがつかず、各地で警告ストライキが頻発していた。今後は妥結の可否を問う組合員投票での承認を経て、2025年1月から遡及適用される見込みである。

交渉の経緯

公務員系の二大労組――「統一サービス産業労働組合(ver.di)」と「ドイツ官吏同盟協約連合(dbb)」は、2025年初頭から始まった賃金交渉において、8%の賃上げ(最低でも月額350ユーロ以上)および有給休暇の3日増などを要求していた。

労働協約は2024年末で失効しており、2025年1月以降に3回の労使協議が設定されていた。しかし、いずれの協議でも労使の主張は平行線をたどり、交渉期間中に空港や近距離交通機関、保育園、高齢者介護施設、ゴミ収集など、さまざまな職場で警告ストライキ(注1)が頻発した。

3月中旬に開催された第3回協議でも交渉は合意には至らず、第4回協議は開催されずに、第三者による仲裁委員会(Schlichtungsstelle)での調停に移行することとなった。仲裁委員会は3月28日に妥協案を勧告した。

交渉が難航した背景には、多くの自治体が財政難に直面し、公共施設の老朽化も進むなかで、賃上げに充てる財源が確保できないという事情があった。こうした中、新たに発足予定のメルツ連立政権が、特別基金として5,000億ユーロを拠出する意向を示したことが転機となり、今回の妥結につながった。

なお、ここでいう「仲裁委員会」は、協約紛争解決のために事前に労使(当事者)が任意で取り決めた規則に基づいて実施される仲裁手続き(自動的に、または当事者の一方の呼びかけによる)のことで、労働裁判所が裁定するものではない。また、仲裁期間中は争議行為を行わないという「平和義務」が労働組合側に課されている。

主な妥結内容

今回労使が妥結した協約は、3月下旬の仲裁委員会の勧告にほぼ沿った以下の内容となっている。

◎協約期間:2025年1月1日~2027年3月31日まで(27カ月)

◎二段階の賃上げ

  • 2025年4月1日~  3.0%の賃上げ(月額ベースで、最低でも110ユーロ以上)
  • 2026年5月1日~  2.8%の賃上げ

◎特殊勤務手当の増額

  • シフト勤務:月 40ユーロ(従来)⇒月100ユーロに増額
  • 交代勤務:月105ユーロ(従来)⇒月200ユーロに増額

◎休暇とより柔軟な働き方

  • 2025年~ 事業所協定により、「フレックスタイム」や「長期労働時間口座(注2)」の規定を明確化
  • 2026年~ ボーナスの一部を3日間の有給休暇と交換することが可能に
    • 週平均労働時間を自主的に最長42時間まで増やすことが可能に
    • (追加手当有り。現行は週平均41時間、育児介護等を理由に週平均40時間まで短縮が可能)
  • 2027年~ 有給休暇を1日追加

労使の反応

今回の妥結について、雇用主側を代表するナンシー・フェーザー連邦内務相は、「困難な時期において、バランスの取れた合意に達することができた」と述べた上で、新たな賃金協定は「公共分野で働く労働者の尊重と、彼らが果たす役割への敬意の表れである」と評価した。

一方、労働者側の交渉担当者は、「困難な時代における困難な結果である」としつつも、今回の合意には「すべての人が共感できる内容が含まれている」として、前向きな評価を示した。とりわけ、労働者の懸念材料となりかねない「週労働時間を最大42時間まで自主的に延長できる」とする規定については、「あくまで個人的かつ自発的なものである」と強調。そのうえで、延長に応じた労働者には追加手当が支払われること、また労働時間の延長が強制されるものではないことを明言した。この措置は5年間の期限付きで導入され、期間中にその効果が検証される予定である。

なお、実際に賃金引き上げを実施する地方自治体側の反応は分かれている。テューリンゲン州地方自治体雇用主協会理事でゴータ市長を務めるクヌート・クレウヒ氏(SPD)は、「地方自治体にとっては痛みを伴うが、都市や郡が優秀な人材を惹きつけ、継続して働いてもらうための動機づけとして、良い妥結案だ」と評価。一方で、ザクセン州およびマイセン郡の地方自治体雇用主協会会長で、マイセン郡長のラルフ・ヘンゼル氏(CDU)は、「この賃金協定は、地方自治体が東西ドイツ統一以来最大の財政赤字に直面している現状を十分に考慮していない」と厳しく批判している。

参考資料

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