「国家継続訓練戦略」の達成事項と課題
 ―策定2年目の中間評価

カテゴリー:労働条件・就業環境人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2022年1月

政府は、2019年6月に採択された「国家継続訓練戦略」について、2年経過後の中間評価を発表した。それによると、設定された10の活動目標の4分の3以上は、すでに「実施済み」か「実施中」であった。他方で、複数の課題が残されていることも判明した。以下にその概要を紹介する。

国家継続訓練戦略とは

「国家継続訓練戦略(NWS;Nationale Weiterbildungsstrategie)」は、2019年6月に政労使等17のパートナー(注1)によって共同で採択された。それまで若年者向けの「初期訓練」について政労使が連携を図ることはあったが、「継続訓練」について政労使が国家戦略を採択したのは初めて。背景に、デジタル化の進展等による急速な変化に対応するため、在職者や求職者に対する「継続訓練」が欠かせないという関係者の共通認識があったとされる。

同戦略が特にターゲットとしているのは、継続訓練に参加する機会が少ない低技能の労働者や求職者等である。彼らが継続訓練に参加し、エンプロイアビリティ(雇用され得る能力)を高めるためには、まず前提条件として基礎的な技能を備えることが欠かせない。そのため、関係パートナーは、「識字能力と基礎的な技能(ITや数学スキル等)を向上させるためにさらなる行動が必要」との認識に基づき、ドイツ語の読み書きに関する能力や成人向けのITスキルと数学スキルの向上に力を入れることとした。また、継続訓練への参加が少ない中小企業支援や、デジタル化等の影響に晒される者への支援も重点事項とされた。

この戦略では、17のパートナーが政治的・社会的に結束して、継続訓練文化の普及に向けた長期的かつ広範なパートナーシップを築くための手法である「コミュニケーションプロセス(Austauschprozess)(注2)」が重視されている。同プロセスを通じて設定された10の活動目標に沿って、これまで取り組みが行われてきた。

【10の活動目標】

  1. 継続職業訓練機会の透明性と機会の確保を支援する、
  2. 支援格差を解消し、新しいインセンティブを生み出し、既存の複数の支援制度を適合させる、
  3. 生涯にわたる継続教育訓練に関する国内の相談窓口を統合し、特に中小企業向けの技能開発に関する相談を強化する、
  4. ソーシャルパートナー(労使)の責任を強化する、
  5. 継続職業訓練プログラムの質の向上と、その評価に関する体制を強化する、
  6. 職業教育と訓練を通じて労働者が習得した技能の可視性と認識を高める、
  7. さらなる継続訓練プログラムとその資格を開発する、
  8. 職業訓練を継続し続けるための中核的研究拠点としての教育機関を戦略的に開発する、
  9. 継続職業訓練の現場を支援し、デジタル移行(デジタルトランスフォーメーション)に必要な技能を身につけさせる、
  10. 継続職業訓練に関する統計の最適化と、その戦略的予測を強化する。

中間評価の概要

発表された「Zwei Jahre Nationale Weiterbildungsstrategie(国家継続訓練戦略の2年)」と題する中間評価では、期間中に生じた新型コロナ感染拡大により、「デジタル主導の労働界の変革がさらに加速したこと」、「異例の状況や大変革期の中でも、継続訓練がレジリエンス(回復力)や競争力強化の中心的役割を担っていること」、「継続訓練は個人のキャリア展望の鍵を握ること」、「継続訓練は経済の安定や成長、社会的結束を左右すること」等の点を指摘している。

