オリンピック開催を直前にしてストライキが頻発(1)
 ―特別手当を求める交通機関のストに対する規制も検討

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2024年5月

オリンピック・パラリンピック両大会の開催を前にストライキが頻発し、開催期間中を対象とするストライキの通告が相次いでいる(注1)。年金改革に対するストで多大な影響力があったパリのゴミ収集部門でも特別手当を要求するストライキが実施された。その他、大会期間中の観光客の移動交通手段として欠かせない鉄道部門でもストライキが相次いでいる。労組は交渉が妥結できない場合は、大会期間中のストライキも辞さない構えを見せている。これに対して、上院では公共交通機関の最低限の輸送量を確保するためストを一部規制する法案が可決された。

パリ・ゴミ収集部門

オリンピック競技大会は7月26日から8月11日まで、パラリンピック競技大会は8月28日から9月8日まで開催される。

パリのゴミ収集業部門は5月14日、大会期間中の特別手当の支払いを求めて数日間続くストライキを起こした(注2)。通告では5月14日から16日、22日から24日の期間と、7月1日から9月8日までの2つの期間のストライキを予定。ストライキの呼びかけは、労働総同盟(CGT)の廃棄物処理、清掃、上下水道、衛生部門(FTDNEEA)の主導によるもので、労組側は、大会期間中の首都圏における廃棄物の量の増加に伴って就業時間の増加が見込まれるため、1,900ユーロの特別手当を要求した。この交渉で合意に達しない場合、6月中に改めてストライキを実施する可能性を示唆し、併せて、大会の全期間を含む期間のストライキを通告した。

パリ市の推計では、14日のストライキ参加者の割合は市内のゴミ収集員総数約5000人うち16%程度であったが、このストライキによる収集サービスの中断はほとんどみられなかった。一方、CGT・FTDNEEAによると、地区によっては、ゴミ収集員のほか水質浄化局 (DPE)のその他の人員が多数参加した地区や、ゴミ収集員の70%から90%が参加した地区もあったとしている(注3)

労組側は、大会期間中の特別手当支給が決定している市警察とゴミ収集員は雇用主が同じであり、1,500万人と見込まれる来場の観光客により、ゴミ収集業務が過重になる予想されることを踏まえ、警察と同水準の手当を要求した(注4)

年金改革に対する抗議行動が行われた2023年3月には、ゴミ収集部門のストライキが3週間以上続き、市内の路上には収集されない廃棄物が1万トン以上も放置され、集積所で高さ数メートルに山積みされた廃棄物が市民生活に大きな影響を与えたことが記憶に新しい(注5)

通告で6日間予定されていた最初のストライキは2日目に労使合意に至った(注6)。大会の開催および準備期間の作業量に応じて600ユーロから1,900ユーロの特別手当が支給され、2024年7月から月額50ユーロ、2025年1月から月額 30ユーロ、賃金が引き上げられる。

パリ交通公団(RATP)

もう1つの懸念材料は、期間中に数百万人の観光客の移動を担う交通機関である。この需要に応えるためには、期間中の7月26日から8月11日までは通常の夏季の輸送量に比べて、ウィークデイは15%、週末は30%増便する必要がある(注7)

パリで地下鉄や路線バスなどを運営するパリ交通公団(RATP)では、労組RATP CGTが1月29日に大会期間中の特別手当を要求し、2月5日から9月9日までの長期にわたるストライキ実施予告を通知した(注8)。3月の交渉過程では、運転手の主要労組であるFO-RATP(労働者の力)が、経営側の姿勢を「最小限の予算」と「見せかけの労使協議」だとして非難し、交渉が一時暗礁に乗り上げた。もう一つの主要労組UNSA(独立組合全国連合)もそれに同調して、労使間対立は激化した(注9)。また、CGTは3月21日に年次労使交渉で議題となった数カ月間の賃上げ分の支払いを求めて、4月4日のストライキを呼びかけた。この通告は大会期間中の特別手当とは直接関係しないが、2024年の賃上げ措置が不十分であると不満を露わにしたものである。

