雇用・個人請負分類基準の新規則を発表
―連邦労働省、6要素で判断
連邦労働省は1月9日、公正労働基準法(FLSA)のもとで「雇用労働者(Employees)と分類して保護する対象となるかどうか」の判断基準に関する新たな連邦規則(以下、「新規則」)を発表した。スマホアプリなどを介して輸送や配達などに従事する「ギグ・ワーカー」らを個人請負事業主(Independent Contractor)に分類しやすくしたトランプ前政権制定の現行規則(以下、「現規則」)は取り消す。新規則は2024年3月11日に発効する予定だが、経営者団体やウーバーなどのプラットフォーム企業などは反発している。
トランプ前政権時代の規則を撤廃へ
FLSAは雇用労働者に対する残業代や最低賃金の支払い等を雇用主に義務づける。トランプ前政権は2020年9月、FLSAを適用する雇用労働者に該当するか否かを「雇用主による管理の性質と程度」と「自らの手腕による損益の機会」という2つの要素を中心に判断する現規則案を発表。ギグ・ワーカーらをFLSA適用対象外の個人請負事業主に分類しやすくした。
2021年1月発足のバイデン政権は現規則の発効日を延期したうえで撤回。これに対して、ウーバー社などの企業連合が撤回の無効化を求めて訴訟になり、連邦地方裁判所が企業側の主張を認め、現規則の発効を命じていた。バイデン政権は2022年10月に、現規則で示した2要素に加え、4つの要素を同等に踏まえて判断する内容の新たな規則案を発表。パブリックコメントを募ったうえで、現規則を撤廃し、新たな規則を実施する予定にしていた(注1)。
6つの判断要素
今回発表の新規則(注2)は2022年10月発表の規則案と同様に、現規則で中心に据えていた2つの要素(「雇用主による管理の性質と程度」「自らの手腕による損益の機会」)と同等に、「自らの仕事に必要な設備や資材への投資」「仕事上の関係の永続性」「従事する仕事が雇用主のビジネスの不可欠な部分か」「スキルと自発性」の4要素も考慮し、総合的に判断する方針を示した(図表1)。これにより現規則よりもギグ・ワーカーらを雇用労働者に分類する可能性を広げた。
雇用主による管理の性質と程度(Nature and degree of control) |
自らの手腕による損益の機会(Opportunity for profit or loss depending on managerial skill) |
自らの仕事に必要な設備や資材への投資(Investments by the worker and the potential employer) |
仕事上の関係の永続性(Degree of permanence of the work relationship) |
従事する仕事が雇用主のビジネスの不可欠な部分か(Extent to which the work performed is an integral part of the potential employer's business) |
スキルと自発性(Skill and initiative) |
出所:連邦労働省ウェブサイトより作成
こうした新規則の判断基準は、裁判所が長く用いてきた「経済的実態テスト(Economic Reality Test)」に基づく。「経済的実態テスト」は、労働者が使用者に経済的に依存しているか否かを、複数の要素で総合的に判断するもので、カリフォルニア州で「AB5法」として法制化した「ABCテスト」とは異なる。「ABCテスト」で個人請負事業主に分類するには、(1)契約上も実際も、業務手法について使用主体から管理や指示を受けていない、(2)使用主体の通常業務の範囲外の職務に従事している、(3)雇用主体のために遂行する業務と同じ性質の独立、確立した仕事に、慣習的に従事している、という3つの条件を満たさなければならない。
各界の反応
ジュリー・スー労働長官代行は「雇用労働者を個人請負事業主として誤って分類することは、労働者の基本的な権利と保護を奪う深刻な問題だ。新規則は労働者が適切に分類され、稼いだ賃金を確実に受け取れるようにし、とりわけ搾取の最大のリスクに直面する労働者を保護するのに役立つ」と新規則制定の意義を説明した。
リベラル系シンクタンク経済政策研究所(EPI)によると、建設労働者、トラック運転手、用務員・清掃員、小売業販売員、家事清掃員、造園作業員、カスタマーサービス・コールセンタースタッフ、警備員、軽トラック配送員、ネイリスト・ペディキュアリストの多くが、事実上は企業の管理のもとで働きながら、個人請負事業主と分類され、労働者として保護を受ける権利が制約されている。EPIは新規則について「雇用主による個人請負事業主への「誤分類」に対抗し、より多くの労働者が法的な権利と保護を確実に享受できるようにする」と新規則を歓迎するコメントを出している(注3)。
一方、新規則に対して、経営者団体やプラットフォーム企業は批判の声をあげている。米国商工会議所(U.S. Chamber of Commerce)のマーク・フリードマン副会長(職場政策担当)は「新規制はほとんどの個人請負事業主を雇用労働者と宣告することに明らかに偏っている。この動きは柔軟性や機会を減少させ、何百万もの米国人が収入を得る機会を失う結果となる」と懸念を表明。また、「個人が好きなときに好きなように働く柔軟性を脅かし、我が国経済にも悪影響をもたらす可能性がある」として、訴訟を含む選択肢を慎重に検討するとコメントしている(注4)。
プラットフォーム企業大手のウーバー・テクノロジー社は新規則を「当社が運営するための法律を実質的に変えるものではなく、柔軟な形で収入を得るためにウーバーを利用する100万人以上の米国人の分類に影響を与えるものではない」と主張。そのうえで「全国のドライバーは、自分たちが享受する独立性を失いたくないことを圧倒的に明らかにしている」として、バイデン政権に対し、新規則の施行にあたって、こうしたドライバーの意見を直接聴くよう求めている(注5)。注
- 「個人請負の分類基準案を再提示 ―ギグ・ワーカー保護に向け、連邦労働省」JILPT海外労働情報 2022年10月参照(本文へ)
- 連邦労働省ウェブサイト(本文へ)
- 経済政策研究所ウェブサイト(本文へ)
- 米国商工会議所ウェブサイト(本文へ)
- ウーバー・テクノロジー社ウェブサイト(本文へ)
参考資料
- 日本貿易振興機構、ニューヨークタイムズ、ブルームバーグ通信、連邦労働省、各ウェブサイト
2024年1月 アメリカの記事一覧
- 22州が最低賃金を引き上げ ―2024年1月、990万人以上の労働者に影響
- 雇用・個人請負分類基準の新規則を発表 ―連邦労働省、6要素で判断
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