政治主導による最賃引上げ法案を閣議決定
 ―今年10月から時給12ユーロ

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2022年4月

ショルツ政権は2月23日、今年10月1日から全国一律の最低賃金を時給12ユーロに引上げる法案を閣議決定した。本来であれば、最低賃金委員会(公労使三者構成)を開催し、その勧告に従って、政府が最低賃金額の引上げを決定する。このような調整をせずに実施する政治主導の引上げ案に、使用者側は強く反発している。

引上げの背景

2021年12月8日に発足したショルツ新政権は、「社会民主党(SPD)」、「緑の党(Grünen)」、「自由民主党(FDP)」による大連立政権である。発足に先立ち、3党が合意した連立協定書には、「法定最低賃金を1回の調整で時給12ユーロに引上げる。その後、最低賃金委員会が、さらなる引上げについて判断する。貧困から労働者を確実に守る最低賃金と労働協約制度の強化に関する欧州委員会の提言を支持し、今後は決議を経て、新たな最低賃金法による最低基準の実現に尽力する」という今後の方針が明記されている。

ドイツが政治主導によって最低賃金を引上げようとする背景には、現在の最低賃金の水準が、ドイツの中位賃金(national median income)の48%にすぎないという事実がある。中位賃金の60%を下回る賃金は、EUでは「貧困に対して脆弱な水準」と判断される。ドイツで中位賃金の60%を満たそうとすると、時給12ユーロまで引上げる必要がある。

なお、現在の最低賃金は時給9.82ユーロで、最低賃金委員会の勧告に基づき、今年7月1日から時給10.45ユーロに引上げることがすでに決定している(図表1)。

図表1:ドイツの最低賃金(時給)の推移(2015年~2024年)(単位:ユーロ)
画像:図表1

  • 注:筆者作成(2022年10月以降は法案を元に作成)。

法案の概要

今回の法案によると、2022年10月1日から最低賃金を時給12ユーロに引上げた上で、その後15カ月間は額を据え置く。最低賃金委員会は、15カ月後の2024年1月1日以降の引き上げについて検討し、勧告を行うことになる。

なお、政府の推計によると、この引上げによる企業の賃金コスト増は、22年10~12月の3カ月間で約16.3億ユーロに上る。

法案は今後、連邦議会(下院)で審議され、連邦参議院(上院)の同意を経て、今年の夏頃の成立が見込まれている。

労組等は歓迎、使用者団体は反発

今回の法案について、数年来、時給12ユーロへの引上げを求めてきた労働組合(DGB)やドイツ女性協議会(Deutscher Frauenrat)は歓迎の意を表している。

他方、使用者団体(BDA)は、「政府は最低賃金を“生活給”に再定義しようとしており、本来国家が責任を負うべき国民の生活保障を、企業に追わせようとしている」と批判。その上で、現在の時給9.82ユーロから20%以上の引上げは急すぎる上、最低賃金委員会の調整を経ない引上げは「労使自治に対する重大な政治介入だ」と強く反発し、訴訟も辞さない構えだ。

ハイル労社相のコメント

現地の報道(Reuters)によると、前政権から継続して労働社会相を務めるフベルトゥース・ハイル氏(SPD)は、「最低賃金の引上げは、購買力を強化し、長期的に生産性を高めることにつながる」とコメントしている。その上で、「12ユーロへの引上げにより、介護分野やその他の低賃金サービス分野で働く多くの女性や旧東独地域の労働者を中心に、約620万人がその恩恵を受けるだろう」と説明した。

参考資料

  • 連立協定書(2021-2025)、ZDF、FT, Reuters BMAS, BDA, DGBサイト ほか

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