戦略的新興産業分野の中小企業「専精特新」に対する支援策

カテゴリー:雇用・失業問題地域雇用若年者雇用

中国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2023年3月

今年2月21日、中国政府(工業情報化部)は、第5期「専精特新」企業への支援を実施するとの通知を発表した。「専精特新」企業とは、専門性、精巧性、特徴性、新規性の4つの優れた特徴を持つ中小企業を指し、そのうち中国工業情報化部が選出した「専精特新」企業を「小さな巨人」と呼ぶ。「小さな巨人」企業は、中央もしくは地方政府から、税金、融資、人材採用の優遇策など、さまざまな支援を受けることができる。工業情報化部は今後、対象企業の発展に向けて、より有利な環境の醸成や、資本、人材、技術、インキュベーションプラットフォームの設立などの側面支援を改善し、2023年末までに全国の「専精特新」企業を8万社以上、「小さな巨人」企業を1万社以上に育成する計画である。

「専精特新」企業の育成推進

中国政府は近年、次世代情報技術や新エネルギー、新素材、バイオなど戦略的新興産業分野の「専精特新」企業の育成に向け、積極的な支援策を打ち出している。2019年から2022年までに工業情報化部が選出した「小さな巨人」企業は4回発表され、その数は約9,000社に上る。同時に、地方政府も中央政府の方針に沿って、対象企業の集中的な育成・財政支援に力を入れており、より多くの企業を「専精特新」企業の分野に誘導し、同企業の発展を目指している。

これまでに策定された主な計画を見ると、まず、財政部と工業情報化部が2021年1月23日、「『専精特新』企業の発展支援に関する通知」を発表し、「中央政府は2021~25年の期間に、総額100億元以上の補助金を投入し、地方政府の支援策や公共サービス制度の改善を指導する。期間は3期に分けて(毎期が3年以内)1000社以上の国家レベルの『小さな巨人』企業の発展を支援する」という目標を掲げた。さらに2022年3月、「政府作業報告」においても、「専精特新」企業の育成に努め、資金、人材、インキュベーションプラットフォームの構築などの面で支援していくことが初めて提案された。工業情報化部は続く2022年6月、「優良中小企業集中育成管理暫定弁法」を発表し、「専精特新」の新たな発展のために、政府が細かい分類を行い、段階的に指導する旨を明確にした。

以下のは、工業情報化部が発表した前期までに選出された「小さな巨人」企業数を地域別にまとめたものである。

表:地域別の「小さな巨人」企業リスト(第1-4期)
地域 第1期 第2期 第3期 第4期 合計
浙江省 19 143 308 603 1073
広東省 22 119 288 448 877
山東省 23 118 221 402 764
江蘇省 18 95 172 425 710
北京市 5 85 167 334 591
上海市 17 63 182 245 507
安徽省 19 61 149 259 488
湖北省 9 42 121 306 478
湖南省 10 60 162 174 406
河南省 5 87 115 167 374
福建省 10 107 104 133 354
四川省 14 60 133 138 345
河北省 9 91 102 137 339
遼寧省 9 65 137 76 287
重慶市 5 60 53 139 257
江西省 7 28 109 73 217
天津市 6 35 89 64 194
陝西省 9 43 60 52 164
山西省 2 51 47 40 140
広西チワン族自治区 0 27 54 22 103
雲南省 8 27 17 20 72
貴州省 4 10 36 17 67
吉林省 2 12 21 25 60
新疆ウイグル自治区 5 15 25 14 59
黒龍江省 2 11 22 19 54
甘粛省 5 24 12 7 48
寧夏回族自治区 0 23 8 3 34
内モンゴル自治区 2 10 10 5 27
青海省 2 7 1 4 14
海南省 0 5 3 4 12
チベット自治区 0 0 2 2 4
合計 248 1584 2930 4357 9119

出所:工業情報化部発表の「小さな巨人」企業リストより筆者作成。

地方別に見ると、浙江、広東、山東、江蘇、北京、上海、安徽、湖北、湖南、河南、福建、四川、河北などで、多くの「小さな巨人」企業が選出されている。また、第4期における「小さな巨人」企業の新規選出数は、多くの地域で第1~3期の総数を上回る。

浙江省は「小さな巨人」企業の育成の中心地となっており、第1期から第3期までの「小さな巨人」企業の選出数は470社に上り、さらに第4期だけで603社が選出された。湖北省も、「小さな巨人」企業数が第4期に急増した地域である。第1期から第3期までの企業数は172社で全国に占める割合は3.6%に過ぎなかったが、第4期だけで306社が選出され、同割合は5.24%に上昇した。

人材育成のための産学連携構想

「専精特新」企業の発展継続には、中小企業と産業特性を熟知した高度な応用力、複合力、革新力のある人材が求められており、新型高技能人材を育成するための産業と教育機関の協力が急務となっている。そのため工業情報化部中小企業発展促進センターは2022年9月20日、「『産業学院』の建設への展開に関する通知」を出し、産業への造詣が深く、高い指導力を持つ大学と協力して、100から150の「専精特新産業学院」を共同構築する計画を発表した。その中では、教育と産業需要と融合させ、さらに卒業生への就職支援のために「3つのプロジェクト」を提起している。具体的には、①各地域の中小企業サービス機関が持つリソースを活用して「専精特新」学生向けの新たな雇用の特別マッチングプロジェクトを実施すること、②各種のイベントや研修を積極的に開催し、卒業生の就職能力を高める特別プロジェクトを実施すること、③産学連携を支援し、大学ブランドの影響力を高める特別プロジェクトを実施すること、を挙げている。

深センや江蘇省における人材育成や優遇策

深セン市は2023年末までに、1万3,000社以上の革新的な中小企業、5,000社以上の「専精特新」中小企業、500社以上の専門的な「小さな巨人」企業を育成するという目標を掲げている。そのため、2023年にアントレプレナー・インキュベーション・プロジェクト(起業家育成プロジェクト)や、産業界で不足している人材の育成プログラムを中小・零細企業において推進し、その育成規模を拡大する。また、「専精特新」企業向けの人材育成プロジェクトで年間1,000人以上養成し、市内の大学や専門学校と「専精特新」企業との連携を強化し、「受注型」の人材育成を実施するよう奨励している。さらに、「専精特新」企業と教育訓練機関の連携を支援し、企業のための「新型徒弟教育制度」を開発している。

江蘇省人民政府の20関連部門は2023年1月20日、「専精特新」中小企業を育成するための「江蘇省 専精特新企業育成の3か年行動計画(2023-2025年)(以下:三年計画)」を発表した。その中で江蘇省は、2025年までに特定分野でトップの実力を持つ「製造業単一項目チャンピオン企業(注1)」を300社、「小さな巨人」企業を1500社、「専精特新」中小企業を1万社以上、革新的な中小企業を5万社以上育成する目標を掲げている。目標達成のために、「専精特新」企業で働く従業員の子の入学費、医療費、住宅費などを優遇することで高度人材の採用をしやすくする。さらに、張謇学院などの専門訓練機関と中小企業向けの公共サービスプラットフォームを活用して、「専精特新」企業の管理人材、専門技術人材、高度技能人材などの育成を実施する。このほか「専精特新」企業におけるデジタルスキル人材の育成も支援する計画である。

参考文献

参考レート

2023年3月 中国の記事一覧

関連情報

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。