最低賃金、2025年4月より時給12.21ポンドに引き上げ

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2024年11月

政府は10月、2025年4月から適用する来年度の最低賃金額を前年より6.7%増の時給12.21ポンドとする方針を公表した。若年層向けの額についても、18-20歳が16.3%増の10.00ポンド、16-17歳及びアプレンティス(見習い訓練参加者)向けが18.0%増の7.55ポンドと前年度に次いで大幅な引き上げとなる。

高い賃金上昇率を上回る引き上げ

法定最低賃金制度は現在、成人(21歳以上)向けの「全国生活賃金」と、これを下回る年齢層に対する「全国最低賃金」として、年齢層別に2種(18~20歳、16~17歳)及びアプレンティス向けの計4種類の最低賃金で構成される(図表1)。政府の諮問機関である低賃金委員会が、経済や雇用、賃金水準の動向などを勘案の上、毎年の改定額を検討している。

低賃金委は、2025年4月適用の最低賃金額として、全国生活賃金について6.7%増の時給(以下同)12.21ポンド、全国最低賃金の18-20歳向け額を16.3%増の10.00ポンド、16-17歳及びアプレンティス向けを18.0%増の7.55ポンドとすることを提案、政府はこれを承認した(注1)。若年層向けの額は、成人向けの額との将来的な統合が予定されており、これを考慮した改定案の検討を求める政府の要請に応える形で、相対的に大きな引き上げ幅となった。

図表1:最低賃金額の推移 (単位:ポンド/時給)
画像:図表1
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注:全国生活賃金は2016年4月、25歳以上向けの新たな最低賃金額として導入された。これに伴い、従来の全国最低賃金(21歳以上)は21-24歳に対象が限定された。その後、全国生活賃金の適用年齢は、2021年4月に25歳から23歳、さらに2024年4月には21歳に引き下げられた。また、アプレンティス向けの額は、2022年に16-17歳向けと同額となった。

全国生活賃金は2016年の導入当初から、2020年までに統計上の時間当たり賃金額(中央値)の6割に引き上げることが目指され、これを達成後、さらに2024年4月までに中央値の3分の2への引き上げを行うことが新たな目標として掲げられた。このため導入以降、コロナ禍後の一時期を除いて、ほぼ一貫して平均賃金を上回る上昇率が維持されてきた(図表2)。低賃金委によれば、7月に成立した新政権は、同委に対する従来の諮問に、新たに①生活費の上昇を考慮すること、②統計上の賃金額(中央値)の3分の2を下回らないことの2点を加え、これらが改定額を検討する上での下限となった。一方で、今年度の全国生活賃金額11.44ポンドは、目標とされた賃金中央値の3分の2に届かなかったと推測されることから、次年度分の改定ではこれを考慮した引き上げが必要となったとしている(注2)

図表2:平均賃金額、最低賃金額の上昇率の推移 (単位:%)
画像:図表2
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出所:(平均賃金)’Labour market overview, UK: November 2024新しいウィンドウ’、(消費者物価指数)’CPI ANNUAL RATE 00: ALL ITEMS 2015=100新しいウィンドウ

コロナ禍以降の物価上昇に伴う生活費の上昇は、所得に占めるエネルギーや燃料、食品などの必需品への支出割合が高い低賃金世帯にとりわけ大きく影響した、と低賃金委は分析している。こうした財・サービスの価格上昇は落ち着きつつあり、低賃金世帯への影響も相対的に低下していると見られるものの、この間の上昇分が解消されるわけではないことや、将来の物価上昇に関する利用可能な予測が乏しいことなどから、単純に物価上昇を考慮した場合よりも高い水準の改定案とした、と述べている。

なお、統計局が10月末に公表した、労働者の賃金水準による分布に関するレポート(注3)からは、コロナ禍以降横ばいで推移してきた(注4)全国生活賃金額近辺(ピーク部分)の労働者の比率が、2024年には上昇したことが窺える(図表3)。最低賃金額の引き上げに加えて、適用年齢の下限が23歳から21歳に変更されたことの影響が推測される。同レポートによれば、低賃金労働者(賃金中央値の3分の2を下回る労働者)はここ10年で急速に減少しており(2014年の21.3%から2024年には3.4%に減少)、統計局は直近の減少について、これらの制度的な変更によるところが大きいと推測している。

図表3:時間当たり賃金額による最低賃金近辺の労働者比率 (単位:%)
画像:図表3
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注:各年とも4月時点。表示額の上下20ペンスの労働者比率を平均したもの。なお、賃金額は時間外賃金を除く。

出所:Office for National Statistics "Low and high pay in the UK: 2023新しいウィンドウ”、 "Low and high pay in the UK: 2024新しいウィンドウ

生活賃金は5%の引き上げ

前後して、生活賃金の改定額が示された。生活賃金は、最低限の生活水準を維持するために必要な生活費に基づく賃金額を算出して、雇用主に支払いを求める運動で、市民団体や教会、労働組合などが参加して設立されたLiving Wage Foundationが推進を担っている。最低賃金制度とは異なり、雇用主は自主的に参加することで「生活賃金雇用主」としての認証を受けることができる。Living Wage Foundationによれば、認証雇用主は現在およそ1万5000組織で、労働者47万人以上が生活賃金の適用を受けている。

生活賃金額は、住居費や物価の格差を考慮し、ロンドンとそれ以外の地域で異なる額が設定されている。10月下旬に発表された今年の改定額は、ロンドンで時間当たり13.85ポンド(0.70ポンド、5.3%増)、ロンドン以外で12.60ポンド(0.60ポンド、5.0%増)と、相対的に緩やかな改定率となった(注5)。改定額の算定を担ったシンクタンクResolution Foundation(注6)は、今年の改定では、物価上昇以上に算出方法の変更による影響が大きかったと述べている。一つは、最低限の生活水準に要する生活費の根拠となる指標(Minimum Income Standard)(注7)において、想定される財・サービスの支出額を実態に沿って引き上げたこと、もう一つは、世帯内に複数の成人が居る場合に、実態を考慮の上、双方がフルタイム就労(週37.5時間労働)を行っているとの前提を緩和(一方を28時間に削減)したことだ。

今回の改定により、法定の最低賃金額と生活賃金(ロンドン以外)額の差はこれまでになく狭まっている(図表4)。同時に、今年初めには一部の参加企業による離脱も報じられるなど(注8)、企業によっては対応可能な水準の限界に近付きつつある状況も類推される。

図表4:生活賃金・最低賃金額の推移 (単位:ポンド)
画像:図表4
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参考資料

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