最近のストライキの特徴と動向
 ―鉄道、教育部門などで大規模な紛争

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2024年3月

2023年には年金改革をめぐり全国的な抗議デモが行われた。改革法案の具体的な内容が明らかとなった23年1月から国会で法案が可決した3月を経て、6月までの間に、全国的なストライキおよびデモが14回実施された(詳細については当機構・国別労働トピック:2023年7月を参照)。とりわけ3月7日には128万人(内務省発表)が参加する大規模なストライキとなった。年金改革以後もストライキは散発している。フランスでは一定の条件に該当する企業は少なくとも4年に1回労使で交渉する義務があるが(注1)、ストライキに発展する場合も少なくない。労使が対立する交渉テーマは賃上げが最も多いが、それに限らず労働条件等、広範に及ぶ。24年2月に行われた教員によるストライキは、賃上げ等の待遇改善を求めるとともに、教育改革の方向性に抗議して行われた。

最低4年に1回義務づけの労使交渉とストライキ

フランスでは代表的な労働組合組織が一つでもある企業は、労使交渉を少なくとも4年に1回行う義務がある。直近の公表データによると、2021年に団体交渉を行った企業(非農業民間部門の従業員10人以上)は17.8%で、前年と比べて1.2ポイント増加した(注2)

労使交渉で使用者が要求に応えない場合、ストライキに発展し、それが長期化したり、全国規模に発展する場合もある。

2021年の労使交渉が行われた企業のうち、少なくとも1つの協約を締結した企業は82.6%で、少なくとも1回のストライキ(集団的な業務停止)を経験した企業は1.6%だった(注3)。これは、従業員規模によって異なり、従業員500名以上の企業の94.4%が労使交渉を実施し、そのうち協約を締結した企業は93.3%、ストライキを経験した企業は27.2%だった。

労使交渉のテーマについては、賃金が最も多く10.6%、次いで労働時間 (6.0%)と人員削減(5.8%)となっている。ストライキに至る労使対立の理由として最も多いのが賃金や報酬で73%、次に労働条件 (31%)、人員採用の方針(13%)が続く(注4)

義務的労使交渉の決裂によるストライキ

デジタルサポートおよび印刷サービス企業のルミネス・グループでは、2024年1月30日から義務的労使交渉が行われた(注5)。労働組合のCFTC(フランスキリスト教労働者連盟)は、経営側の提案は受け入れがたく交渉の進展が見込めないと判断し、3月5日から無期限のストライキを実施する予定である(3月4日時点)。

建具メーカーFPEEにおける義務的労使交渉では、労組側が月額100ユーロの賃上げと補完的な健康保険の全額会社側負担を求めたのに対して、会社側は80ユーロの賃上げと、健康保険の75%会社負担と回答した(注6)。交渉を重ねても労使の隔たりは埋らず、2024年2月26日にストライキを実施し、従業員400人のうち約100人が参加した。労組は翌27日もストライキを実施したが、月額100ユーロの賃上げと補完的な健康保険の75%会社負担で合意し、同日午後に従業員は職場復帰した(注7)

RATP(パリ交通公団)では、24年1月29日、労働組合CGT-RATPは、義務的労使交渉やオリンピック期間中のボーナス支給の可能性に関する労使協議を通じて、労使間に見解の相違があることがわかり、長期間を対象とするストライキの予告を表明した(注8)。パリ・オリンピック・パラリンピック競技大会の開催期間を含む2月5日から9月9日までの間にストライキを実施することを通告した。

銀行各社の義務的労使交渉は、23年9月から開始されたが、23年12月までに労使が合意したのは大手6銀行のうち2行のみで、緊迫する労使交渉となった。ポピュレール銀行では年間給与が 3万ユーロ未満の従業員は2.5%引き上げ、同5万~8万ユーロの従業員は0.5%の引き上げ、さらに最低500ユーロ以上のボーナス支給で合意した(注9)。クレディ・ミュチュエルでは、2.2%賃上げと3,000ユーロのボーナス支給で合意した。

一方、BNPパリバの交渉は、9月26日の開始当初から暗礁に乗り上げた(注10)。最初に経営側から示された賃上げ提案は、2024年の個人の昇給枠における1.5%の賃上げとボーナスを従業員1人当たり800ユーロであり、23年9月のインフレ率が前年比で4.9%という歴史的に高い水準が続く中、労組側には受け入れがたい内容だった。経営側は、インフレは落ち着きを見せており、積極的な賃上げは昨年で終了し、24年は小幅な引き上げの方針を示すものだったが、労組側は、大幅な賃上げが必要との考えを示していた。

