中国における集団抗議行動の急増
―賃金不払いなどが引き金に
中国の経済は依然として厳しい状況にあり、製造業と建設業をはじめとする多くの産業が低迷している。このような状況の中、工場閉鎖や外資系企業の撤退が相次ぎ、多くの経営者が経営困難の影響を労働者に押し付ける事態が広がっている。例えば、賃金不払い、社会保険料の未納といった問題等が増加し、中国全土で労働者による集団での抗議行動が活発化している。また、急成長を遂げた企業では、労働者の長時間労働が問題視されている。中国全土の労働問題を扱う非政府組織「中国労工通訊(CLB)」の報告によると、2023年には労働者の集団抗議行動が1,789件達し、2022年の831件を大幅に上回った。2024年に入ってもこの傾向は続き、12月中旬までに1,430件の集団抗議行動が報告されている。
抗議行動は建設業と製造業に集中
CLBによる12月16日現在の集計によると、2024年1月以降の労働者による集団抗議行動は1,430件に達している。業種別に見ると、建設業と製造業に集中しており、建設業では680件(全体の47.55%)発生している(図)。不動産バブルの崩壊により、多くの開発プロジェクトが頓挫した結果、企業が資金繰りに苦しむ状況が続いていることが要因となっている。また、製造業では429件(30.00%)が確認されている。経済の変動に伴う外資系企業の撤退や工場移転、減産の影響を強く受けており、特に沿岸部の電子機器やアパレルの工場が閉鎖される事例が相次いでいる。
その他の産業においても、交通運輸業やサービス業、教育産業などでも、集団での抗議行動が見られる。その件数は建設業や製造業に比べて少ないものの、後述するように、業界ごとに異なる課題が存在している。交通運輸業で62件(4.34%)、サービス業で140件(9.79%)、教育産業では16件(1.12%)の集団抗議行動が確認されている。また、党政機関(政府と党が単独あるいは共同で運営する公的機関で病院も含む)での抗議行動も一部見られ、2024年には10件(0.70%)となっている。
図:2024年における中国の労働者による集団抗議行動(産業別割合)
出所:中国労工通訊(CLB)より作成
賃金未払い問題が主な引き金に
労働者の集団抗議行動の主な原因は賃金未払いである。2024年の総件数のうち88.74%にあたる1,269件が賃金に関する争議を伴うものだった。特に賃金支払いの遅延や不払いは、労働者にとって生活の大きな不安要素となっており、抗議行動の主な動機となっている。
とくに、建設労働者による賃金請求の抗議が最も頻繁に発生している。地域別では、華南の広東省(121件)を除けば、近年急速に発展している華北および華中の省に集中しており、山東省(71件)、河北省(42件)、河南省(41件)、陝西省(33件)、甘粛省(31件)などが含まれる。
注目すべきは、建設業における680件の集団抗議行動のうち、361件が国有企業に関連している点である。国有建設企業に関連する基礎建設プロジェクトなどの労働者たちが、各地で賃金の支払いを求め続けている。企業は操業を続けているものの、資金繰りが悪化し、労働者に対する給与の支払いを行っていない事態がみられる。11月3日、国有企業である中国建設第四工程局有限公司が担当する広州の白雲空港T3ターミナルビル建設プロジェクトでは、農民工への賃金が数カ月間未払いとなり、建設現場は無人の状態になっていた。このため、数日間にわたり多くの農民工が建設現場に集まり、賃金の支払いを求めて抗議した。
製造業における集団抗議行動は429件にのぼり、そのうち電子業界が110件、服飾業界が84件を占めている。これらの事件は、広東省(170件)、浙江省(55件)、江蘇省(35件)などの沿海地域に集中している。労働者の求めは、賃金未払い(326件)と移転や倒産に対する抗議(102件)が主なものとなっている。
2024年11月21日、自動車用の革製品を生産する部品メーカーの労働者が長期にわたる未払い賃金と強制退職に抗議し、上海市の沪松(HU SONG)公路で集団抗議行動を行った。経営不振により、同年10月12日以降、労働者は賃金を受け取れず、工場は半稼働状態となっていた。多くの労働者は基本給の2,690元しか受け取っておらず、会社は3カ月分の手当を支払うと発表したが、その額は最低賃金基準に過ぎず、過去12カ月の平均賃金の3カ月分を主張する労働者側と対立が続き、抗議の原因となった。
老舗チェーンストア閉鎖への抗議も