その上で、これまでに合意された措置やイニシアチブの4分の3以上は実施済みであるか、実施中であったとして、以下の具体的な達成事項をあげた。

【達成された事項】

  • 関連政策の実施にあたり、個別に委員会が設置され、全ての戦略パートナーが会合を開き、必要なネットワーキングの調整を行った。その中で識字教育や基礎教育、カウンセリング(相談)、品質保証等の詳細な課題について、ワークショップ等で話し合いが行われた。
  • 「INVITEイノベーションコンペティション」や認定イニシアチブ「デジタルトランスフォーメーションQ4.0 」など、継続教育のデジタル化の推進に焦点を当てた複数のプロジェクトが開始された。最初のプロトタイプ(試作)である「デジタルスキル証明書(EDCI;Europass Digital Credentials Infrastructure発行(注3))は、新しいEuropassポータルの立ち上げとともにリリースされた。
  • 「明日の労働法(Arbeit-von-morgen-Gesetz)(2020年5月)」により、連邦雇用エージェンシー(BA)は、デジタル変革におけるエンプロイアビリティ(雇用され得る能力)を高めるために、構造変革期に必要とされる関連資格取得への支援を大幅に拡大した。同法はまた、特定の条件下で職業資格を取得するための訓練助成金に関する受講者の新しい法的権利を生み出した。
  • 新型コロナウイルス感染拡大の間、「雇用確保法(Beschäftigungssicherungs-gesetz)(2020年12月)」は、専門的な継続訓練制度を簡素化し、さらに発展させることで、操業短縮中に職業訓練を受講するインセンティブを強化した。
  • 企業に対する支援が拡大され、生涯にわたり継続職業教育の必要性を高めるための持続可能な教育相談とガイダンスが確立された。
  • 継続職業訓練の内容をよりよく評価できるようにするため、透明で体系的な報告を確立するための複数のプロジェクトが開始された。その中で、テーマ別に職業訓練の品質保証に関する取り組み、認証方法、法的枠組みの在り方、参加者の視点からみた透明性の確保といった分野をカバーする実践指向の推奨次項が開発された。

残る複数の課題と期間中に新たに発生した課題については、以下のように概説している。

【今後の課題】

  • 継続訓練への参加が少ない低技能の個人に特化して支援すること、
  • 既存の複数の支援提供プログラム間の一貫性をさらに高めること、
  • 継続訓練に対する全体的な投資をさらに増やすこと。この点に関して、中間評価における推奨事項は、「相談サービスの強化」、「非公式および非公式に取得した職業技能の検証の実施」、「補足的な訓練プログラムを通じて職業資格を持たない人々が職業資格を取得するのを支援すること」等である。

また、同戦略におけるコミュニケーションプロセスを通じて、政労使学の間の新しい協力文化を確立したとしている。すなわち、この手法により、戦略の主な目的である「科学界と実務家の間のコミュニケーションを絶えず改善し、様々なターゲット層、特に中小企業労使の利用のしやすさと利用率を向上させることが重要だ」と指摘した。

中間評価に対する担当大臣所感

政府のプレスリリースによると、フベルトゥス・ハイル連邦労働社会相は、「我々は多くを達成したが、今後もさらにその道を進み続ける必要があり、社会的市場経済(注4)の未来がその取り組みにかかっている。課題は、経済的な競争にとどまらず、社会平和にも関わる。柱となる『デジタル化』や『エコロジカル革命(注5)』を社会的に支援するためには、必要とする者の訓練助成の法的請求権が必要だ。これは親時間(育児休暇)取得のように社会の中で当然視されるようにならなければならない。継続訓練は、キャリアアップへの新たな展望や機会創出を可能にする。一連の政策的取り組みによって、今後10年間で200万人が恩恵を受けるだろう。今後はさらに継続訓練を見直し、迅速に戦略を進展させる必要ある」とコメントした。

他方、アーニヤ・カリチェク連邦教育相は、「今後もドイツが国際競争力と革新性を保つためには、初期訓練を受け、さらに継続訓練によって、その知識と能力を常に最新の状態に更新し続けることが必要だ。継続訓練は、労働者個人にとってもキャリアアップの重要な土台となる。従って、我々が目標とするのは、職業人生全体において、定期的に継続訓練を受けることが誰にとっても当然かつ可能でなければならない。この目標達成に向けて、関係者は一丸となってこの2年間、国家継続訓練戦略に取り組み、一定の成果を上げた。しかし、まだ完全には達成しておらず、今後も引き続き政策的な支援をしていく必要がある。例えば、連邦教育研究省は連邦首相とともに『デジタル教育イニシアチブ(Initiative Digitale Bildung)』を立ち上げ、教育におけるデジタル化促進のためのプラットフォームを構築した。同時に継続訓練へのアクセスを改善することで、個人のニーズに応じたより良い調整が可能となりつつある。継続訓練の普及に関しては、現場からのボトムアップ(下意上達)アプローチを重視する。従業員にどの資格や能力が、いつ必要となるかを一番よく知るのは企業であり、初期訓練をしっかりと受けた従業員を通じて利益を得るのはまさに企業自身である。従業員の資格・能力・知識レベルが高まれば企業にとってその分プラスとなる。ドイツの労働界にとって最適な継続職業訓練はそこから生まれるのであり、現場の見識と労使の智恵を信じる。これは、ドイツで実績がある古き良き補完性(Subsidiarität)の原則(注6)に沿ったものでもある」と述べ、初期訓練に基づく、継続訓練の発展に向けた取り組みに意欲を示した。

参考資料

  • BMAS、Cedefop、Deutsche Welle ほか

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