食肉産業の業種別最賃渉
 ―4段階の引き上げで合意

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2021年10月

食肉産業労使の「食品・飲料労組(NGG)」と「食品産業協会(VdEW)」の最低賃金交渉が妥結し、2021年8月1日から約2年半にわたり4段階の引き上げを行うことで合意した。今後、一般的拘束宣言(注1)により、食肉産業に従事する約16万人がその恩恵を受けることになる。

業種別最賃とは

全産業に適用される法定最低賃金(時給)は現在9.60ユーロで、2022年までの段階的な引き上げが決定している(表1)。ドイツには、これとは別に業種別最低賃金が複数の業種で存在する。労働組合と使用者団体が交渉をして労働協約で自主的に定めるもので、労使の要請に応じて連邦労働社会省(BMAS)が一般的拘束力宣言を発令する。これにより当該業種の全事業所(労働協約に拘束されない事業所を含む)に業種別最低賃金が適用される。

表1:全国一律の法定最低賃金(時給)
時期
2021年7月1日~12月31日 9.60ユーロ/時間
2022年1月1日~6月30日 9.82ユーロ/時間
2022年7月1日~12月31日 10.45ユーロ/時間
  • 出所:BMAS, EFFAT(2021)を基に作成。

妥結した食肉産業の業種別最低賃金

今回合意された食肉産業の業種別最低賃金(時給)は、2021年8月1日から10.80ユーロが適用され、以降、2022年1月1日から11.00ユーロ、同年12月1日から11.50ユーロ、2023年12月1日から12.30ユーロの4段階に分けて引き上げられる(表2)。

表2:食肉産業の業種別最低賃金 (時給)
時期
2021年8月1日~12月31日 10.80ユーロ/時間
2022年1月1日~11月30日 11.00ユーロ/時間
2022年12月1日~2023年11月30日 11.50ユーロ/時間
2023年12月1日~2024年11月30日 12.30ユーロ/時間
  • 出所:BMAS, EFFAT(2021)を基に作成。

食肉産業で働く者の多くは、2021年7月時点で、時給9.60ユーロの法定最低賃金で働いているが、その額を起点とした場合、約2年半で28%の高い引き上げ率になる。

なお、今回の労使合意は、内外の注目を集めたが、その背景には2020年に各地の食肉処理工場で相次いだ新型コロナウイルスのクラスター(集団感染)と、そこで働く労働者の待遇改善に向けた法改正が少なからず影響している。

外国人労働者の労働実態に批判集中

2020年は、複数の食肉処理工場で新型コロナウイルスの集団感染事例が相次ぎ、その要因を探る過程で、そこで働く外国人労働者に対する搾取的な労働条件や生活環境に衆目が集まった。主な契機となったのは、2020年6月に起きた西部のノルトライン=ヴェストファーレン州ギュータースロー郡の食肉処理工場労働者7000人のうち1553人が新型コロナウイルスに感染した事例である。Deutsche Welleによると、感染者の多くは東欧出身の外国人労働者で、工場を保有する食肉企業には直接雇用されず、派遣会社や下請け業者により間接的に雇用されて働いていた。また、長時間労働の常態化、残業代の未払い、使用者による法定傷病休暇の取得拒否、抗議者の即時解雇なども横行していた。さらに、仲介業者は現地の空き家を買い取り、「寮」として外国人労働者から相当額の寮費を徴収していたが、台所や風呂、トイレは清掃が行き届かない不衛生な中で大勢が共用し、クラスターが発生しやすい状況だった。こうした外国人労働者の過酷な実態が広く知れわたり、食肉企業や仲介業者に批判が殺到した。

労働保護管理法施行と今回の妥結

そこで、メルケル連立政権は2020年7月29日に、従業員50人以上の食肉企業を対象に下請(Werkverträge)利用の禁止や、派遣(Leiharbeit)利用の大幅な制限、寮の最低基準等を定めた「労働保護管理法(ArbSchKonG)」案を閣議決定し、審議を経て、2021年1月1日から施行した(注2)

今回の労使交渉は、このような待遇改善の機運を追い風として行われ、今後2年半で3割近い最低賃金引き上げの合意につながった。

参考資料

  • BMAS, EFFAT, IUF, WSI, Deutsche Welle ほか。

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