2023年の労働分野における主な法改正

カテゴリー:労働法・働くルール

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2023年4月

2023年1月以降、サプライチェーン・デューデリジェンス法の施行、「市民手当」の導入、操短(操業短縮)手当の一部特例の延長等の法改正が行われた。以下に、主な労働分野の法改正の動向を紹介する。

サプライチェーン・デューデリジェンス法(LkSG)施行

2023年1月1日、従業員数3000人以上の大企業(注1)を対象に、「サプライチェーン・デューデリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflicht engesetz, LkSG)」が施行された。同法は、調達元の対象企業に対して、「注意義務(デューデリジェンス)」として、自社や取引先を含めた供給網(サプライチェーン)における人権侵害や環境汚染のリスクを特定し、責任を持って予防策や是正策をとることを義務づけている。対象企業がデューデリジェンスを適切に果たしているかどうかの確認・監視は、連邦経済・輸出管理局(Bundesamt für Wirtschaft und Ausfuhrkontrolle, BAFA)が行う。具体的には、企業の報告義務遵守の確認、査察、苦情受付、違反の発見・排除・防止、行政処分・罰金などを行う。このほか企業のデューデリジェンス履行支援のための資料作成や配布、説明も行う。

なお、同法は2024年1月1日から、従業員数1000人以上の企業にも適用拡大される。

政府の試算によると、従業員数3000人以上の対象企業は約700社、1000人以上は同約2900社とされる。

「市民手当」の導入、標準給付月額の引上げ

従来の「失業手当Ⅱ(通称ハルツIV)」に代わる新たな新制度「市民手当(Bürgergeld)」が2023年1月1日施行と7月1日施行のニ段階に分けて、導入されることになった。1月1日から施行されたのは、「標準給付月額の引上げ(表1)」や「資産・住宅審査に関する1年間の猶予期間と4万ユーロ未満の資産保護」、「優先配置の廃止」、「義務違反があった場合における、受給当初から10%の手当減額措置(回数や状況により最大30%の減額措置)」等である。また、同年7月1日から施行されるのは、「就業した場合の手元に残る金額の増額」、「受給者に対する全般的な支援やコーチングサービスの提供」「継続職業訓練(Weiterbildung)に参加し、中間試験や最終試験に合格した場合の訓練ボーナス手当の支給」、「長期就業に向けて特に重要な措置に参加する場合の月額75ユーロのボーナス手当の支給」等である。

表1:標準給付月額 (単位:ユーロ)
  受給資格者 2023年 2022年
基準需要額(RBS)1 単身者、単身養育者、ひとり親の受給資格者 502 449
基準需要額(RBS)2 双方とも成人(満18歳以上)同士のパートナー(カップル)の者1人につき 451 404
基準需要額(RBS)3 両親と同居し、就業していない満18歳以上25歳未満の者、施設(社会法典第12編に基づく)に入所している満18歳以上25歳未満の者。 402 360
基準需要額(RBS)4 満14歳以上、満18歳未満 (14~17歳)の者 420 376
基準需要額(RBS)5 満6歳以上、満14歳未満(6~13歳)の者 348 311
基準需要額(RBS)6 満6歳未満(0~5歳)の者 318 285

出所:BMAS(2022).

操短手当(KuG)、一部特例を23年半ばまで延長

今次のコロナ禍において、大量の失業者を出さず、雇用維持や労働市場の安定に大きく貢献したドイツの操短手当は、22年春に厳しい行動制限が大幅に緩和され、経済活動の再開とともに22年6月末でコロナ禍を理由とする特例措置は終了した。

しかし、一部の特例については、ウクライナ戦争によるサプライチェーンの混乱の悪化を避け、企業労使の安定的な計画策定を支援するため23年6月末もしくは、7月末まで延長される(表2)。

表2:操短特例措置の終了・延長
22年6月末で終了した特例措置 22年7月1日以降も継続する特例措置
  • 最長 28 カ月の受給期間
     (※従来は最長12カ月)
  • 手当の引上げ:賃金が通常時の 50% 以上減少した労働者につき、4 カ月目 から 70%(子がある場合は 77%)、7 カ 月目から 80%(同 87%)
     (※従来は賃金減少分の 60%(子がいる場合は 67%)のみ)
  • 対象に派遣労働者を含める
    (※従来は、派遣労働者は対象外)(注)
  • 10%以上の従業員が影響を受けた場合に助成
     (※従来は3分の1以上)
  • 事前に労働時間口座をマイナスにしなくて良い
    (※従来はマイナスにする必要がある)
  •  ・操短中に要件を満たす訓練を実施した場合、社会保険料の雇用主負担の半額を連邦雇用エージェンシー(BA)が負担
    (※従来は雇用主が単独で負担)(23年7月末まで)

注:22年6月末に一旦終了したが、22年10月1日から再度復活し、 23年6月末まで延長。

出所:BMAS(2022).

失業保険料率(Beitragssatz zur Arbeitsförderung)の引上げ

2020年~2022年12月末まで、拠出率を2.4%に引き下げていた特別規定は22年12月末で失効し、2023年1月1日以降、雇用促進のための失業保険料拠出率は2.6%(労働者1.3%、使用者1.3%)になった。

「雇用証明書(Arbeitsbescheinigung)」のデジタル化

2023年1月1日以降、事業主は、失業手当等の請求に必要な「雇用証明書(Arbeitsbescheinigung)(注2)」をオンラインで管轄の雇用エージェンシー(AA)に送信することになり、紙媒体の証明書は廃止された。これにより労働者は、雇用証明書を事業主からでなく、AAから受け取ることになる。なお、雇用証明書は、失業手当の受給資格を満たすかどうかの判断材料に用いられる重要書類の1つで、事業主にはAAへの提出期限も設定されている(SGB III 312条)が、今回完全デジタル化したことで、事業主側の負担軽減等が見込まれている。

年金受給開始年齢の引上げ

2012年から継続中の65歳から67歳への法定年金受給開始年齢の段階的な引上げについて、年齢の上限がさらに1カ月引き上げられた。1957年、1958年生まれの者は、65歳11カ月または66歳で定年を迎えることになる。1964年生まれ以降から、67歳が標準的な支給開始年齢になる。なお、法定年金保険における保険料率は、2023年1月1日からも一般年金保険料18.6%(労働者9.3%、使用者9.3%)が継続される。

児童手当の引上げ

2023年1月1日から、原則として18歳未満の子を対象に支払われる児童手当が、引上げられた。子の数にかかわらず、全ての子1人につき、一律月額で250ユーロが支払われる。従来は子の数によって、支給額が異なり、2021年以降は第1子及び第2子が月額219ユーロ、第3子が月額225ユーロ、第4子以降が月額250ユーロとなっていた。

派遣労働者の業種別最低賃金、3段階で引上げ

労使の合意に基づき労働社会省が法規命令によって規定する業種別最低賃金のうち、派遣労働者の最低賃金時給が2023年1月1日から2024年3月末にかけて、以下のように三段階に分けて引上げられる(表3)。派遣会社の所在地(国籍)にかかわらず、ドイツ国内で働く全ての派遣労働者に適用される(注3)

表3:派遣労働者の最低賃金時給
期間 最低賃金時給
2023年1月1日から2023年3月31日まで 12.43ユーロ
2023年4月1日から2023年12月31日まで 13.0ユーロ
2024年1月1日から2024年3月31日まで 13.50ユーロ

出所:Fünfte Verordnung über eine Lohnuntergrenze in der Arbeitnehmerüberlassung.

参考資料

参考レート

2023年4月 ドイツの記事一覧

関連情報

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。