その後の交渉で年700ユーロの昇給とボーナス1,000ユーロが提案されたが、労働組合は協約の署名を拒否した。前年の労使交渉では、物価が高騰する中で一般給与の3%引き上げと800ユーロのボーナスを獲得したのに対して、今回の経営側からの提案は労組にとって期待外れだった。労働組合は交渉をいったん取り止め、2023年10月13日にストライキ実施の意向を示した(注11)。その後、経営側が若干歩み寄り、年800ユーロの昇給に増額し、ボーナス1,000 ユーロの支給を提案したが、労組側が合意できる水準ではなかったため、労使合意には至っていない。

さらに、クレディ・アグリコル・グループのフランス東部モルビアンの支店では、労使交渉が決裂し、23年12月6日に従業員約250名がボーナスの支給を求めて抗議活動を行った(注12)。交渉において会社側は、年末のボーナスが支払われなかった理由として、全国レベルでは、2023年1月に1,200ユーロのボーナスが支払われている上に、24年に入って3.5%の賃上げを実施したこと、それに加えて地域ごとにボーナスが加算され、平均1.62%の地域別賃上げを実施しているためと説明した。従業員は労働組合の呼びかけに応じて、なおもボーナスを要求したが、会社側は拒否したため従業員による抗議行動に発展した。同じくクレディ・アグリコルのフランス東部のアンジュー・メイン支店でも、23年12月6日、従業員2,000人のうち約800人が賃上げを求めてストライキを行った(注13)

国鉄(SNCF)

フランス国鉄(SNCF)では、2月15日(午後8時)から2月19日(午前8時)までの間、管制室のスタッフがストライキを行った(注14)。労組は賃上げを要求するとともに、2022年の協約で経営陣が23年12月以降に実施すると約束した賞与の増額がされていないことに抗議している。2022年の協約では月額60ユーロの賞与を増額する約束になっており、23年1月から順次実施されている。しかし、23年12月の労使交渉が不調におわり、その後、賞与は増額されていない。経営側は2024年には報酬全体の4.6%増額すると強調しているが、全従業員に適用される増額幅は1.8%に留まるため(注15)、ストライキ参加者は全従業員の給与を月額300ユーロ増額するように求めた(注16)

また、管制室の職務は過酷で、勤務時間帯が事前に把握できないため、23年9月以降、経営側に苦情を申し立てたが一向に対応していない。また、2022年の協約では管制室の労働条件を改善するために新たに550人を採用することになっており、この人員の確保は行われたが、協約に明記されたTGV(新幹線)管制の職務への配置分は87%分しか達成していないため、今回のストライキに至った。このストライキの実施によって高速鉄道(TGV)と長距離在来線(アンテルシテ)は通常の半数の運行となり、国際高速鉄道(ユーロスター)の運行にも支障が出て(注17)、週末にアルプスのスキーリゾートなどへ旅行予定だった100万人のうち15万人が鉄道を利用できなかった(注18)

管制官のストライキに続き、翌週、2月23日と24日にかけて、主要労働組合Sud-Rail(従業員の18%を擁する3番目の組合)は信号操作担当の従業員にストライキを呼びかけた(注19)

なお、23年11月に行われた年次労使交渉では、Sud-RailとCGT-Cheminots(代表32%)は、12月23日に始まる学校のクリスマス休暇でストライキ実施も辞さない構えで賃上げを要求したが、CFDT-Cheminots(従業員の15%)とUnsa-Ferroviaire(22%)は協約に署名したため、ストライキは実施されなかった(注20)

電力公社(EDF)

電力公社では2024年の賃上げ回答が不十分だったため、FO(労働者の力)は従業員にストライキを呼びかけ、1月30日に実施した(注21)

賃金交渉における経営側からの1月8日の提案は、1.5%の賃上げというものだったが、FOは2024年のインフレは依然として高水準にあると見込まれるため、到底受け入れられないという姿勢を崩さなかった。2024年に支部レベルで決定した措置(基本給の2%増と年功序列賃金の0.64%増)を上乗せしても経営側からの提案は受け入れられるものではないとして、FOは2024年の7%賃上げを要求して労使交渉は打ち切られ、ストに突入した。

経営側の集計によると、1月30日正午時点で全従業員6万3000人のうち20%以上が、同日夜時点で29%がストライキに参加した。部門別では水力発電所が最も多く44%、原子力部門が33%だった。正午時点では、ストライキの影響で発電量が低下したが、停電は発生しなかった。

