2024年の労働分野における主な法改正
2024年1月1日以降、「市民手当」の標準給付額の引上げ、最低賃金の引上げ等、様々な法改正が行われた。以下に労働分野の動向を抜粋して紹介する。
「市民手当」、標準給付月額の引上げ
失業扶助制度である「市民手当(Bürgergeld)」の標準給付額が、1月1日から図表1の通り引上げられた。市民手当は、旧来の「ハルツIV(失業手当Ⅱ)」を改革し、23年1月1日から刷新された制度である。ハルツIVが抱えていた課題を改善し、受給者が住み慣れた家や貯蓄を過度に失うことなく、将来的に長期に持続可能な仕事に就く支援行う仕組みに変えると同時に、標準給付額の大幅な引上げなどが行われた。
図表1:標準給付月額 (単位:ユーロ)
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出所:BMAS(2023).
最低賃金の引上げ ― 1月1日から時給12.41ユーロ
法定最低賃金は、 1月1日から時給12.41ユーロに引上げられた。この引上げは、23年6月26日の最低賃金委員会の勧告に基づき、同年11月24日の第4次最低賃金調整令(MiLoV4)によって決定された。なお、最低賃金の改定額は同委員会の勧告に従い、図表2の通り2025年まで確定している。
図表2:最低賃金(時給)の引上げ(2015年~2025年)
注:赤字は今回の引上げ。
出所:政府広報をもとに作成。
年金受給開始年齢の引上げ
2012年から継続中の年金受給開始年齢の段階的に引上げ(65歳から67歳へ)は、年齢の上限がさらに1カ月引き上げられた。1958年生まれの被保険者は、年金受給開始年齢が66歳になる。将来的に1964年生まれ以降から、標準的な年金受給開始年齢は67歳になる。なお、法定年金の保険料率は、2024年も前年同様に18.6%(労働者9.3%、使用者9.3%)に据え置かれている。
統合助成金 (Eingliederungszuschuss)―高齢者に対する特別規定の延長と、最低年齢の引上げ
長期失業、高齢、障害等の理由により、通常業務に制約のある者を採用する使用者に対して、統合助成金 (Eingliederungszuschuss)が支給される。助成額と期間は、雇用エージェンシー(AA)等の職業安定機関が個別に決定するが、助成額は対象賃金の50%まで、支給期間は最大12カ月までとなっている。
同制度の特別規定―50歳以上の高齢者を採用する場合は、支給期間を最大36カ月まで延長可能―が、新たに2028年12月31日まで5年間延長された。同時に、1月1日から、この特別延長を受けられる最低年齢が従来の50歳から55歳に引上げられた。
「就労不能証明書」の電子化
就労不能証明書(Arbeitsunfähigkeitsdaten)が1月1日以降、電子化され、失業手当を受給する医療保険加入者は、就労不能証明書を雇用エージェンシー(AA)に提出する必要がなくなった(失業手当を受給せず、継続職業訓練に参加中の者等にも適用される)。その代わり、AAは、該当の電子情報を医療保険機関から自動的かつ直接入手できるようになった。ただし、急な発病等で就労不能となった場合、その予想される治療期間等を本人がAAに直ちに通知する義務は依然として残っている。今回の電子化と情報の自動入手により、該当者の負担軽減と関与時間の削減(年間43.6万時間)が見込まれている。このほか、労災保険制度(gesetzlichen Unfallversicherung)における業務災害や職業病の届出手続きについても1月1日以降、電子報告が唯一の手段となった(ただし、全手続きにおける完全な電子化については、2027年12月31日までの経過措置が設けられている)。
サプライチェーン・デューデリジェンス法(LkSG)の対象企業が拡大
すでに昨年1月1日からドイツに拠点を置く従業員数3000人以上の大企業を対象にサプライチェーン・デューデリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflicht engesetz, LkSG)が施行されているが、今年1月1日からは、従業員数1000人以上の企業にも対象が適用拡大された。同法は、調達元の企業が自社や取引先を含めた供給網(サプライチェーン)において人権侵害や環境汚染のリスクを特定し、責任を持って予防策や是正策をとることを義務づけている。連邦経済・輸出管理局(BAFA)は、サプライチェーン法を実施し、対象企業が法定デューデリジェンス義務を適切に果たしているかどうかを監視する。具体的には、企業の報告義務遵守の確認、査察、違反の発見・排除・防止、行政処分・罰金などを行う。このほかBAFAは、企業がデューデリジェンス義務を履行するのを支援するため、配布資料を作成・発行等も行っている。
継続職業訓練のオンラインポータルを開設
連邦雇用エージェンシー(BA)が22年9月から「国家継続訓練戦略」の一環として開発を進めてきた「mein NOW (継続職業訓練全国オンラインポータル)」が1月1日から新たに稼働した。2024年末までに、新機能を拡張させる予定である。ドイツの継続職業訓練市場は、すでに整備済みの初期職業訓練市場と異なり、様々な情報があふれ、訓練を希望する使用者や労働者が、自身のニーズに合った訓練情報を見つけるのが難しい状況にある。この課題を解決するために、継続職業訓練に関する一元的で、簡易に利用できるオンラインポータルをBAが提供することで、継続職業訓練への参加を容易にすることを目的としている。利用対象者は、スキル向上を望む労働者や失業者、従業員のために適切な継続訓練を探している雇用主(特に中小企業経営者)、訓練プログラムの幅を広げたい訓練提供者などを主としており、それぞれの利用者に対する助成金、相談機会、取得資格の情報を提供し、継続訓練への迅速かつ容易なアクセスの支援を行っている。
参考資料
- BMAS
https://www.bmas.de/DE/Service/Presse/Pressemitteilungen/2023/das-aendert-sich-im-jahr-2024.html
https://www.bmas.de/DE/Arbeit/Grundsicherung-Buergergeld/Buergergeld/buergergeld.html
https://www.bmas.de/DE/Service/Gesetze-und-Gesetzesvorhaben/weiterbildungsgesetz.html
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=159.28円(2024年2月2日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
2024年2月 ドイツの記事一覧
- 2024年の労働分野における主な法改正
- 2023年の男女賃金格差18% ―4年連続で横ばい
- 「市民手当」をめぐる議論 ―制裁強化の可能性も
- ドイツ鉄道運転士組合(GDL)のストライキと公益産業のスト規制
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