最低賃金額、2022年4月から9.50ポンド

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政府は、2022年4月に予定される最低賃金額の改定において、成人向け額を9.50ポンドとする方針を示した。経済や雇用の力強い回復などを背景に、コロナ禍の影響が勘案された昨年4月の改定よりも高い引き上げ率となった。

経済・雇用の回復を反映した引き上げ

法定最低賃金制度は、成人(23歳以上)向け(注1)の「全国生活賃金」と、これを下回る年齢層に対する「全国最低賃金」として、年齢階層別に3種(21~22歳、18~20歳、16~17歳)およびアプレンティス(見習い訓練参加者)向けの計5種類の最低賃金額で構成される(図表)。政府は、2024年までに全国生活賃金を統計上の平均給与額(中央値)の3分の2相当に引き上げるとの目標を掲げており、諮問機関である低賃金委員会が、これを達成することを前提に毎年の改定額を検討している。

前年の改定(2021年4月)では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響による景気の急激な落ち込みや将来的な不確実性への懸念から、引き上げ幅が抑制された。しかし、今回の改定にあたっては、このところの経済や雇用の力強い回復、また雇用維持スキーム(営業規制等の影響で一時帰休を要する従業員の賃金を補助)の9月末での終了後に想定されていた失業者の急激な増加もみられないことなどから、低賃金委員会は、政府目標の達成に向けた引き上げが可能との判断を示した。

新たな改定額は、全国生活賃金が時間当たり9.50ポンド(前年から59ペンス、6.6%増)、全国最低賃金の21-22歳向け額が9.18ポンド(82ペンス、9.8%増)、18-20歳向けが6.83ポンド(27ペンス、4.1%増)、16-17歳向けが4.81ポンド(19ペンス、4.1%増)、アプレンティス向けが4.30ポンド(49ペンス、11.9%増)となった(注2)。若年層の雇用状況は改善しているものの、20歳以下の層では最低賃金額の労働者の増加がみられ、引き上げによる雇用への影響が懸念されたことから、昨年に続き相対的に低い改定率となった。

図表:各最低賃金額の推移
画像:図表

  • 注:旧全国最低賃金(21歳以上)は、2016年4月の全国生活賃金(25歳以上)導入に伴い、21-24歳に対象が限定された。

生活賃金、ロンドンで11.05ポンド

前後して、民間の非営利団体が実施している「生活賃金」(living wage)についても、引き上げが公表された。政府による全国生活賃金とは異なり、最低限の生活水準を維持するために必要な生活費に基づく賃金の下限を算出して、雇用主に支払いを求める運動で、市民団体や教会、労働組合などが参加して設立されたLiving Wage Foundationが推進を担っている。18歳以上の労働者に一律に適用され、年齢等による減額はないが、住居費や物価の格差を考慮し、ロンドンとそれ以外の地域で異なる金額が設定されている。雇用主は自主的に参加して、Living Wage Foundationから「生活賃金雇用主」としての認証を受ける(注3)

今年の改定額は、ロンドンで時間当たり11.05ポンド(20ペンス、1.8%増)、ロンドン以外で9.90ポンド(40ペンス、4.2%増)。算定を担ったシンクタンクResolution Foundationは、2021年4月時点の物価上昇率を参照したことで、改定が控えめに留まったほか、ロンドン以外の地域では住宅賃貸料の上昇率がより顕著であったために、引き上げ幅に差が生じたとしている。

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