「上海市就業促進条例」施行
 ―「フレキシブル就業者」への支援を強化

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2023年3月

長年にわたり議論されてきた「上海市就業促進条例」(以下、「条例」という。)が2023年3月1日に施行された。「条例」は、労働者の採用支援と起業家支援の強化、公正な雇用環境の構築、職業紹介など雇用サービスの充実、職業教育訓練の強化などを打ち出している。併せてプラットフォームビジネスやシェアリングエコノミーでデリバリーなどに従事する「フレキシブル就業者」らへの支援策も強める。

起業支援や職業教育訓練など重視

「条例」施行に伴い、従来の「上海市就業促進に関する若干規定」は廃止された。「条例」は、投資、産業、地域、金融、税制、財政、教育、人材における雇用支援の強化を唱えている。また、起業による雇用促進を図るため、起業支援、起業家育成、起業家サービスの改善、起業家キャリアの構築などの対策も示している。

また、公正な雇用環境の整備に向けて、不当な制限や雇用差別を撤廃し、人材サービス機関における平等な雇用条件と公正な雇用機会の提供、女性が男性と同等の労働権を享受することへの保障、障害者の雇用権益の保護なども規定した。感染症患者や感染症キャリアらの雇用の保護も明確にしている。使用者に対しては、感染症に罹患したり感染症キャリアであることを理由に当該者の採用を拒んだり、解雇してはならないことを定めた。また、使用者や人材サービス機関に対して、募集などの際、労働者の医療記録、健康診断報告、犯罪歴など労働契約の履行に無関係な情報へのアクセスを制限することも示している。

職業紹介などの雇用サービスの強化も「条例」の重要なテーマとなっている。公共雇用サービスシステムを改善し、その資源を統合することで、利便性を向上させる。労働者や雇用主に対して、採用・起業政策の相談、進路指導、職業紹介、人材のニーズや職業訓練に関する情報発信、就職セミナー、人材紹介、人材交流、就職支援、雇用・失業登録、転職者の人事記録管理などの無料公共サービスを提供する。オンラインプラットフォームによる職業紹介サービスなどの手続きも簡略化する。また、上海市が、失業リスクの警戒と対応計画の策定、労働紛争の多様な解決システムの強化を図ることも定めている。

職業教育訓練の強化にも重点を置く。経済社会の発展と市場の需要に応じて、職業教育を発展させ、職業能力の構築を強化するために、職業教育の種類や大学と専攻の配置を最適化し、システムを改善する。具体的には、生涯職業技能訓練制度の整備、産業や企業を主体とした専門学校を基盤とする高度人材育成制度の構築、大学や専門学校、職業訓練機関における失業者、在職者、農村労働者らが行う職業技能訓練への支援、使用者による職業訓練制度の確立、産業界と教育界の統合訓練・実践訓練の奨励、公的職業技能水準評価制度の充実、関連補助金政策などを規定している。

就職困難者や重点対象者の就職支援については、無職世帯、青年、大卒者、元軍人、障害者、元受刑者など、それぞれに適した就職支援策の具体化を求めている。

「フレキシブル就業者」への支援の強化

「条例」は、プラットフォームビジネスやシェアリングエコノミーでデリバリーなどに従事する「フレキシブル(中国語で「霊活」)就業者」らへの支援策に重点を置く。フレキシブル就業者の雇用機会の拡大には労働市場における公正な競争の促進を図りつつ、その権利保護を強化して安心感を高めることが重要との問題意識が背景にある。

具体的な支援策として、こうした就業者を公共雇用サービスや職業技能訓練制度に組み込むこと、社会保険に加入し、その制度の待遇を受けられるようにすること、社会保険補助金や雇用補助金などを申請できるようにすること、社会扶助の範囲に含むことなどをあげている。

オンラインプラットフォーム企業は、法律および規則に従って労働者を雇用し、状況に応じて、法律に従って労働契約を締結するか、書面による合意を通じて双方の権利と義務を明確にする必要があると規定。新しい雇用形態の労働者の正当な権利と利益を保護するよう指導・促進する方針を示した。

また、企業、業界団体、労働組合、労働者代表が、ノルマ、出来高、労働安全衛生などについて交渉し、合理的な基準を決定できるようにすることや、労働災害保険制度を改善し、関連する相互保険や商業保険の発展を奨励することも提唱している。

参考文献

2023年3月 中国の記事一覧

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