その後の交渉の結果、4月24日までに労使合意に至り、7月22日から9月8日までの勤務者に対して1,600ユーロの特別手当の支給で決着した(注10)。この特別手当に加え、大会期間中、繁忙の路線で勤務する職員には1日当たり44.10ユーロの「例外的イベント手当」が支給される。大会期間中に勤務する予定の職員は全職員3万人のうち約2000人で、最大で2,500ユーロの手当を受け取る(注11)。大会期間中に勤務する駅員、保守員、バス運転手などを含む全職員に平均1,000ユーロの手当が支給される(注12)。従業員が期間中に病気などで5日間欠勤した場合、特別手当が50%減額され、5日を超えて欠勤した場合は支給されない。また、交渉では2024年に有給休暇を取得できなかった場合、最大11日間分の権利を2025年9月まで延長する措置なども協議された(注13)

フランス国鉄(SNCF)

国鉄では、労働組合がパリ交通公団と同水準の特別手当を求めて5月21日にストライキを実施した。

会社側は、大会期間中、勤務1日当たり50ユーロの特別手当を支給し、期間に応じてさらに200~500ユーロの特別手当を支給することを提案した(注14)。一方、労組SUD-Rail(連帯統一民主労働組合)は、RATPと同水準、つまり1日あたり手取りで100ユーロの特別手当支給のほか、大会期間中の勤務に対する定額1,000ユーロの特別手当、および賃金の全般的な引き上げを要求した。労使対立の溝は大きく、労組側は会社側の提案は全く満足いくものではないという姿勢を崩していない(注15)。その結果、SUD-RailやCGTなどの鉄道労働組合が、5月21日にイル・ド・フランス(パリ首都圏)でストライキの呼びかけを行った。

パリ空港公団

空港管理業を担うパリ空港公団(ADP)の労働組合も、7月8日から9月15日までの期間に勤務する全ての職員に対して、自発的な勤務か業務命令による勤務かを問わず、一律の特別手当支給を求めて5月21日に、ストライキを起こした(注16)。労組4組織、CGT、CFDT(フランス民主労働総同盟)、FO、UNSAは輸送量の増加と際限なく高まるサービス品質の向上の要請に対応するには、依然として労働力が非常に不足している問題点を指摘し、上記の要求に併せて、人員不足解消のための「緊急採用計画」の策定と「昇格を含む給与水準引き上げ交渉の即時開始」を要求した。労組によるとストに参加した職員は大規模であったが、主要空港であるシャルル・ド・ゴール空港とオルリー空港では大きな混乱はなかった。しかし、ストライキの他に空港内で経営方針に対する異議を申し立てるデモが実施された。

スト規制が上院で可決

こうした大会期間中のストライキを懸念して、上院では2月からスト規制に関する法案が審議された。

24年2月の学校が休みの期間中に、フランス国鉄(SNCF)がストを実施したため、少なくとも15万人の旅行客に影響が出た(注17)。このストを受けて上院の中道派グループが2月14日、学校休暇など特定の期間の交通機関のストライキ権を規制する法案を提出した(注18)

上院における審議の結果、4月9日、法案が可決された(注19)。ただ、激しく反対する左派と、上院多数派の右派および中道派との間で分裂が再び生じたため、211票対112票でなんとか採択にこぎ着けた形である。

適用対象を学校の休日や祝日、選挙、国民投票、オリンピックなどの重要なイベントなどの特定期間に限定しており、しかもピーク時間帯におけるサービスの運営に必要な最低限の人員に限定するものである。航空部門を除く公共交通機関の従業員に対し、年間30日間(1期間あたり連続7日間を上限)について交通スト等を禁止する。従業員によるストライキ参加の意思表明については、予告期限を現行の48時間前から72時間前にする条項が盛り込まれている。また、ストライキ期間中に職場復帰を命じる徴用の手続きに関しては厳格な条件下でのみ可能としており、交通利用のピーク時間帯の最低限のサービス提供レベルを引き上げるほか、対象期間が数カ月に及ぶストライキ通告に対抗するため、行動を伴わない特定の通告を失効させる措置も盛り込まれている(注20)。さらに、ストライキには、勤務時間中の一部ではなく、シフト開始時から参加しなければならないとする措置も盛り込まれた。これは「59分間ストライキ」(注21)に対抗し、勤務時間途中の業務から離脱を禁止し、予め代替要員の配置を可能にすることを意図したものである。

(ウェブサイト最終閲覧日:2024年5月24日)

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