指導的地位にある女性の比率
―監査役35.5%、取締役10.3%
政府はこのほど、指導的地位(幹部・管理職)に占める女性比率の進捗状況(第7次進捗報告)を公表した。それによると、上場企業等の大手民間企業の「監査役会(Aufsichtsrat)」に占める女性比率が35.5%に上昇した一方で、「取締役会(Vorstand)」は同10.3%と低水準にとどまっていた。
女性のクオータ制の導入―2016年に監査役会、22年に取締役を対象に
ドイツでは近年、幹部・管理職(指導的地位)の女性比率を上昇させるためのクオータ制(比率割当)の導入が進んでいる。2015年に「女性の指導的地位法(FüPoG)(注1)」が制定され、翌2016年から上場大手約100社に対して、「監査役会(Aufsichtsrat)(注2)」の女性役員比率を30%以上にすることが義務付けられた。同法は、ほかにも約3500社を対象に「管理職の女性比率の目標値と達成時期を2015年9月までに設定すること(但し、自主目標を達成できなかった企業への法的制裁は特に設けていない)」、連邦機関を対象に「同女性比率目標を50%として毎年数値を公表すること」なども規定している。
施行後の進捗は、2017年3月8日(国際女性デー)に初めて公表され、義務付け(監査役会の女性比率30%以上)対象企業すべてが目標を達成し、さらに3500社を対象とした自主目標値と達成時期についても7割超が設定済みの状況であることが明らかになった。
その後、2020年に公表された第4次の進捗報告では、義務付け対象外の企業における監査役会の女性比率の上昇率が鈍化していることや、同法が対象外とする企業の「取締役会」については2015年から2017年にかけて6.3%から7.6%とごくわずかな上昇しかしていないこと等が判明した。
このような進捗状況を踏まえて2021年には、指導的地位における女性比率のさらなる強化・拡充を目的として、「第2次 女性の指導的地位法(FüPoG II)」が制定された。これにより、翌2022年から、対象上場企業の「取締役会(Vorstand)」の役員が3人以上の場合、1人以上の女性参加が義務づけられた(ただし、例外として、正当な理由がある場合には、それを明らかにした上で、女性の数をゼロ目標とすることが認められている(注3))。同法はほかにも公法上の企業(連邦政府が株式を過半数保有)における「取締役会・理事会」や連邦機関の「委員会」のメンバーが2人以上の場合、1人以上の女性枠要件を導入し、指導的地位における男女均等の2025年末までの達成を規定している。さらに、毎年進捗状況を政府へ報告し、施行5年後に法律の効果等を評価するとしている。
政府の第7次進捗報告の概要
今回公表された第7次進捗報告は、2つの法律(FüPoG 、FüPoG II)を所管する連邦司法省(BMJV)と連邦家族省(BMFSFJ)(注4)の両大臣が連邦政府に提出する形で公表が行われた。
それによると、対象企業における監査役会の女性比率は、2015年から2020年にかけて10ポイント以上大幅に上昇した(図表1)一方で、同期間の取締役会の比率は4.2ポイントのみの上昇、割合も10.3%と、全体として低水準にとどまった(図表2)。
図表1:対象企業における監査役会の女性比率(2015~2020年)
図表2:対象企業(2045社)における取締役会の女性比率(2015~2020年)
さらに、調査対象の2045社のうち、75.3%(2045社中1540社)には、2020年度中に、取締役会に女性役員が1人もいない状態だった(図表3)。
図表3:調査対象企業(2045社)における女性役員の割合(2020年)
出所:第7次進捗報告書(2023)
所管大臣のコメント
進捗報告を受けて、法律を所管する2省庁の両大臣は以下のような所感を述べている。
マルコ・ブッシュマン司法相は、「今回の報告によると、対象企業の監査役会に占める女性割合は、目標を超える35.5%に達している。しかし、取締役会の同割合は全体の10%にすぎず、依然として改善の余地がある。我々は、女性管理職の平等な参画が、ドイツにとって重要であり、各企業の利益につながることを企業自らが認識していると確信する」と述べた。
また、リサ・パウス家族相は、「指導的立場に占める女性割合の改善は心強い。クオータ制に関する法律は、より多くの女性が管理職に就くことに決定的な貢献をしており、“パートタイム管理職”のような新しいモデルが文化的変革をもたらしている。また、進捗の公表によって、誰にとっても透明な数値把握が可能な環境が醸成されている。私はこの透明性が、必要な圧力と競争を生み出すと確信している。時代に適応した人事政策によってのみ、女性は適切な管理職に就くことができ、多様性はポジティブな形で報われ、企業は恩恵を受ける」とコメントした。
注
- 通称「女性クオータ法」と言われる。正式名称は「Gesetz zur Ergänzung und Änderung der Regelungen für die gleichberechtigte Teilhabe von Frauen an Führungspositionen in der Privatwirtschaft und im öffentlichen Dienst (民間および公共部門の指導的地位への女性の平等参加のための規定の補足および改正に関する法律)」(本文へ)
- 「監査役会(Aufsichtsrat)」は、取締役の任免、投資計画、人員計画、賃金の決定等について強い権限を有している。これは、従業員が企業経営の意思決定に参画できる「共同決定」というドイツ特有の制度に由来するもので、例えば従業員2000人超の上場企業では、共同決定法(MitbestG)に基づき、「監査役会」が設置される。監査役会は「株主代表」と「労働者代表」で構成され、その割合が1対1の場合、これを「完全な共同決定」という。今回、女性クオータ制が導入されたのは、完全な共同決定義務のある上場大手約100社で、2016年以降、新たに監査役の委員を選出する場合、女性比率(男性比率も)を最低でも30%以上にする義務が課された。なお、最終的に成立した法律では、株主代表と労働者代表の総数に対して30%以上の比率であれば良いとされた。ただし、委員選出前に、どちらかが異義を申し立てた場合は、別個に30%規定が適用される。なお、女性が十分に選出されなかった場合には、空席を維持しなければならない(空席制裁:Sanktion leerer Stuhl)。(本文へ)
- 他方、目標値を報告しない企業、ゼロ目標の正当な理由を示さない企業に対しては罰金等が科され得る可能性がある。(本文へ)
- より正確な省庁名は、「連邦司法・消費者保護省(BMJV)」、「連邦家族・高齢者・女性・青少年省(BMFSFJ)」。(本文へ)
参考資料
- Bundesrat
Siebte Jährliche Information der Bundesregierung über die Entwicklung des Frauenanteils in Führungsebenen und in Gremien der Privatwirtschaft und des öffentlichen Dienstes des Bundes sowie der Unternehmen mit unmittelbarer Mehrheitsbeteiligung des Bundes
(https://www.bundesrat.de/SharedDocs/beratungsvorgaenge/2023/0601-0700/0686-23.html)
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