男女賃金格差18%
 ―格差をめぐる最近の動向

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2023年4月

連邦統計局の発表資料によると、2022年の男女賃金格差(未調整)は18%であった。ドイツ政府は2030年までにこの差を10%に縮小する目標を掲げ、関連法の整備を進めている。男女賃金格差をめぐっては、近年新たな分析が試みられたり、連邦労働裁判所(BAG)で重要判決が出されたりしている。以下にその動向を紹介する。

多くは構造的要因-連邦統計局

連邦統計局が2023年1月に発表した資料によると、昨年の1時間当たりの平均賃金は、男性の24.36ユーロに対して、女性は同20.05ユーロと、4.31ユーロ(18%)少なかった。連邦統計局は、この差を「未調整の男女賃金格差」とした上で、18%のうち11%は職業や働き方などの「構造的要因」だとしている。この構造的要因を取り除いた残りの7%を、解消すべき「説明できない男女賃金格差」だとしている。

「説明できない男女賃金格差」を分析-15カ国の国際比較研究

男女賃金格差は、その殆どが「構造的な要因(異なる職業や働き方など)」によって生じているというのが、これまでの一般的な説明や認識であった。

近年、従来とは異なるアプローチで男女賃金格差を新たに捉え直そうとする研究が行われており、2022年には15カ国の膨大なデータ(詳細な労働契約、税・社会保障データ、全国統計データベース等)を国際比較・分析した結果が発表された。著者の1人であるハリル・サバンジュ氏は、「説明できない男女賃金格差」だとされてきた「同一企業で同一の仕事をする男女の賃金格差」が、格差要因に占める割合は5割に上ると説明する。その上で、同一企業で同一労働をしているにもかかわらず、女性の方が男性より賃金が低いという事実に対しては、国家が積極的に格差是正に取り組む必要があると結論付けている。

連邦労働裁判所(BAG)の判決-「交渉スキル」は格差の正当理由とならず

ドイツでは、男女賃金格差の是正を目的として「賃金構造の透明化促進法(EntgTranspG)」が2017年に制定された。これにより、要件を満たした場合、一定規模以上の企業には「同一(同等)の仕事に就く異性の労働者の賃金情報の開示」が義務付けられている。

同法や一般平等取扱法(AGG)に基づいて近年なされた男女賃金差別の訴えについて2023年2月、ドイツ連邦労働裁判所(BAG)は「企業が多用する『交渉スキルの違い』は男女賃金格差の正当理由に該当しない」とする判決を下した。この判決事例は、同一企業の営業部員として働いていた女性(原告)が、同じ仕事をしていたにもかかわらず、男性部員よりも低い基本給であることを知り、後にその差額の賠償を求めて企業(被告)を提訴したものである。企業側は、「賃金格差の理由として、提示した基本給に男性部員が応じようとせず、より高い賃金を要求したため(格差は男女ではなく、賃金の交渉スキルの違いによる)」と説明していた。同判決は今後、企業内の男女賃金格差の正当化事由に影響を及ぼすものとして注目されている。

男女間の賃金格差是正に向けた制度策定は、ドイツのみならずEUにおいても進んでいる。EUでは2021年に「賃金透明化に関する指令案」が提出され、22年12月にEU理事会(閣僚理事会)と欧州議会が合意し、近く成立が見込まれている。成立すれば、EU内の企業慣行の改善や男女賃金格差の縮小に大きく寄与することが期待されている。

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