サービス業では、特定の業種に、労働者の抗議行動が集中している。具体的には、宿泊・飲食業で32件、不動産・商業サービス業で16件、卸売・小売業で16件、清掃労働者(環衛工人)による抗議が28件報告されている。
さらに、伝統的な小売業でもチェーン店の倒産が相次ぎ、従業員や納入業者が自らの権利を主張する事態が発生している。2024年11月1日に江西省吉安市では、甘雨亭スーパーの従業員が市政府前で未払い給与の解決を求めて抗議したところ、警察による介入を受け、少なくとも2名が逮捕された。この老舗チェーンスーパーは32年の歴史を持ち、2,000人の従業員と67店舗を有していたが、数カ月分の給与を未払いのまま、突然すべての店舗を閉鎖すると発表した。
交通運輸業の労働者による抗議に関しては、タクシー運転手の抗議が24件、宅配便スタッフの抗議が12件、倉庫作業員の抗議が7件あった。賃金不払いの問題のほかに、ネット配車事業が顧客を奪っていることに対する抗議も行っている。
パンデミック後、いくつかの業界の業績が低迷し、より多くのプラットフォーム労働者がネット配車サービスに参入するようになった。その結果、多くの地域でネット配車が供給過剰になり、プラットフォームに参加したい運転手に対して、加入の自粛が呼びかけられている。ネット配車の増加はタクシー運転手たちの反発を招き、タクシー運転手による抗議の約半分は、ネット配車との競争に関連している。
また、党政機関でも抗議行動が確認されている。これらは、一般的には事業系行政組織における抗議行動が主なものである。山東省青島市にある青島滬康(QING DAO HU KANG)中医病院は、半年にわたり従業員の給与および社会保険料が未払い状態であったため、2024年3月13日に抗議行動が行われた。
さらに、黒竜江省伊春市で数千名の退職した森林労働者が、12月4日に集団で権利保護の行動を起こした。市政府の前に集まり、地元政府(伊春森工グループに属する複数の林業局)による長年の寒冷地手当、暖房手当、住宅手当などの削減に抗議している。
「ねじれ労働」の現象―長時間労働の忍耐と短時間労働に対する抗議
12月16日に国家統計局が発表したデータによると、全国の企業従業員の週平均労働時間は48.9時間に達している。業界の再編が進む中、労働者は工場の閉鎖や賃金未払いに直面している。その一方で、市場で利益を上げ成長した企業は、労働者に長時間の労働を強いている。多くの労働者は、収入や職の安定を求め、違法な長時間労働を受け入れざるを得ない状況に追い込まれている。
CLBによる「BYDの長時間労働」に関する報告では、電気自動車大手BYDグループの複数の工場において、短期労働者が昼夜交代制で1日10時間以上働き、連続して夜勤を強いられる事例もあるとされている。2022年には、ある労働者が15日間連続で夜勤を行い、2024年には別の労働者が1カ月以上連続勤務し、総労働時間が300時間を超えた。また、正規労働者においても違法な超過勤務が常態化しており、月270~290時間勤務の実態が求人広告から明らかになっている。
なお、中国の労働法は、法定労働時間を1日8時間、週40時間と規定している。労組などとの協議のうえ、1日1~3時間の時間外労働を許容するが、1カ月の時間外労働は36時間を超えてはならないことなどを定めている。
一方、短時間労働による収入減少への抗議も発生している。BYD無錫工場は2023年9月に「緑点科学技術(無錫)有限会社」を買収したが、買収からわずか4カ月余りで、新しい雇用主である「無錫BYD電子」が労働者の勤務時間を変更し、4交代制で1日8時間勤務のシフト制を導入した。このシフトの下で、それぞれの労働者が週5日8時間働くことにより、残業をなくした。しかし、その結果、労働者の賃金は半減し、ストライキが発生した。
以上のように労働者の抗議行動は、経済の低迷と密接に関連しており、特に賃金未払い問題が主要な課題となっている。中国政府と企業には、今後の経済再建に向けた取り組みが期待されている。
参考文献
- 国家統計局、中国労工通訊(CLB)
参考レート
- 1中国人民元(CNY)=21.52円(2024年12月25日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
2024年12月 中国の記事一覧
- 2024年中国の最低賃金改定に関する動向
- 中国における集団抗議行動の急増 ―賃金不払いなどが引き金に
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