「団結権保護法」制定に向けた政権対応

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民主党のバイデン政権は労働者、労働組合の権利保護を強化する方針をとる。3月9日には「2021年団結権保護法案(Protecting the Right to Organize Act of 2021、PRO法)」 が与党民主党などの賛成多数で下院を通過した。だが、与野党が拮抗する上院での可決は難しく、同法案の一部(罰金の導入)について、予算関連法案に組み込み先行的な法制化を目指している。

3月に下院で可決

PRO法案は下院を賛成225、反対206で通過した(共和党から5人賛成、民主党から1人反対)。同様の法案は民主党が野党時代の2019年にも提出され下院を通過したが、上院では可決できず、政権交代後にあらためて議会に提出されていた。

同法案は全国労働関係法(National Labor Relations Act, NLRA)を改正するもので、主な内容は次のとおりである。①「契約上も実際も、業務手法について使用主体から管理や指示を受けていない」など三つの条件を満たさずにサービスを提供する者は個人請負(independent contractors)ではなく、雇用労働者(employee)とみなす、②共同雇用(joint employer、複数の企業が共同で同一の従業員の雇用上の管理を行う形態)の概念の拡大、③労働権法(right-to-work laws)を許容する条項の廃止(後述)、④組合選挙における公正の確保(雇用主施設外の中立的な環境下での実施や電子投票の解禁等)、⑤ストライキ参加者を他者に、恒久的に置き換えることの禁止、⑥NLRBの命令違反(従業員の権利の侵害)に対する民事罰(罰金)の導入⑦強制的仲裁合意(mandatory arbitration agreements)の禁止。

①は「ギグワーカー」、②はフランチャイズ契約や下請けの労働者などを雇用労働者に区分し、同法に基づく権利保護の対象者を拡げる狙いがある。⑦の「強制的仲裁合意」とは、紛争発生時の解決手段を訴訟ではなく、中立的な第三者による仲介とすることを雇用契約に含むもの。労組などは「裁判に持ち込めないことが事件を隠蔽し、紛争発生の温床になっている」と批判し、禁じるよう求めている。

「労働権法」の無効化目指す

米国では「排他的交渉代表制度」が採られており、対象の職場で認証された労働組合が、組合員であるかどうかを問わず、全ての労働者を代表して使用者と交渉する。合意した労働協約はその職場の全労働者に適用される。

NLRAは雇用開始後、所定期間内 (雇用開始または協定締結から30日以上の猶予期間内)に組合員になることを雇用条件とする「ユニオン・ショップ協定」を一定の条件のもとで認めている。これにより、定期組合費や加入金が不払いの者は解雇の対象になり得る。

ただし、NLRAには「ユニオン・ショップ協定」を州法で禁じることを容認する条項が存在する。全米州議会議員連盟によると、2021年11月現在、南部や中西部を中心に27の州とグアムがこうした「労働権法」(注1)といわれる州法を制定している。これらの州では、労組が交渉で得た労働条件等を、組合費を払わない従業員も無償で享受できる、いわゆる「フリーライド」の問題が生じる。PRO法案はこの容認条項を削除し、各州の「労働権法」を無効化することも狙いとする。なお、組合結成投票のあったアマゾン社倉庫のあるアラバマ州は「労働権法」を設けている州であり、労働組合の結成が、全ての従業員に組合費の支払いを生じさせるものではなかった。

「より良き再建法案」に一部盛り込む

PRO法案に対しては、全米商工会議所が3月8日に「米国の労働政策を根本的に書き直し、1935年制定のNLRA以降存在していたバランス感覚、雇用主の基本的権利を排除するものだ」と批判するコメントを発表するなど、経営者を中心に警戒感が強い。法案の成立(上院での可決)には経営者団体を支持基盤とする野党共和党の議員からも一定の理解を得る必要がある。

バイデン大統領は3月31日に発表した「米国雇用計画(American. Jobs Plan)」で、公正・安全で労働条件の良好な雇用の場を創出する観点から、PRO法制定の必要性に言及した。だが、与野党の議席が拮抗する上院でPRO法案が採択される可能性は低いことから、同計画に掲げた政策などを予算法案化した「より良き再建法案(Build Buck Better Act)」(注2)にPRO法案の一部(罰金の導入)を組み込み、その実現を目指している。罰金は雇用主による不当労働行為の違反ごとに最大50,000ドルで、解雇や従業員に深刻な経済的危害をもたらす違反、または5年以内に同様の違反を犯した場合、最大100,000ドルを科すものとしている。「より良き再建法案」は11月19日に下院で可決されたが、上院での審議は難航する見通しであり、実現への道のりは依然として険しい。

参考資料

  • 荒木尚志(2015)「アメリカにおける労働権州の 拡大とMembers-only Unionをめぐる議論」 『世界の労働』2015(2). 中窪裕也(2010)『アメリカ労働法(第2版)』 弘文堂 全国労働権法委員会、全米商工会議所、全米州議会議員連盟、大統領府、 ニューヨークタイムズ、ブルームバーグ通信、 連邦議会、各ウェブサイト

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