最低賃金引上法、成立
 ―10月から時給12ユーロへ

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  • 国別労働トピック:2022年6月

ドイツ連邦参議院(上院)は6月10日、最低賃金を10月から時給12ユーロに引上げる法案(Mindestlohnerhöhungsgesetz)を承認した。昨年12月に発足したショルツ政権の公約(連立協定)によるもので、引上げにより国内620万人の労働者が恩恵を受ける。

政府主導による引上げの経緯

ドイツでは約10年の議論を経て、2015年1月1日に全国一律の法定最低賃金(時給8.5ユーロ)が導入された。連邦統計局の推計によると、15年の導入によって約400万人の労働者が恩恵を受けた。導入前は、大量の失業者が発生するとの懸念もあったが、そのような現象は起きていない。導入後は、最低賃金法に基づき、2016年、18年、20年と、2年毎に労使や学識者で構成する最低賃金委員会が開催され、引上げを勧告している。直近では、コロナ禍の20年6月30日に開催され、21年1月以降、2年間かけて半年ごとに4段階の引上げを実施する勧告が出された(21年1月に9.50ユーロ、同7月に9.60ユーロ、22年1月に 9.82ユーロ、同7月に10.45ユーロ)。 政府はその勧告を受け入れ、来月(7月)からは時給10.45ユーロへ引上げる。

しかし、今回は、従来規定されている最低賃金委員会の議論と勧告を経ず、政府が自ら「時給12ユーロ」を設定し、法案審議によって10月1日からの引上げを決定した。こうした政治主導による引上げの背景には、現在の最低賃金水準がドイツの中位賃金(national median income)の48%にすぎないという事実がある。中位賃金の60%を下回る賃金は、EUでは「貧困に対して脆弱な水準」と判断される。ドイツで60%を満たそうとすると、時給12ユーロまで引上げる必要がある。

フベルトゥス・ハイル労働社会相は連邦議会における法案趣旨演説で、中低所得者への救済や社会的団結の維持の重要性を説いた上で、この引上げによって食料費やエネルギー料金(暖房費等)の高騰に苦しむ620万人、特に女性や旧東独地域の労働者が恩恵を受けると説明した。

なお、政府主導による引上げは今回1度限りで、今後は、従来通り最低賃金委員会が2023年6月までに次の引上げに関する議論を行い、勧告を出す。

労組は歓迎、使用者や野党の一部は反発、

今回の引上げ決定について、数年来、時給12ユーロへの引上げを求めてきた労組や市民団体は歓迎の意を表している。

他方、一部の使用者や野党CDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)は反対を表明している。いずれも最低賃金の引上げに反発しているわけではなく、労使等で構成する最低賃金委員会の議論や勧告を経ずに、政治主導で引上げた手法が「労使自治への不当な政府介入」だとの批判を展開している。

雇用政策担当の政府報道官は、「最低賃金の引上げは男女間賃金格差を縮小し、低所得の人々を老後の貧困から守るのに役立つ」とした上で、「特に、飲食、清掃、小売など労働協約の保護の傘下に入れない人々にとって、今回の引上げは、社会制度に重要な職業に従事する人々を尊重していることの表れでもある」と述べた(Bloomberg)。

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