VWテネシー工場で労組結成へ
 ―UAW

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  • 国別労働トピック:2024年5月

全国労働関係委員会(NLRB)は4月19日、テネシー州チャタヌーガにある独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)社の工場で行われた労働組合結成に関する従業員投票で、労組結成に賛成する者が過半数を占めて勝利したことを発表した。労組は全米自動車労組(UAW、組合員数約15万人)に加盟する。大手3社以外の南部外資系自動車メーカーに初めて労組が結成されることになる。

外資系などを組織化のターゲットに

UAWは2023年9~10月、労組を組織化している自動車大手3社(フォード・モーター、ゼネラル・モーターズ(GM)、ステランティスのいわゆるビッグスリー)での労働協約の改定をめぐり、史上初の「3社同時ストライキ」を実行した。ストライキは延べ6週間におよび、UAWは「4年半で25%の賃上げ」や、賃金を物価に連動させる「生計費調整(COLA)」制度の復活といった労働条件引き上げの成果を得た。その後、これに続く形で、ホンダやヒュンダイなどUAW未組織の外資系企業が独自に賃上げの実施を決めた。ビッグスリーでの交渉結果が影響を与えたとみられている(注1)

UAWは近年、外資系企業や電気自動車(EV)産業を新たな組織化のターゲットとする動きを強めている。具体的には、ホンダ、トヨタ、ヒュンダイ、テスラ、日産、BMW、メルセデス・ベンツ、スバル、VW、マツダ、リビアン、ルーシッド、ボルボの従業員に対して、同労組への参加を呼びかけている(注2)

投票者の約7割が賛成

米国で労働組合を結成するには、二つの方法がある。それは、①従業員が相当数(従業員の30%以上)の支持を集め、その証拠(署名カード)をNLRBに提出する。NLRBが組合結成の対象となる職場で選挙(無記名投票)を実施し、過半数の労働者が賛成する、②選挙を行なわず、従業員の過半数の支持を集めた労働組合を、使用者が任意に承認する、というものだ。

テネシー州チャタヌーガのVW社工場では、2014年と2019年にも組合結成をめぐる従業員投票が行われたが、いずれも従業員の過半数の賛成を得られず組合結成を否決していた。今回の投票に際しては、50%以上の従業員から「署名カード」が集まっていた。4,326人の従業員のうち、3,613人が投票。NLRBによると賛成が2,628票、反対が985票で、賛成が投票者の72.7%を占め、労組が結成されることとなった(注3)

労組組織率が低い南部

全米の労組組織率を地域別に見ると、南部・中西部の州で低い。その背景のひとつに従業員への組合加入(組合費支払い)義務を禁じる「労働権法(Right-to-Work Laws)」の存在がある。

米国では「排他的交渉代表制度」が採られており、対象の職場で認証された労働組合が、組合員であるかどうかを問わず、全ての労働者を代表して使用者と交渉する。合意した労働協約はその職場の全労働者に適用される。全国労働関係法(NLRA)は雇用開始後、所定期間内 (雇用開始または協定締結から30日以上の猶予期間内)に組合員になることを雇用の条件とする「ユニオン・ショップ協定」を一定の条件のもとで認めている。これにより、定期組合費や加入金を払わない者は解雇の対象になり得る。ただし、NLRAには同協定を州法で禁じることを容認する条項が存在する。

全米州議会議員連盟(NCSL)によると、2023年12月現在、南部や中西部を中心に、26の州とグアムが、同条項に基づき、「組合員として組合費を払わなくても従業員として働く権利」を保障する「労働権法」といわれる州法を制定している(図表1)(注4)。VW社工場で従業員投票があったテネシー州にも同様の州法がある。こうした「労働権法」のある州の労組組織率は総じて低い。

図表1:米国各州の労組組織率と「労働権法」の有無(2023年)
画像:図表1

注:「労働権法」欄の○印は、同法が存在することを意味する。ミシガン州は2023年3月に同法を撤廃。

出所:米労働統計局、全米州議会議員連盟ウェブサイトより作成

米労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)のリズ・シューラー会長は、このように組織化に対して一定の法的制約のある南部地域において、ビッグスリー以外の外資系自動車メーカーで労組が結成されることについて「歴史的なマイルストーン」だと評価するコメントを出した(注5)。今後は5月13~17日にアラバマ州タスカルーサのメルセデス・ベンツの工場(従業員数約5,000人)で、労組結成をめぐる投票が予定されており、南部外資系自動車メーカーでの労組結成が続くかどうか注目されている。

労組結成への警戒感

UAWによる新たな労組結成の動きに対し、共和党出身の南部各州の知事らは警戒感を強めている。4月16日にはアラバマ、ジョージア、ミシシッピ、サウスカロライナ、テネシー、テキサスの6つの州知事が「労組の結成は州の雇用を危険にさらす」と懸念する「UAWの労組結成運動に反対する共同声明」を発表した(注6)。労組の結成が賃金の上昇、産業競争力の低下、雇用の削減につながりかねないという危機感が背景にあるとみられる。

さらに、ジョージア州のブライアン・ケンプ知事は4月22日、上述した②の従業員無記名投票によらない方法で労組を結成した事業者を、同州の経済優遇措置(Economic Development Incentives)の対象外とする法律に署名し、成立させた(注7)。テネシー州でも同様の法律が2023年5月に成立。アラバマ州でも同法を制定した。これらは労組結成へのハードルを事実上上げるもので、労組側は反発している(注8)

参考資料

  • 全国労働関係委員会、全米自動車労組、全米州議会議員連盟、日本貿易振興機構、ブルームバーグ通信、連邦労働省、各ウェブサイト

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