教員のスト

24年2月には教員によるストライキも起きた。賃上げなど労働条件の改善を求めるとともに、政府がすすめる教育改革への抗議のため、初等教育から高等教育まで広い範囲の教員がストライキに参加した。

2月1日に行われたストライキには、保育園・小学校の教師の20.11%、中学校・高校の教師の20.40%が参加した(保健省発表)。国民教育省の発表では、教師の20.26%がストライキに参加したが、動員が最も大きかったのは中学校で、教師の約29%が参加したとしている。他方、労働組合は、中学校と高校で47%の教師が参加したとしている(注22)。ストライキは翌週の2月6日にも行われ、国民教育省の発表によると、ストライキ参加者は減少し3.2%で、もっとも参加率が高い大学教師でも9.52%の参加率だった(注23)

教員の賃金に対する不満は、国民教育省が教員に対して行った満足度調査の結果からも伺える。概ね満足度が高い結果が得られたが、キャリアの見通し(10点中2.9)と報酬水準(10点中3.3)が顕著な不満の原因となっていることが判明した(注24)。ストライキに参加した教員は、公務員の給与算定に用いられる指数ポイントの上昇による給与の引き上げを求めている(注25)

労働組合は次の要求項目を掲げている(注26)。主には(1)全員に即時月額400ユーロ賃上げ、(2)最低月額給与総額2,200ユーロの確保、(3)2010年以来凍結されている指数ポイントの回復、(4)指数ポイントのインデックス化、(5)給与水準の見直しと教員間の不平等を減らすための措置、などである。

そのほか、教員らは政府が進める教育改革にも抗議している。反対する改革の一つが、中学校を大学入学準備段階として重要視し、フランス語と数学のレベルを大幅に引き上げることを目的とする改革である(注27)。この改革は、中学校におけるグループ別学習を推進するもので、クラス全体を「成績優秀な生徒のグループ」「中程度のグループ」「成績が良くないグループ」の3つに分けることによって、学習到達度に合致した授業を行うこととしている。現行の教育体制では、同じクラスに極端にレベルの異なる生徒が混在しており、生徒が互いの足を引っ張り成績が伸び悩む現状を改善するための措置である(注28)。2024年9月の新学期から6年生(日本の中学1年相当)と5年生(同中学2年相当)で実施される予定であり、2025年9月の新学期から4年生と3年生のクラスも実施する予定である。

抗議する教員はこの改革が生徒の格差を助長するものだとして反対している。また、同省の試算によると、この改革に要する教員のポストは合計2,330人分であるが、その人員確保に現職教員は疑念を抱いている。政府の計画では、人員をレベル別グループ学習に集中させ、1,058人のポスト(削減予定の484人を削減せず574人分の追加的に新設)のうち、830人は2024学年度の開始時にレベル別グループの設立に割り当てる(注29)。このほか、既存の制度で毎週1時間割り当てられているフランス語と数学の学習支援を9月に廃止し、また6年生の授業時間数を週に26時間から以前の25時間に戻す等の措置によって、フルタイム相当の教員1,500人を確保できると見積もっている。

しかし、労働組合はレベル別グループ学習の導入は、学校の問題を何ら解決せず、不平等を拡大する可能性さえあるとして反対している。ある研究によると、成績によるグループ分けは「スティグマ」効果が働き、上位のクラスの生徒は自信が増し、互いに模倣することで自分たちに利益がもたらされ、最下位の困難な状況にある生徒、つまり社会的に最も不利な立場にある生徒との差が広がると結論づけている(注30)。また、最下位クラスの生徒の自尊心とモチベーションの喪失につながり、その結果、学業成績に影響を与えることが明らかとなっている。成績の下位の生徒が集団になると、レベルが低いため均質なクラスを管理することの困難さに教師は直面し、学習目標を下方に適応させる傾向があることも示されている。

ストに参加した教員によると、2023学年度の開始時に6年生に対してきめ細やかな学習サポートの時間を設けるよう取り組んできたが、今回の改革を実施するためには2024学年度の開始に向けて、すべてを変えなければならないのは大きな負担となると主張している(注31)

また、職業リセ(高校)改革に対しても抗議の声があがっている。2024学年度の開始時に、職業リセ最終学年の学生は、共通コア科目に変更が加えられる予定で、6週間の有償インターンシップの実施を可能にするために授業数が減らされる(注32)。教員は、この新コースの導入によって、授業期間が170時間分短縮され、いわば学校教育が徒弟制度に変わることを意味すると懸念を示している。労働組合のSNUEP-FSU は、インターシップは学生を無償の労働者扱いするものだと問題視している。

(ウェブサイト最終閲覧日:2024年3月8日)

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