若年層の就労への復帰と課題
コロナ禍による影響をとりわけ大きく被った若年層の雇用は、経済活動の再開とともに速やかな回復がみられ、失業率もコロナ禍前を下回る水準まで低下している。しかし、コロナ禍により失職した層の間では、不安定雇用の増加や無業者の増加の兆し、またメンタルヘルスの悪化の傾向も窺え、引き続き支援が必要な状況にある、とシンクタンクのレポートは指摘している。
不安定雇用に従事しがち
シンクタンクResolution Foundationが1月にまとめたレポート(注1)は、雇用に関する調査(注2)を元に、コロナ禍で失職した層への影響を中心に分析を行っている。若年層の雇用は、コロナ禍の影響をとりわけ大きく受けたが、2021年に入って経済活動が再開したことに伴い、他の年齢層にさきがけて回復が進んでおり、懸念されていた大幅な失業者の増加も生じていない(注3)。レポートはこの状況について、雇用維持スキームにより一時帰休中の労働者の賃金が補助されたことが、雇用の著しい減少の回避や、就労へのスムーズな復帰につながった側面があるとして評価する一方、若年層の雇用は好調とする楽観論には懐疑的な見方を示している。
レポートはまず、若年層の失業の要因について分析している。コロナ禍前には仕事に就いていたが2020年2~3月に失職した18-34歳層のうち、失業または一時帰休による無就業状態が長期化(3カ月以上)した者の比率は23%で、特に18-24歳層では33%と3人に1人が長期化を経験している(注4)。主な要因となっているのは、失職時に従事していた業種がコロナ禍の影響を顕著に受けたか否か(65%)で、学歴や年齢、人種、性別による傾向の違いは相対的に小さい、としている。
また、2021年10月時点で就労に復帰している若年層のうち、33%が不安定雇用(注5)の状況にあり、この間に失職しなかった層における12%を大きく上回っている。コロナ禍前にも同種の不安定雇用に就いていたかは不明だが、安定雇用への移行が相対的に困難な状況に直面しているとみられる。なお、コロナ禍の影響を顕著に受けた業種で就業していた層では、他業種への転職比率が顕著に高い傾向にある(30%、その他の業種では14%)。
メンタルヘルスへの影響
失業あるいは満足に就業していない状況は、若年層のメンタルヘルスのリスクにもつながっている、とレポートは述べる。調査結果によれば、「一般的な精神障害」(common mental disorder-うつ病性障害、双極性障害、パニック障害など)を抱えていると回答した若年層の比率は、平均では51%だが、直近3カ月間について、失業している者では64%、非典型雇用に従事している者でも62%に上る。さらに、追加の仕事を探している者では70%、新たな仕事を探している者では68%と高く(仕事を探していない者では45%)、雇用の有無や求職活動との関係が窺える。
レポートは、若年層の雇用が回復している状況を歓迎しつつも、コロナ禍の長期的な影響について楽観的な見方をすべきではないとして、3点を指摘している。一つは、コロナ禍の期間における失業が、将来の雇用や賃金にマイナスの影響を及ぼす可能性があること、二つ目に、就労に復帰した層は非典型雇用に従事しがちであること、三つ目に若年無業者に増加の兆しがみられること、である。このため、若年層の就労復帰の促進にあたり、政府や雇用主に対して、教育訓練等の支援や、質の良い雇用の提供などを求めている。
注
- ”Leaving Lockdown”(本文へ)
- 18-65歳層6100人を対象としたオンライン調査で、2021年10月時点の状況を調査対象としたもの。(本文へ)
- 統計局が公表する労働市場統計によれば、18-24歳層の失業率は、2020年2-4月期の11.2%から、2021年9-11月期には9.8%に減少している。(本文へ)
- 25-34歳層では19%で、若年層の間でも境遇に大きな開きがあることが窺える。(本文へ)
- 臨時雇用契約、ゼロ時間契約、派遣労働または不定期労働。(本文へ)
参考資料
2022年4月 イギリスの記事一覧
- 地域間格差の縮小に関する白書
- 若年層の就労への復帰と課題
- 最低賃金額、2022年4月から9.50ポンド
関連情報
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