アマゾンが「週5日出勤」を義務化へ
―コロナ禍の在宅勤務から転換、25年1月より
アマゾン・ドット・コム社(以下、「アマゾン社」)は9月16日、2025年1月から従業員に週5日の出勤を義務づけると発表した。アンディ・ジャシーCEOは「(職員が)オフィスに一緒にいることの利点は大きい」と述べ、コロナ禍前の勤務体制に戻す必要性を強調した。家族の事情や健康上の問題を抱える者には柔軟に対応するとしている。コロナ禍で在宅勤務が急速に普及した米国では、現在も出勤・対面勤務と在宅勤務とを組み合わせた「ハイブリッド勤務」が浸透している。そのような中でアマゾン社が打ち出した週5日出勤を原則とする方針は、在宅勤務のあり方に対して一石を投じることとなった。
コロナ禍後の在宅勤務と「ハイブリッド勤務」の広がり
米国勢調査局が2023年6月23日に発表した調査結果によると、在宅勤務のみで行われる仕事(完全在宅勤務)の割合は、コロナ禍前の2019年は11%だったが、2020年には23%へと倍増した(図表1)(注1)。だが、コロナ禍が収束していくにつれて、オフィスに出勤する人が増加し、2021年は21%とやや減少した。一方で、在宅勤務と出勤・対面勤務を組み合わせた「ハイブリッド勤務」が広がる傾向を見せ、2020年の4%から2021年には6%に増加している。
図表1:コロナ禍前後の在宅勤務と「ハイブリッド勤務」の仕事の割合
出所:国勢調査局ウェブサイト
米調査会社WHF(Working From Home)リサーチの調査結果によると、2024年6~9月に週5日以上勤務したフルタイム労働者のうち、完全在宅(Fully Remote)勤務だった者の割合は13.7%で、完全出勤・対面(Full-Time on Site)勤務は60.5%、ハイブリッド勤務は25.9%となっている(図表2)(注2)。
図表2:フルタイム労働者の勤務形態(2024年6~9月)
出所:WHF(Working From Home)リサーチウェブサイト
また、同社調査によると2024年9月に在宅勤務できる環境にいたとみられる労働者(注3)のうち、完全在宅勤務を行った者の割合は33.3%、完全出勤・対面(Full-Time on Site)勤務は23.1%、ハイブリッド勤務は43.7%で、ハイブリッド勤務の普及があらわれている(図表3)。
図表3:在宅勤務できる環境にいたとみられる労働者の勤務形態(2024年9月)
出所:WHF(Working From Home)リサーチウェブサイト
「オフィスに一緒に居ることの利点は大きい」
アマゾン社でもコロナ禍で在宅勤務が進んだが、その収束に伴い、2023年5月以降は週3日以上のオフィス出勤を従業員に求めていた。こうした中、同社のジャシーCEOは9月16日に「私たちの文化チームの強化」と題する従業員向けの告知を発表した(注4)。告知の中で同氏は、「顧客やビジネスに最高の価値を提供するために、発明やコラボレーション、社員同士および企業文化とのつながりを強化し、万全の体制を整える必要がある。そのため、COVID発生前のようにオフィスに戻ることを決定した」と述べ、2025年1月2日から従業員に週5日の出勤を義務づける方針を示した。
子どもが病気になった場合など家族の事情がある場合や、健康上の問題を抱える従業員には柔軟に対応するとしている。また、勤務場所を自由に選べるフリーアドレスも廃止し、「デスク割り当て制」に戻す予定だ。こうした同社の方針に対して、一部の従業員からは反発があり、現地の報道によると、退社する意向を示す者も少なからずいるとされる。さらに、ジャシーCEOの前述の告知では、管理職削減を含む組織のフラット化方針も示されており、人員削減への警戒感が従業員の間で高まっていることも報じられている。
IT各社と「RTO」
コロナ禍で在宅勤務の普及を牽引したIT各社では、近年、従業員のオフィス復帰(Return to Office, RTO)が進みつつある。
各種報道によると、メタ(旧フェイスブック)社は2023年9月、少なくとも週3日はオフィスで仕事を行うよう従業員に要請した。グーグル(アルファベット)社も同年6月、「完全なリモートワークは例外的な場合のみ許可される」との見解を示し、従来から少なくとも週3日としていたオフィス出勤を、さらに増やすよう従業員に求めた。出勤状況はIDバッジで監視され、業績評価や昇進の判断材料としても活用されることが伝えられている。
アップル社は2022年3月に週1日としていたオフィス出勤回数を徐々に増やし、同年8月に週3日に引き上げた。リモートワーク用ソフトを一般に提供し、各社の在宅勤務の普及に多大な影響を及ぼしたズーム社でも、2023年8月から、オフィスから50マイル以内に住む従業員には週2回以上の出勤を義務づけている。
各社では、ハイブリッド勤務をコロナ禍前の完全オフィス勤務にまで戻すかどうかについて、各職場や職務、従業員の特性に応じたメリットとデメリットを検証したうえで、今後の勤務方針を決めていくものとみられる。
注
- 国勢調査局ウェブサイト参照(本文へ)
- WHF(Working From Hom)リサーチ社ウェブサイト参照。前年度の年収が1万ドル以上の20~64歳の米国居住者を対象にしている。(本文へ)
- 調査時点、あるいはコロナ禍以降のある時点で週に1回以上在宅勤務を行った経験がある者と定義している。(本文へ)
- アマゾン社ウェブサイト参照 (本文へ)
参考資料
- 国勢調査局、フィナンシャルタイムズ、ブルームバーグ通信、CNBC、WHFリサーチ、各ウェブサイト
参考レート
- 1米ドル(USD)=152.05円(2024年11月1日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
2024年11月 アメリカの記事一覧
- アマゾンが「週5日出勤」を義務化へ ―コロナ禍の在宅勤務から転換、25年1月より
- 16年ぶりのストライキが終結 ―ボーイング社、4年間に38%の賃上げで労使合意
- 一部の州で最賃引き上げや有給病気休暇創設などの住民投票を実施
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