賃金構造の透明化促進法、夏にも施行

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  • 国別労働トピック:2017年7月

連邦参議院(上院)は5月12日、男女間賃金格差の是正を目的とした「賃金構造の透明化促進法(EntgTranspG)」に同意した。同法はすでに3月30日に連邦議会(下院)を通過しており、今年の夏から施行される見通しとなっている。

賃金情報開示と状況報告の義務付け

賃金構造の透明化促進法(Gesetz zur Förderung von Transparenz von Entgeltstrukturen)は、連邦家族・高齢者・女性・青少年省(BMFSFJ)が所管しており、賃金構造の透明化を促進することで、男女間賃金格差の是正を目的としている。

そのため同法は、「同一労働同一賃金法」や「男女賃金格差是正法」と呼ばれることもある。

対象となる企業は、従業員200人以上と従業員500人以上で、それぞれ要件が異なる(従業員200人未満の企業は適用対象外)。

まず、従業員200人以上の企業に対しては、労働者の要請に応じて、同一(または同等)の仕事に就く異性の労働者の賃金情報を開示することを義務付けている。情報の開示時には、要請者と同一(または同等)の仕事をする異性の従業員(6人以上)の月額総報酬(中央値、額面、基本給と賞与の内訳、現金以外の報酬情報―例えば社用車の貸与等)を伝える。この時に比較可能な異性の従業員数が6人に満たない場合は、同法の適用除外となる。

なお、労働者が賃金情報の開示を請求できるのは同法施行から6カ月が経過した後とされており、企業のために準備移行期間が設けられている。

また、労働者から賃金情報開示の要請を受けた場合、労働協約を締結している企業は「協約上の賃金規定を閲覧できるようにすれば足りる」とする一方で、労働協約を締結していない企業は、都度の個別対応が求められている。開示の結果、不適切かつ実質的な男女の賃金格差が存在すると認められた場合、当該労働者は、過去3年まで遡り、差額分と将来の賃金に見合う賃金調整分を追加で受け取ることができる。

さらに従業員500人以上の企業に対しては、社内の賃金構造に関する調査・報告書の作成や男女間の平等な賃金に関するモニタリングの実施を推奨している。また、商法264条と289条に基づき、従来から義務付けられていた企業報告の中に、「男女の平等な機会の提供」と「男女の平等賃金の実施状況」に関する項目が追加され、大企業においては、より具体的な男女間の平等賃金支払いの促進が求められている。

EU比較で男女格差が大きいドイツ

EUは2015年に、2020年までに加盟国の女性の雇用率をさらに引き上げて男女格差を解消し、男女ともに75%の雇用率を達成すること等を目指す文書「男女平等へ向けた戦略的取り組み2016-2019(Strategic engagement for gender equality 2016-2019)」を発表し、各国はこれに沿って様々な施策に取り組んでいる。その中でドイツの男女賃金格差は、2015年時点で22%と、EU平均の16%を大きく上回っており、早急な改善が求められている(図1参照)。

図1:男女の賃金格差(EU諸国比較、2015)(単位:%)
図表:画像

  • 出所:Statistisches Bundesamt(Destatis),2017

今回成立した賃金構造の透明化促進法は、こうした背景の中で審議された。成立によって1400万人以上の労働者が影響を受け、男女間賃金格差の解消が進むと見られており、「2030年までに男女間賃金格差を22%から10%に引き下げる」という国家目標の達成にも役立つとドイツ政府は考えている。

参考資料

  • BMFSFJ(12.05.2017)Presse-mitteilung, Bundesrat, Destatis, Deutsche Welleほか。

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